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15/4/29

【第12話】『答えを出さなきゃ…』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

Image by Olia Gozha

5日目。



おはようございます。




目を覚ますと、犬の散歩をしているおばちゃんがいた。


「あ、おはようございます。」


ちょっと焦ったけど、とりあえず挨拶をし、危ない者ではないことをアピール。



「寒いですね。」



なんて少し会話をしたけど、

外で寝てるんだから、そりゃ寒いに決まってる。


僕は、ここにいるのが気まずくなって、

トイレで身支度をし、出発の準備をした。


寒くて何度か目が覚めたけど、足の痛みは取れてるし、

何か頭がスッキリする。


「野宿も結構良いもんだ!」


人生で初めての経験。

しかも、一般の人はあまり経験のしたことのない経験。

どこか自分が特別な人間のような気がして、得意な気分だった。




日本の三大名水の湧き水をサーキュレーターに補充する。


いつもは、粉のスポーツドリンクを入るのだが、せっかくの美味しい水だ。

本来の味を堪能しよう。



「うーん。冷たくて美味しいぜ!」



天然のものは100%身体に良い気がして、水を飲むだけで嬉しかった。



準備は整った。



「さて、5日目。今日も生きますか!」



季節は変わっていく…




時刻は7:00。


今日の出発は朝早い。


そして、朝は…



寒い!!!


恐らく10℃くらいだったのだろうが、

10月下旬。

季節が冬へと変わっていき、日に日に気温が低くなる。

今まで夏仕様だった身体には、1℃下がるだけでも、体感的にはかなり寒く感じる。








辺りは秋の植物たちが咲き始め、

少しずつ紅葉も始まり、前に進めば進むほど、景色は色鮮やかになっていった。


常に、季節が変わっていくのが目に見えて分かった。


確実に時間は過ぎている。


そして、過ぎていく。


彼女と過ごした幸せな時間も、

ほんの2ヶ月ほど前の、地獄の様な日々の始まりも、

数日前の相模湖からスタートしたことも、

もうずっと前のことの様に感じた。



そして、今この瞬間も過去になる。


「忘れたくない。」


今、目に映るもの、耳で聴こえるもの、

肌で触れるもの、心で感じるもの、

その全てを、


「忘れたくない。」


そう思った。





とても景色の良い一本道を、しばらく歩いた。





すると…



長野県突入!!





山梨を突っ切り、長野に辿り着いた。





長野なんて、スノボのバスツアーでしか来たことがない。



「長野まで歩いて来ちゃったよ!」

「自分すげーよ!」

「すげーよ!自分っ!!」






胸は高鳴った。


日本海までの道のりはまだまた遠い。


しかし、確実に近付いている。


ゴールは見えなくても、進んで来た道のりが正しいと実感出来ると、

また更にやる気が出る。




現在の自分の居場所を知って、


「まだまだだ…」


と落胆することも出来るが、


「ここまで来れたんだ!」


と自分を賞賛することも出来る。



その違いはきっと、


「なぜゴールに辿り着かなくてはならないのか?」


という「動機」と、


「何としてもゴールに辿り着いてやる!」


という「情熱」の差だと思う。



僕は、自分の限界を知らなければならなかった。


今後の人生を、納得した選択をするために、

何としても限界というゴールへ辿り着かなければならなかった。


「本当の自分の気持ちが知りたい!」


たったこれだけの理由で、歩き続けた。





道の駅「信州蔦の木宿」に到着。



この道の駅は、温泉がある。


前日、お風呂に入っていなかったため、ここで一風呂浴びたかったが、

足の所々に巻き付けたテーピングを外し、また巻き直すのに気が引けた。


一度しっくり来たテーピングを巻き直し、それがまたしっくり来るかどうかは分からない。


それに何と言っても、お風呂に入っていたら、かなりの時間をロスしてしまう。


今の優先順位は、お風呂より、前に進むことだ。



芝生でストレッチをし、少し休憩して、道の駅を後にした。





「今日も天気がいいぜー!!」




カーペンターズの曲に、


「雨の日と月曜日は私を憂鬱にさせるの」


という曲があるように、


「晴れの日といい景色は僕をハッピーにさせる」



何とも良き日だ!


絶好の歩き日和!


