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15/5/15

【第14話】『人の望みか、自分の意志か。』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

Image by Olia Gozha



7日目…


昨日の到着が遅く、今日はゆっくり目のスタート。


昨日買った足のサポーターを装着した。


テーピングの時間の短縮はもちろんのこと、しっかりとホールドしてくれている。


いい感じだ!



フロントへ行き、チェックアウトをする。



おばちゃんともお別れだ。



僕「サンマの炊き込みご飯、めちゃめちゃ美味しかったです!」


おばちゃん「あれでお腹足りた?」



おばちゃんとしばらく話した後、おばちゃんは最後にこう言った。



「あなたなら大丈夫!」


「神様は全てを見てくれているの。」


「困った時はちゃんと助けてくれるのよ。」



そして、一つのビニール袋を僕に手渡した。



そこには、アルミホイルに包まれたおにぎりが2つと、みかんが一つ入っていた。


どちらも特大の。



「いいんですか?」



昨日のサンマの炊き込みご飯も頂いてしまっているのに、朝ご飯まで頂いてしまうとは…。


改めて言うが、僕は素泊まりプランで宿泊をしている。


お金も払っていないのに、


正直、気が引ける…。



しかし、ご飯を頂けるのは物凄くありがたい。



僕は、おばちゃんの素晴らしい好意に甘えることにした。



「ありがとうごさいます!」


「本当に助かります!」




精一杯の感謝を伝えた。




僕の気が引けたのは、借りを作りたくなかったからだ。


自分の価値以上のことをされると、申し訳ない気持ちになる。


僕は、素泊まり以外のお金は払っていない。


なのにも関わらず、昨晩と今朝のご飯を頂いてしまった。


確実に、

あげた価値 < もらった価値

だ。


もらった価値は、返さなければならない。


だから受け取ることに気が引けた。


でも、今の僕には返せるだけの価値を持っていない。


お金も無ければ、働いて返す時間も無い。


そして、思った。


おばちゃんが僕に言ってくれた、


「あなたなら大丈夫!」


これを証明しようと。



僕は、うつ病に打ち勝ち、元気になって、

またここに戻って来ようと決めた。



あの時、おばちゃんが僕に


「あなたなら大丈夫!」


って言ってくれたおかげで、


「僕は元気になりました!」


って伝えに来よう。


そう決めた。


僕があげられる価値は「これだ!」と思った。


時間はかかるかもしれないが、僕に出来る一番の恩返しだと思った。



僕は、借りを作るのは嫌いだ。


でも僕は思う。


もらった価値より、ほんの少しだけでも

多くの価値を与えることが出来たら、それは連鎖する。


同じだけの価値を与え合うならば、その場で終わってしまうことも、

片方がほんの少しだけ多く与えれば、相手はそれを返そうとする。

そしてまた、相手にほんの少し多くを与える。

ほんの少しが連鎖して、最終的には物凄い大きさの価値になる。



僕は、おばちゃんから多くの価値をもらった。


だから、さらに多くの価値を返すために戻って来るよ。


胸張って、


「おばちゃん、あの時は本当にありがとう!」


って伝えるために。



そのためにも、何としても僕は変わらなければならない。


弱い自分に勝たなければならない。


ゴールに辿り着かなければならない。



さあ、今日もスタートだ!





