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15/4/15

【第10話】『ゴールは決めない』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

Image by Olia Gozha



諦めるという選択…


正直言うと、旅を始める前は、

2日くらい歩いて辛かったら、電車に乗って帰ろうと思っていた。


体調や、精神状態、天候、怪我など適当な理由をつけて

辞めてしまえばいいと思っていた。



とりあえずやってみたかった。


やり切るではなく、やってみたかった。



でも、辛いという理由で諦めてしまったら、

今までの僕と何も変わらない。



僕はFacebookに旅の経過をUPしていた。


あえて公にすることで、

簡単に諦めてしまわないように。

後戻り出来ないように。

自分自身から逃げないように。



3日目。



前日、約30km歩いたのと、長時間雨に打たれ続けたせいで、

疲労は抜けきれずにいた。


そして、荷物の重さで、足の痛みより肩の痛みが半端じゃなかった。




本当なら帰ろうと思っていた日…。




僕は、出発の準備をしていた。


僕の中で、

この旅を諦めるという選択肢は消えていた。





まだまだ先は長い。



歩くことに専念しよう。



いらない荷物を捨てよう。




テント、マット、三脚。



テント…一度も使っていない。


マット…当然一度も使っていない。


三脚…一日目にたった一枚だけ写真を撮っただけ。



三脚はともかく、テントとマットはこの先も使うかもしれない。


でも、寝袋さえあれば何とかなると思った。


「テント使うとか甘ったれたこと言ってんじゃねー!!」


と心の中で言った。



というのは嘘…。


本当は、疲れを取るためにお風呂に浸かりたかった。


だから、この先も宿に泊まればいいと思っていた。笑






さよなら。


役立たず三点セット。


彼らは宅急便で一足早く家に帰った。



恐らくこの三点セットで2kgくらい軽くなったと思う。



軽いぜ!!


荷物が大きいと重いだけでなく、風の抵抗も大きく、より多くのエネルギーを消費する。


たった2kgくらいでこんなにも楽になるのかと思った。


ホテルをチェックアウトする。



フロントのお姉さんと少し会話した。


「日本海まで行くんです!」


と言うと、


「この先もルートインがいくつかあるので、良かったら使ってください。」


と、地図付きのパンフレットをもらった。


フロントのお姉さんからしたら、

単なる営業活動だったのかもしれない。


でも、僕は素直に嬉しかった。




僕が日本海まで行くと言って、

本当に行くと思っていた人は少なかったと思う。


僕自身でさえ、本当に行くとは思っていなかったのだから。


でもお姉さんは、僕が本当に行くと思ってくれた。

だから、パンフレットを渡してくれた。


「この人は日本海まで歩いていく人だ」


「日本海まで歩いて行ける人だ」


と認めてくれた気がして、嬉しかった。



「ありがとうございます!」



そう言ってルートインを出た。






台風は去った。


まだ風は強いが、雲の間から青々とした空が広がっている。



天気までも味方につける男、坂内秀洋!



さぁ、3日目。


始めようじゃないか!


今日のゴールは甲府だ!






広い空の下…



本来のルートをそれてしまったため、

まずは国道20号線に出る必要がある。


Googlemapを活用し、ブドウ畑の道を歩く。





ブドウだ。



食べ物は、スーパーで買うもの。


目の前に食べ物が生っているのは、

万が一何かあっても、生きていける気がして何だか嬉しかった。



クネクネした道を歩く。


いい天気で、周りの景色がとても綺麗に見えた。


僕は写真を撮った。



目で見たものを忘れないために写真を撮りながら歩いた。





しばらくして、大きな橋に辿り着いた。


そこは建物もなく、とても大きな空が広がっていた。





空が広い。


横浜生まれ横浜育ちの僕は、建物があって当たり前の環境で育った。


上を見上げれば、建物も何も視界に入らず、

ただ空だけが広がっている光景は、とても珍しく、感動した。









明らかに知らない景色。


僕は、こんなところまで歩いて来たんだ。


美しい景色は、どんな栄養剤よりも気力体力共に回復させてくれた。


そして、本来のルートに戻った。





石和温泉。





2日目に泊まりたかった健康ランドの前を通り過ぎ、

景色は徐々に市街地へと変わっていく。







「人がいる。」



甲府市に入った。


これまで、道幅も大きく、ほぼ真っ直ぐな分かりやすい道だったため、

予想より早いペースで来れた。


さすがに山梨県の県庁所在地。


人の数が一気に増えた。


一般人に紛れて、旅人が一人。


ストックを持ち、大きなリュックを担いで、

日常的な風景の中に、全くそぐわない格好で歩く。



ちょっと恥ずかしかった。


サングラスをしていたため、あまり周囲を気にしなくて済んだが、

「何者だ?」

という気配が漂っていた。



初めは視線が気になったが、


誰もいない田舎道を歩いて来て、人がいる場所に出ると安心した。




自分が思っている自分と、

周りが思っている自分。


このギャップが僕は耐えられなかった。


人と付き合う

人に気を使う


こういったことに嫌気がさしていた。



自分を良く見せようと、人に気を使う。


人に好かれたいから、本当の自分を出せない。


本当の自分を出せないから、自分と周囲とのギャップが広がっていく。



人に好かれるために、人と関わるのか?