気持ちが軽くなると、足も軽い。




しかし、段々雲行きが怪しくなる。



富士見峠…





この看板からひたすらずっと上り坂になる。


そんなことは全くもって知らないから、猿の標識を見て、僕は1人ではしゃいでいた。





「よっしゃ、この坂上れば、楽だべ!」



なんて思っていたが、


この坂が続く、続く…。


しかも地味に勾配がキツイのだ。



「ふぅー。やっと上り切った。」





高いところから見下ろす田園風景は、社会の教科書で見るような盆地ならではの

ザ・田舎の棚田が広がっていた。


とても美しい風景だった。



「晴れの日といい景色は僕をハッピーにさせる」



これが待っているから、上り坂も頑張れてしまう。





しかし山は、上った後は必ず下る。


今度はひたすら下る。


下りはツラい。


足の負担が半端じゃない。


ストックを長めにし、松葉杖のように体重を乗せながら、

なるべく足に負担がかからないように歩く。



足が痛い…。



今までの好調っぷりが嘘のように、

下り坂に入った途端に足に激痛が走り始めた。


もはや真っ直ぐには歩けない。


身体を横にし、カニ歩きの様にして坂を下った。


それでも足の痛みがヒドく、少し先に見えるコンビニで休憩をする事にした。





靴も靴下も脱ぎ、入念にストレッチをする。


右足の足の裏からふくらはぎ、ひざ、ももの裏の筋肉が硬直してしまっている。


足をさすりながら、温め、ゆっくりと筋肉をほぐす。


これだけでも大分楽になる。


ストレッチを侮ってはいけない。



そして、また歩き出す。



ひたすら続く下り坂。


いつまで経っても下り坂。



止まっていたせいか、山の中なのか、天気は良いが、気温がグッと低くなった。

冷たい風も吹き始め、ダウンを着ていても寒かった。




13℃…。


そりゃ寒いぜ…。


さすが長野だぜ…。



茅野市に突入!








坂を下り切ると、そこはレトロな町だった。


「太田胃散」


「いーくすりです!」


太田胃散の歴史を感じた。







現在の時刻は午後2時過ぎ、

7時に出発をしたから、もうすでに7時間以上歩いていることになる。


今までなら、7時間歩けば夕方になっていて、泊まる宿を探している時間だ。


しかし、今日はまだまだ時間がある。


まだまだ前に進める。


早起きは三文の徳だ!





しかし松本まで52km。



今日辿り着くのは不可能だ。



とりあえず、行けるとこまで行ってみよう!



しかし、もうすでに7時間以上歩いている。

富士見峠のせいで、右足もイカれた。


何とか歩けてはいるが、恐らく右足の限界は近いだろう。



それに…



なんかお尻が痛い。





朝から足を運ぶ度に、お尻の穴の辺りが痛痒い。


「何なんだ!このモヤモヤ感は??」



まさか…



「漏らした…?」



お尻の穴が気になって気になって仕方が無くなって、

コンビニのトイレでお尻の穴を確認した。



「痛ッ!!!」



幸いなことに漏らしてはいなかったものの、

お尻の穴周辺から割れ目にかけて、タダレていた…。



思い返せば、昨日の野宿…



道の駅のトイレはウォシュレットが付いていなかった。


僕のお尻は結構デリケートで、ウォシュレットを使わないと、すぐに切れ痔になる。

それに、公共の場のトイレにあるような硬いトイレットペーパーは最強の天敵だ!



