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15/5/2

中2で補導されたヤンキー少女が、美容師を目指して公立高校合格を勝ち取りとうとう学年1位の点数を取った話

Image by Olia Gozha

「チュッパチャプス食べてるんだけど、どーしたらいいの?」

塾の講師として長年やってきたし、受け持った生徒は高校合格に導いてきた自負もある・・・


が、

そんな自尊心を打ち砕くには充分インパクトのある出会いでした。

最初に“その子”を見たときの感想

「チュッパチャプス食べてるんだけど、どーしたらいいの?」


「未知との遭遇」という言葉がぴったりだったかもしれません。



とにかく、初対面は、目をパチクリさせるベテラン塾講師とチュッパチャプスを舐める女子中学生。そんな感じでした。



初対面

“その子”が来たのは、冬の寒さが身に染みる時期。

教室内は活気で溢れていましたが、一歩外にでれば吐息が真っ白になります。


ちなみに、うちの塾では4回の無料体験やってるんです。

4回のうちに相性の合う先生を見つけてもらうため。先生と生徒の相性が合わないと、お互い、いいことないですからね。


で、“その子”も無料体験を受けに来たんです。

当時のことは鮮明に覚えています。忘れられません、衝撃的だったので(笑)


ある日、ドアを開く音と一緒に「こんにちは~」という声が。

“その子”のお母さん「こんにちは~」

私「こんにちは!寒い中ありがとうございます。」

お母さん「あの~先生、うちの娘本当に勉強嫌いで、だから今日は無理やり連れてきたんですが・・・」

私「そうだったんですね。まあ、勉強好きっていう子のほうが少ないですからね。」

お母さん「宜しくお願いします。」

私「こちらこそ宜しくお願いします。今日は体験なので気軽に受けてみてください!」


ごくごく普通の挨拶でした。

そして案内しようとした時、お母さんの後ろからひょっこり出てきたのが“その子”です。


とっても優しい目をしていて、しっかりお辞儀をしていたのを覚えています。


ただ・・・



明らかに勉強嫌いオーラまる出し。憎き敵を見るが如し。


そして、お耳には派手なピアス、お口にはチュッパチャプス。




(ちょっと待てちょっと待て。あれ?中2の子だよな今日の体験って?)


(初めての塾に飴舐めて来る中学生っているのか!?)


(飴捨てさせるか?いや、待て、それは可哀想か、あんなに美味しそうに食べてるのに)


(チュッパチャプス食べてるんだけど、どーしたらいいの?)



“その子“は何者か

“その子”は、どちらかというとヤンキーな子でした。

学校では遅刻・欠席の常習犯。

勉強嫌い、学校嫌い、夜遊び大好き!(あとチュッパチャプスも!)といった感じ。

そんな娘を見て、お母さんも当然のように心配していたようです。

というのも、中2の秋、塾に来るちょっと前ですね、“その子”は補導された経験があるんです。


ある日“その子”は夜遅く、誰にも言わずに家を出て行きました。

いつものことです。友達と繁華街で遊ぶため、夜の街に繰り出すのがお決まりでした。

確かに中学2年生の子にとって、夜の街は魅力的かもしれません。


とはいってもお金もなければ、遊べる店もたかが知れてます。

そして、暇をつぶすため友達とプリクラを撮り、コンビニの前でたむろしていた夜11:30、警察に呼び止められ補導されてしまったんです。


一番びっくりしたのはお母さんです。夜遅くに警察から電話がかかってきたんですから。

「お手数をおかけして申し訳ありませんでした。ほら謝りなさい!」

ひとしきり謝った後、家に連れて帰りました。


この事件があったのが中2の秋です。


実はこの頃、学校の先生ともうまくいっていませんでした。


後から聞いた話なのですが、「行ける高校なんてない、もう来なくていい!」とまで言われてしまったことがあったようです。

それほど目に余る生活態度だったのでしょう。


でも、“その子”と最初の授業をした時、「行ける高校がない」なんて全く思いませんでした。

もちろん成績は非常に悪かったのですが、そんなこと関係ありませんでした。


“その子”は素敵な夢と、何より、それに向かって努力できる素敵な心を持っていたからです。

お世辞でも何でもありません。

結局、夢とか目標があって、それを実現するためにどれだけ努力できるかが大切だと思うんです。

周りからヤンキーと見られたとしても、“その子”は人間にとって大切なものをしっかり持っていました。



最初の授業

さて、衝撃的な出会いから落ち着きを取り戻した後は、いよいよ始めての授業。


どの部分から教えようか・・・

苦手な分野からやってみるかな?