「頑張って来なさい。」



「行ってきます!」



そう言って、おばちゃんとお別れをした。








今日の天気は雨。


10月下旬の長野、冷たい雨が降りしきる。


出発して30分を過ぎた頃には、靴の中はもうグチョグチョになっていた。


今日は、長野自動車道の高架下の住宅街を歩き、

千国街道という、日本海まで続く一本道へ出る。



僕のゴールは確実に近付いていた。


と同時に、僕の旅は確実に終わりに近付いていた。



雨の降り続く中、代わり映えのしない景色をひたすら歩く。


荒れた道路に溜まった水溜まりに車が通り、

何度も何度も水を被りながら、独りただひたすら歩き続ける。


雨の日は、画面に水滴が付いて、スマホが使えない。

どこを歩いてるのかも分からぬまま、ただ目の前に続く道を進んだ。



雨の日は、何ともブルーな気分になる。

人なんて誰一人歩いていない。

車が通る度に、浴びせられる雨水を受け、惨めな気持ちになった。



「僕は変わったか?」


「強くなったか?」


「この旅で何を得た?」



こんなことを考えた。



返ってくる答えは、



「分からない…」



だった。



長野自動車道の高架下のトンネルで、

おばちゃんからもらったおにぎりを食べた。


感謝の気持ち、独りで寂しい気持ち、

答えが見付からない焦り、様々な感情が入り混じり、

涙が溢れ出てきそうになった。



「おばちゃん、本当にありがとう。」



僕はこんなところで負けてはいられない。


雨だろうが、それは地球上の全ての生命が生きるために必要なことなんだ。


僕にだって、必ずエネルギーになるはずだ。





「全身で受け止めてやるぜ!」


丁重に「ごちそうさまでした。」を言い、

食べ終わった後のアルミホイルを握り潰し、僕はまた歩き出した。




ずっと前から知っていた…



僕が歩く時に欠かせないものといえば、


「音楽」だ。



今日もお気に入りのプレイリストを聴きながら歩いている。


音楽は不思議だ。


聴く度にカタチを変える。


状況や、時間が経つに連れて、捉える意味が変わる。



イヤホンから19が流れた。


「西暦前進2000年→」


僕がギターを始めたのは、小学校6年生の時。


19とゆずが好きだった。


ストリートミュージシャンになりたくて、

御茶ノ水まで行き、父親にギターを買ってもらった。


初めて買ったCDも19だった。

中古だったけど。


その中でもこの「西暦前進2000年→」という曲が好きだった。


小学校6年生の僕は、歌詞の意味なんてよく分からないけど、

5個上の姉ちゃんが、「すごく良い曲」だと言っていたから好きだった。


数年の間聴いていなかったけど、ただ好きだという理由でプレイリストに入れていた。


そして、ただ好きだったこの曲が、

この日、このタイミングで聴いたことで、特別な曲へと変わる。


僕の人生で、欠かすことのない特別な曲へとカタチを変わる。



「ずっと外を生きてきたけど、答えなんて何もなかった。」


「人目なんてどうでもいいよ。ずっと僕は大切だから。」


「外へ外へ逃げてきたけど、今を生きる繰り返すこと。」


「前へ前へ生きていくこと、そしてそれを繰り返すこと。」




僕は、ずっと逃げてきた。


仕事から、家族から、友達から、環境から、何より自分自身から。


何もかも分からなくなった。


自分の気持ちさえも。


そして、旅に出た。


僕のことなんて誰一人知らない、外の世界を歩き続けてきた。


ただひたすら前へ前へ、歩き続けてきた。


それでも、答えは見付からない。


ただ、僕は今、生きている。




僕は、この時もまだ、罰を受けようとしていたのかもしれない。


自分が過去にしてきたことへの罰を。



自分が傷付いたこと < 相手を傷付けたこと



だと思っていた。



だから、誰よりも傷付けば、借りを返せる。


相手を傷付けた以上に僕が傷付けば、僕は悪者にならない。


そう思っていた。



ただ今日も生きていることに罪悪感を感じていた。



でも、


「ただ生きる」


それだけでも価値のあることなんじゃないかと思えた。


「それを繰り返す」


特別何かの答えが無くても、


「ただ生きることを繰り返す」


これが答えなんじゃないかと思った。


「答えの無いことが、答え」


なんじゃないかと思った。



ずーっと前からこの曲は知っている。


「ただ繰り返す」


ずーっと前からやり方は知っていたはずなのに…


僕は今の今まで、それが「答え」だとは思えなかったよ。


正直、100%「それが答えだ!」とはまだ思えない。


でも、「答えなのかもしれない。」とは思う。



やっぱり、「答え」はゴールしなければ分からない。