さらに、お尻がキュッとなる補正機能の付いたタイツを履いたまま寝袋で寝たため、

お尻の割れ目が引っ付いたままの状態で長時間、温い温度に晒されていたのだ。



お尻が蒸れたらしい…。



そして更に、割れ目が密着したまま長時間歩く。


割れ目が擦れあって、タダレたらしい。



僕のお尻の穴は大惨事だった。



何とも地味な痛みと痒みが付き纏う。



「こりゃリンデロンだな。」


※リンデロンとは…肌に塗るステロイドの入った薬



「今は塗れないから、宿に着いたら治療をしよう。」



そう誓ったところで、コンビニを出た。



外は寒い。


やけに寒く感じる。


店内には、まだ10月だっていうのに、暖房が入っていた。



さすが長野だぜ…。


もう冬じゃないか…。



また外でストレッチをした。


寒かったから、靴は脱がず、紐を緩めて休憩をした。





ここは寒天の里らしい。



恐らくこの先、寒天に出逢ったら、

必ずこの場所とお尻の痛みを思い出すだろうと思った。



右足の終了…


時刻は3時。


まだ暗くなるまでに時間はあるが、

どうやら僕の右足は結構ヤバイらしい…。



「そろそろ宿を探すか。」



スマホで近くの安い宿を探した。


茅野駅周辺に幾つか宿があった。


値段と、大浴場があることから、

今日の宿は、

「ホテルわかみず」に決めた。


あと5kmちょっと。


暗くなる前に十分に間に合う。


朝早く出たから、今日は早目に休もう。



そして、また歩き出す。


風が冷たい。

そして、また更に気温が下がった気がする。


しかし、まだ明るい時間だということで、

僕は余裕をぶっこいて、写真を撮った。





「ピキッ」




ついに来た…。



右足の終了…。



このコスモスを撮ろうと、少し屈んだ時、

僕の右足はお亡くなりになった。



しかも今日のは少し違う。


痛みの次元が違う。


足が全く曲げられない。


前に足を出すことさえ痛くて出来なかった。






少し歩くと、坂室トンネルという新しく出来たであろう

キレイで大きなトンネルに入った。


トンネルは歩道も広く、温かくて少し安心した。


そんな安心は一瞬で、トンネルを抜けると、

待っていたのは茅野市街地に続く、ひたすら長い下り坂だった。





勾配は決してキツくない。


しかし、どんなに緩やかな勾配でさえ、僕の右足は敏感に察知した。



右足がちぎれそうだ…。



思わず立ち止まる。


今日の宿はもうすぐそこなのに、その道のりが果てしないものに感じた。




「もう歩けない…」


そう思った。



でも、どんなに小さな一歩でも、

確実にゴールに近付いている。


休憩してたら前へは進めない。


準備が出来てるなら迷わず足を出せ!



そう頭で唱え続けた。



そこからはカニ歩き。


少しずつ少しずつ、でも確実に一歩ずつ。


痛みを必死に堪えながら、前へ進んだ。


痛みと闘いながら、色んなことを考えた。




実はこの日、会社の上司から電話があった。


「そろそろ戻って来たら?」


そう言われた。



1ヶ月の休職の予定が、すでに3ヶ月目に延長していた。



「これからのことを真剣に考えなきゃな…。」




僕の仕事は12月から忙しくなり始め、1月から3月まではスーパー繁忙期に入る。


また平日終電帰りの土日出勤だ。


戻るところがあるというのは、確かに安心はする。


でも、戻ったところでまたぶり返してしまったら、意味が無いと思う。


正直言って、僕は戻るのが怖かった。


戻れる自信が無かった。


でも、このまま休職期間を続けても何も変わらない。



「一つの答えを出さなきゃ。」



準備が出来てるなら、迷わず前へ進むんだ。

確実にゴールは近付くんだから。



選択を迫られているのと、

今、痛みと闘っている現状が重なった。



「ちゃんと闘おう。」

「真剣に向き合おう。」



そう決めた。



そこから宿に着くまで、驚くほど時間がかかり、結局辺りは真っ暗になった。









5時半、ホテルわかみず到着。





チェックインをし、部屋に入って、ソッコーお尻の穴をスマホで撮った。


大惨事だった…。


お尻の穴の周りは真っ赤にタダレて、リンパ液が滲み出てしまっている状態だった。


その時の写真もあるけど、さすがにここには載せられないので、ご想像にお任せします。笑



待ちに待った1日ぶりのお風呂で、僕のお尻は悲鳴をあげたけど、無事に5日目は終了。



天気予報によると、明日から天気が崩れるらしい。


「雨の日と月曜日は私を憂鬱にさせる」


しかし、そんな暇は無い!


準備は出来てる。


僕は前へ進むんだ!




6日目。


ついにこの限界を知る旅も後半戦に入る。


この日、この旅史上、

最大のピンチと、最大の喜びを感じることになるとは、

この時僕はまだ知らない…



つづく…



5日目の成果!!


【歩数】

42300歩


【消費カロリー】

1438.2kcal


【歩いた距離】

29.61km


【歩いた時間】

7:00〜17:30(10時間30分)







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