それとも得意な分野で自信をつけさせるか!


そんなこと全く考えてませんでした。

実は、授業が始まる頃には“その子”に興味津々。勉強そっちのけで話がしたくて仕方なかったんです。

最初の「衝撃」は完全に「興味」に変わってました。


あっ、ただ、私情を優先させた訳ではないですよ。

今までの経験からの判断でもあります。

そもそも、夜遊びで補導され、学校の先生に否定され、チュッパチャプスを舐めて来る子に、「じゃあ今から勉強してみようか」という方が無理がある。


私は塾講師の仕事に就いて以来、初めて塾に来た子の様子をしっかり観察することにしています。そうすれば、だいたいどんな子か分かってきます。

“その子は”初対面でしっかりお辞儀が出来ていました。持論ですが、たくさんの生徒を見てきて思うことは、お辞儀ができる子は素直な子、ということです。


実際“その子”も素直な子でしたので、最初の授業で強制したら勉強してくれたと思います。

ただ、それじゃあ全く意味がないんです。授業の間だけ勉強して、後は元通り。勉強のハードルは更に高くなると思います。


肝心なのは、心を開かせること、応援してくれる・味方でいてくれる大人がいると感じてもらうこと、です。素直であればあるだけ、相手に報いようとする気持ちも強い。こちらが本気で取り組めば必ず応えてくれるんです。