僕は100%納得の出来る答えが欲しいんだ。



99%でもダメなんだ。


たった1%でも疑問が残っちゃダメなんだ。


100%納得しなきゃダメなんだ。



僕は、ゴールをイメージした。


日本海へ辿り着く。


見えるのは、一面の海。


僕は何とも言えない達成感で満ち溢れている。


しかし、そこで待っている人は誰もいない。


そう思うと悲しくなった。




この旅は、僕以外、誰も望んでいない。


「人が望んでいないことを続けることに価値はあるのか?」


でも、僕は知りたいんだ。


知らなきゃいけないんだ。




雨の降り続く中、僕は独り、

答えの無い答えを探し続けた。



歩いた証…



雨の日は本当にしんどい。


住宅地では、屋根のある休めるところがほとんど無い。


長時間冷たい雨に浸かった足は、しもやけのようになっている。


寒いとトイレが近くなる。


しかし、トイレは無い。



だから僕は、歩いてきた証を残したんだ。



白状します…



何度かマーキングしました…



ごめんなさい。



でも、雨だからキレイに流されるでしよ?笑



………。






ごめんなさい…。



満室です…



時刻はもう19時。


雨はまだ降り続いている。


足も限界。


そして寒い。


しかし幸いなことに、今日は泊まる宿を決めていた。


今日は1日雨だと分かっていたため、前日にちゃんと下調べをしていたのだ。



少しは学習してるでしょ!笑



場所は安曇野豊科駅の近くの宿。


2日目のルートインコート山梨のお姉さんにもらったパンフレットに、

安曇野市にもルートインがあることが分かった。


しかし、空室状況を調べてみると、なんと満室…。


満室じゃ仕方ないので、付近の宿を探してみると、

ルートインの向かいにも宿がある。


しかも、こっちはかなり安い。


僕は、ここに決めていた。



そして、今日も瀕死寸前で宿に辿り着いた。


ほとんど休憩をしなかったから、

もう夜ご飯も買いに行く気力も体力も無い。



灯りは点いてる。



よっしゃ、やっと休める!



「すみませーん!」



ガラガラと引き戸を開け、声をかけた。



「はい!」



奥の方からおじさんが出て来た。



玄関の下駄箱はたくさん空いている。


「今日、泊まりたいんですけど、部屋空いてますか?」


分かりきった質問をした。


「………。」


「今日は満室です。すみません。」


それはそれは何とも面倒臭そうにそう答えた。




「嘘だろー!!!!」




と叫びたくなったが、


満室って言われちゃったら、反論のしようがない。


「そうですか…ありがとうございます。」


と言って、戸を閉めた。



「絶対嘘だろーっっっっっつ!!!!」



きっと全身びしょ濡れの僕を見て、面倒臭い客だと思ったのだろう。

※日曜日だったから、本当に満室だったのかも…。



「けっ!こんなとこ、こっちから願い下げだぜっ!!」



僕はムカッとした。


いや、かなりムカッとした。



しかし、ムカッとしている場合じゃない。



「宿が無いっ!!!!」



ピンチである。


今日はずっと雨なのに、宿が無いのである。


テントも無いのである。


大ピンチなのである。



とりあえず、少しでも可能性を信じようと思い、

前日に満室だった向かいのルートインに

ダメ元で部屋の空きがあるか聞いてみることにした。


この際、ツインでもダブルでもいい。


「「すみません、今日部屋空いてますか?」」

「「お一人ですか?」」

「「そうです。」」



何やらフロントのお姉さん2人は、部屋状況の画面を見ながら相談をしている。



「「一部屋空いてます。」「ただ、他のお部屋より少し狭くなってしまうのですが…」」

「「本当ですか????」「泊まれれば何でもいいです!!」「昨日調べたら満室だったので、絶対空いてないと思っていたんですけど…」」

「「日曜日なので、いつもは満室になるんですけどね。」「一部屋だけ空いてました!」「よかったです。」」


いやいや、よかったのは僕ですよ。


ルートインのお姉さんは優しかった。


癒しだ!!!



いや、それより


奇跡だ!

奇跡が起きた!


満室ってなってたのに、今日も一部屋だけ空いていた。


神様はまた僕を助けてくれた。



「「ありがとうございます!お願いします!」」




僕の泊まる部屋は入り口に1番近く、多分普段は使わない部屋なんだと思う。


でも、びしょ濡れの僕を見て、緊急事態だと判断し、使わせてくれたのだと思う。



びしょ濡れの僕を見て、宿泊を拒否した向かいの宿と、

びしょ濡れの僕を見て、部屋を用意してくれたルートイン。



各地にシェアを広げた理由が分かるぜ。



しかも、このルートインは朝食付きだ!