ですので、最初の授業はコミュニケーションを取ることだけ考えていました。



“その子”の夢

「よし!じゃあ今日から担当します!宜しくね!ところでさ、夢ってある?」


「へ?」


これにはさすがにキョトンとしてました。塾に来ているのに、最初の挨拶で夢を聞かれるとは思っていなかったのでしょう。


「夢?よく分かんないけど、てか勉強するんでしょ?」

勉強するんでしょ?って勉強嫌いなのに意外なことを言います。

「勉強より夢の話の方が楽しくない?夢あるでしょ教えてよ!」


しばらく渋っていましたが、観念したのか、ポツリと一言。



「うーん・・・」



「美容師、かな」


小さな声でしたが、はっきり答えてくれました。

「でも、高校卒業して専門入んなきゃだし、勉強できないから無理」

それを聞いて、思ったこと。


「なれる」



確信に近いものでした。

凄いことですよね?ちゃんとした夢があって、実現するにはどうすればいいかを知っていたんですから。

どんなに勉強が苦手でも、どんなに学校の先生に否定されても、めげることなく夢を持ち続けていた証です。

勉強が障害になっているなら、それを取り除く手助けをしてあげる。それが講師の役目です。



「君がやると約束するなら、全力で応援するよ」



これが“その子”との最初の授業です。特に勉強の話をする訳でもありませんでしたが、高校合格を目指すうえで、重要な時間だったと思っています。



ちなみに後日談ですが、お母さんと“その子”の3人で話をしたことがありました。

正直な話、専門学校に行くには結構な金額がかかります。

今までの“その子”の生活を見ていたらお母さん反対するかもな~、なんて思っていましたが、お母さんが一番の理解者になってくれました。

公立高校合格のため、塾への送り迎えから精神面のサポートまで、全力でサポートしていただいたのを覚えています。

当時を振り返ると本当に頭が下がる思いです。お母さんの大きな支えは“その子”も感じていたのではないでしょうか。



順調な滑り出し

塾に通いだしてからの努力は目を見張るものがありました。


自分の夢を初めて肯定する人間が現れて、気持ちが前向きになったうえに、もともとの素直さもあったのでしょう。

当初1年生の問題すら解けなかったのが、どんどん学習した内容を吸収していきました。

宿題も欠かさず、授業以外の日も自習に来ていましたから。



とは言っても、まだまだ合格には及びません。


スタート地点が周りより低いので、相当な努力をしないと追い越すことができないのは当然です。

周りの子も受験を控え勉強し始めているので、“その子”にとってはちょっとの遠回りが大きなロスになります。


そして、同じところを3回連続ミスするなどの天然も挟みつつ、とうとう中3の中間テストを迎えました。


このテスト、実は非常に重い意味を持ちます。

時期的にというのもありますが、必死で勉強して臨む初めてのテスト、という事実のほうがよっぽど重要です。


人間誰しも自分の努力が報われないのは辛いもの。テストなんか、もろに数値として出るので分かりやすいんです。

“その子”も遊びたい気持ちを必死に抑えながら机に向かっていたのですから、今回ばかりは期待するでしょう。

ここで、もし点数が取れなかったら全てが水の泡。最悪の場合、美容師の夢を諦めてしまう可能性も。



学校終わりに塾へ来た“その子”の報告


「先生やばい!点数あがった!(笑)」


何がやばいのかは分かりませんが、めちゃくちゃ爆笑しながら言ってくれました。それだけの努力はしていたので私も嬉しい反面、ほっとしたのも事実です。



とにかく、公立高校合格に向けて、上々の滑り出しでした。



勝負の夏

確実に実力をつけてきたと実感できる頃、天王山である夏を迎えました。

何人もの生徒を見てきて思うことが、この夏をどう過ごすかが重要、ということ。


ただ、誰でも夏が重要なんてことは分かってるんです。


「重要なのは分かるけど何すりゃいいの!?」これが本音。

この時期、保護者の方からこういう質問が本当に多くでます。


「休みだから勉強時間をいつもより多く確保する」

これが出来ればいいのですが現実はそんなに甘くありません。最終学年で部活にも気合が入ってるでしょう。意外と時間なんてないんです。

そして、一番気をつけなければならないのは、夏は誘惑が多い、ということ。

中3の夏なんて青春の代名詞みたいなものです(個人的意見が大いに混ざっていますが)。もう楽しいことだらけ。

勉強なんかどうでもいいから青春したい!これが普通の感情だと思います。


だから夏の過ごし方で重要なのは

「油断しないこと」なんです。

別に勉強時間を増やさなくていいんです。今まで通りの勉強をしっかりこなすことが重要です。

せっかく定着した習慣を手放さないこと。

むしろ、夏に無理をしすぎて受験前に燃え尽きてしまうことのほうが多い。実際、そういう子も見てきました


油断せず着々と。これができれば合格の道は見えてきます。


そんな夏のある日“その子”のお母さんから教室に電話がありました。

「先生すみません。今日はお休みさせていただいてもいいですか?うちの子、遊び行っちゃって」

今までそんなことありませんでした。

まさか、あれか。例の青春か。

「そうですか。お休みって初めてですよね。どこに行ったんですか?」

「夏祭りに・・・」








でたーーーーーーー!

やばい!完全に夏の誘惑に負けてる!青春満喫してる!

夏祭りに行く前に勉強してればいいです、帰ってきて勉強すればいいです。

私の経験から言うと、まあ、まずしないでしょう。



ものすごい危機感を感じました。勉強のリズムが崩れていく気がしました。ここからもう一度組み立てるのは難しい。

そもそも周りより勉強してこなかった分、人の10倍頑張らないと合格は見えてきません。

遠回りしている暇はないんです。



そして、この油断が早くも夏休み明けに出てくることになります。



逆戻り

長い夏休みを終えてすぐに定期テストがあります。この点数が合格のための1つの指標になります。


結果は27点。

前回より50点近く下がってます。予想以上に悪い結果でした。


本人もさすがにショックを受けたようでした。焦りも感じたでしょう。



ただ、私はチャンスだと感じました。

今まで無駄な勉強はさせていません。基礎を繰り返し繰り返しやってきたので、地力はついているはずです。

後は応用問題に取り組み、点数を取ってくる技術を身につけさせるだけです。


このタイミングで1度点数がガクッと下がってくれれば、もう油断もしないでしょう。

そういう意味では良いタイミングで失敗を味わってくれたと感じました。



それからの“その子”は目つきも変わり、集中力が桁違いになりました。

合格してやる、という気迫が凄かったことを覚えています。

この域まできたら、そうそうヘコたれることもありません。

私も本気でぶつかりましたし、簡単なミスがあれば本気で怒りました。

“その子”の素晴らしいところは、こちらの本気に応えようとする心と意志が強いところです。


そして中3の後期テスト。受験間近の時期です。

持ってきた答案用紙に返ってきた点数は76点。




「いける。」


公立高校合格の道がはっきりと見え始めました。



最後の試練

年が明けて受験までのカウントダウンが始まった頃、学校で三者面談がありました。

この時期の三者面談は志望校の決定に関するものがほとんどです。


残念なことに、公立高校を目指していた“その子”に学校の先生が提案したのは、私立専願でした。

志望校の公立高校合格は難しい、昨年のデータを見ても厳しい、と言われたそうです。


“その子”にとっては、これまでの努力を否定されたようなものでしょう。言葉にならない悔しさだったと思います。三者面談の途中で泣いてしまったと、後から聞きました。

そして、その場で願書に記入・捺印をしてしまったんです。



私はこの状況を塾の三者面談で知りました。

公立高校合格は現実味を帯びてきていたし、何より“その子”が成長していく過程をずっと見てきましたから、正直、憤りすら感じました。


学校の先生の気持ちも分かります。合格率を上げるために確実なところを受けさせたいのでしょう。

「学校の先生」という立場上、そのような判断がベストだったんだと思います。



でも、やっぱり私はこう伝えました。

「今からすぐ連絡して、願書を取り下げてもらってください」


“その子”もお母さんも、そんなことできるの?という顔をしていました。


「私立専願じゃなきゃダメなんてことは有り得ない。私立の滑り止めは、今の成績なら確実に合格できます。ずっと見てきた僕が保証します。公立にチャレンジしてはダメなんてことは絶対に有り得ない。」

「公立合格を目指して頑張ってきた。人の何倍も努力してきた。公立を受ける権利があると思う。

そして周りの人にも、たくさん協力してもらってきた。公立を受ける義務もあると思う。」



ずっと黙っていた“その子”が、やっと言葉を発しました。

「お母さん。お願い。」


それを聞いてお母さんはすぐに学校に電話してくれたんです。この時、母の偉大さというものを改めて感じました。


願書提出は明日ですから、と断られても、じゃあ書き直しに伺いますからどうかお願いします、とまで言ってくれたんです。温厚な方でしたが、同時に強い意志もお持ちの方でした。




こうして無事に公立を受験できることが確定したわけです。

もう後には引けません。合格するしかありません。


受験当日までの“その子”の様子は、まさに危機迫るといった感じ。

私もこの期間は口うるさく言いません、というより言う必要がなかった。一心不乱でしたから。無言で見守りました。



毎年の受験生を見ていると皆そうなのですが、頑張れば頑張るほど受験当日のプレッシャーは大きくなります。ちょっとでも不安な問題があると実力は発揮できません。


私は最後のアドバイスを伝えました。

「いいか?受験は必ずヤバイって時がある。そんな時は落ち着いて周りを見てみろ。全員ヤバイって感じてるから。」

どんな子でも受験当日は不安なものです。心の拠り所があることが、どれほど救いになるか。

当日の心の拠り所になってくれればと思い伝えた言葉でした。



合格発表

合格発表は必ず自分の目で見てくること。これは“その子”との約束事でした。

合格・不合格に関わらず、ここまで努力してきた結果を自分自身で受け止めること。

何かしら得るものはあるはずです。


発表当日、そろそろ結果でたかな・・・と時計を見ていると電話が鳴りました。

“その子”からです。どんな結果でも今までの努力を褒めようと決めていました。



「どうだった?」

「先生やりました!受かってた!」


「うおおおおおお!そうかやったか!おめでとう!おめでとう!まじか!」




結果、公立高校合格。

電話でお互いずっと言葉にならない言葉を叫んでました(笑)

補導され学校からも否定された元ヤンキーが、公立高校合格を勝ち取ったのです。



その後、高校に進学した“その子”は、学年1位、総合10位の成績をとりました。

素直にすげー。と思います。

今でも塾に通ってくれていますが、相変わらずチュッパチャプスは大好物だそうです。



あとがき

“その子”と一緒に合格を目指して奮闘したことは、私にとっても素晴らしい経験になりました。

結局のところ大切なのは「心」ですね。綺麗ごとを言うつもりはなく、本当にそう思います。


全国に展開している個別塾を営んでいますが、たくさんの生徒と向き合っていると、一人ひとり自分だけのストーリーを持っているんだなあ、と改めて感じます。

そのストーリーをどれだけ豊かなものにできるか、どれだけ彩れるか、そのお手伝いができるのがこの仕事です。


他の話もいくつかご紹介したいのですが、割愛します。共感してくださる方はご覧ください。



私は今もどこかの教室で、子どもと一緒に喜び、一緒に泣いています。

この先も新しいストーリーを生んでいければ嬉しい限りです。

これから将来を担う子どもたちへ、応援の気持ちをこめて共有していただけますと幸いです。








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