和食と洋食が選べる。


僕は、和食をチョイス!


エネルギーを付けるなら、やっぱり米だよ!米!



部屋に入り、全身びしょ濡れになった服をハンガーに掛けた。


ザックの中の寝袋や着替えも濡れてしまっていた。


この部屋には空気清浄機も付いている。



「明日までに乾いていますように!」



荷物を全部広げて、僕は大浴場に行った。


大浴場までのほんの数メートルの距離でさえも、

まともに歩けないほど身体はボロボロだった。


脱衣場の洗濯機に洗い物をぶち込み、お風呂に入った。



「お風呂は心の洗濯よ!」



ミサトさんがそう言ってたように、

芯まで冷え切った身体は、お風呂で癒された。



「今日も、神様に助けてもらったな。」



そう思った。


おばちゃんのおにぎりに始まり、19、そしてルートイン。


全く予想も出来ない、奇跡とも思える出来事が実際に起きている。


僕は、


「目には見えない何かに確実に守られている。」


そう感じていた。


神様か、死んだじいちゃんか、死んだ友達か…


大げさに思われるかもしれないが、そう感じざるを得なかった。


いや、もしかしたら、

そう思っていないと怖くて前へ進めなかったのかもしれない。


でも、どっちにしろ、

僕に前へ進む勇気、

そして、生きる力を与えてくれていた。



人の望みか自分の意志か…



自販機にあるカップヌードルを買い、

出来る上がるまでの間、テレビの天気予報を見た。



また台風が近付いてるらしい。



また危険が迫っているらしい。




僕が危険な目に合うのは、自分自身全く問題の無いことだ。


むしろ、限界に行き着くためには危険は必要不可欠だ。


しかし、僕が危険な目に合うことで心配をさせてしまう人たちがいる。



「人が嫌がることをしていいのか?」


「人に心配をかけてまで、前に進むべきなのか?」




でも、僕は前に進みたい。


たとえそこで倒れたとしても、

僕が決めたことだから後悔はしない。




人の望みか、自分の意志か…




きっとどちらも正解なんだと思う。


でも、今までずっと人の望みに応えられるように生きてきた。


そろそろ自分の為に生きてみたっていいんじゃないか?



自分の為だけに、決断して、


自分の為だけに、行動して、


自分の為だけに、生きる。




僕は、ずっとそうしたかったんだ。



この旅のルールは、


「絶対に後悔をしないこと」


だ。


「あの時、あぁしてれば…」


なんてことは何一つあってはならない。


すべて自分で決めて、自分で責任を取る。


その責任が、たとえ死であっても。



まだ答えは見付かっていないんだ。


どんなに心配を掛けたって、喜ぶ人が誰もいなくたって、


僕は前へ進むよ。


必ず「答え」を見付けるから。



いざ、日本海へ!



現在地は長野県安曇野市。


塩尻から糸魚川まで続く、千国街道。


そう、最終ゴールの新潟県糸魚川市、

日本海まで続いている道なのだ。


この道を行けば、必ず日本海に出られる。



やっとここまで来た。



まだ先は長いが、僕は本当に日本海へ行く。



「僕の限界は…?」



まだ見えない。



もっと、もっと、追い込まないと。


もっと、もっと、感じないと。



どんな経験も、どんな感情も、絶対に意味のあることだから。


どんなに辛くたって、神様が助けてくれるから。



人間だって、地球の一部なんだ。



動物界で弱肉強食があるように、

人間が生まれ、死んでいくことだって自然の摂理なんだ。



死ぬ時は死ぬ。



神様が僕に死を与えるなら、それは地球規模で考えれば正解なんだ。


それが僕の運命なんだから。


運命が決まってんなら、死ぬまで前へ進むしかないでしょ!


納得いくまで、生きるしかないでしょ!


明日死ぬかもしれないけどさ、

それでも僕は、僕が納得した道を進みたいよ。




それが僕がずっと欲しかった


「答え」


だからさ。



台風でも何でも来やがれ!


死ぬまで前へ進んでやる!!



つづく…




7日目の成果!!


【歩数】


34046歩


【消費カロリー】


1157.5kcal


【歩いた距離】


23.83km


【歩いた時間】


11:00〜19:10








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