人に好かれるには、自分を偽らなければならないのか?




「コミュニケーションって何なんだろう?」



と思っていた。



自分を偽って生きていくのが人と上手く付き合う方法なら、

僕はもう、誰とも関わりたくないと思った。


だから、人との関わりを避けた。


会社の人、友達、家族でさえ、もう関わりたくないと思った。


「もう僕に構わないでくれ!」

「独りにさせてくれ!」


と思っていた。



でも、本当に独りになると、ただ人が居るだけで安心した。


人と関わりたくないのは、人が嫌いなのではなく、

自分が嫌われないための、

自分が傷付かないための防御策だった。


本当は、独りになって寂しいんだと思った。

自分が思ってる自分を誰かに認められたいんだと思った。


でも、本当の自分を認められないのは、

誰でもなく自分自身だった。



僕は、弱い自分が嫌いだった。


「強くなりたい!」


そう思って歩き続けていた。



今しか出来ないこと…



市街地では、地べたに座り休憩出来る場所がない。


事前に調べた情報によると、市役所や区役所は休めるらしい。


僕は甲府市役所に向かった。





「デカイ!そしてめっちゃ綺麗だ!」


役所というと、ちょっとボロいイメージがあったが、

甲府市役所はリニューアルしたらしく、

めちゃめちゃ綺麗で立派な建物だった。



一階のロビーでは、たくさんの人たちが順番を待っていた。



甲府市役所には、展望ロビーがあるらしい。


僕はエレベーターに乗り、最上階の展望ロビーに行った。






なかなかの景色。


何より人が居ない。


ここで少し休ませてもらおう。



途中で何人か人が来たが、

完全旅人スタイルの人間に気がつくと、

そそくさと去っていった。


「申し訳ないっす…」


と思いながら、置いてあるベンチで休んだ。



さて、この時時刻は16時過ぎ。


外はまだ明るい。


前日の疲れが残っていたため、甲府駅周辺で今日は泊まろうと考えた。


しかし、余力を残していては限界になど辿り着くことは到底出来ない。


暗くなることを考えると、そこまで長い距離は歩けない。



5km先にある宿を楽天トラベルで検索し、

露天風呂&サウナが無料のビジネスホテルを見つけた。


サウナが大好きな僕は、そこまで歩くことに決めた。



そしてまた歩き出した。


音楽を聴きながら、黙々と歩く。




そんな時、何か声が聞こえた。


振り返ると、脚立に乗り、

窓ガラスを拭いているおっちゃんがいた。


おっちゃん:「◯×△…れ!」


僕:「えっ?」


イヤホンを外し、僕は思わず聞き返した。


おっちゃん:「◯×△…れ!」


僕:「えっ?」


今度は早口で聞き取れなかった…。


「頑張れ!」


やっと聞き取れた。


おっちゃんは僕を応援してくれていた。



続けておっちゃんは、


「いくつだ?」


と聞いてきた。


「26です!日本海まで行ってきます!」


と言うと、



「若ぇな!」

「俺なんかこの歳になると行動する気すら起きねぇ!」

「頑張れよ!」


と言った。


「ありがとうございます!頑張ります!」


そう言って別れた。


歩きながら僕は、


「今しか出来ないことをやっているんだな。」


と思った。


おっちゃんは、何度も


「頑張れよ!」


と言ってくれた。



見ず知らずの人だが、応援されるのは嬉しかった。


自分のためにやっている旅だが、

人が応援してくれることをやっているんだと思った。


結婚するために、就職をし、

仕事を頑張り過ぎてうつ病になり、婚約破棄になって、

今までやってきた行動はすべて間違っていたんだと

生きてきた26年間に完全に自信を無くしていたが、

自分独りで決めたこの旅が

正しい行動なんだと思わせてくれる「頑張れ!」だった。


おっちゃん、ありがとう!






一万円の価値のある紙…



辺りはもう日が暮れ始めていた。


今は10月中旬。


夜になると少し冷える。


冷えは寒いだけじゃない。


筋肉が硬直する。



「ピキッ!」



右足に激痛が走った。



この一瞬を境に、僕の右足は動かなくなった。


足を曲げるのも、伸ばすのも激痛が走る。


想像出来ないかもしれないが、


「こんなにも痛いものか!?」


と思うくらいに痛い。


右足を引きずりながら、時速2kmくらいの超スローペースで歩く。


3日目にして、ついに右足がイカれた…。


思っている以上に身体を酷使しているのだと思う。

足が動かなくなるほどの痛みは、人生で初めてだった。



あと少しで天然温泉の露天風呂が待っている…。


その希望を胸に、真っ暗な道を足を引きずりながら歩いた。





目的のホテルを発見!


近くにコンビニがあったが、右足が痛過ぎて立ち寄る力はもう無い。


一刻も早く足を休ませなければ…。

一刻も早く温泉に…。

一刻も早く大好きなサウナに…。


夜ご飯は要らない覚悟でホテルに向かった。






そして到着し、チェックインの手続きをする。



ここで事件が発生する…。



お金の入ったポーチが、前日の雨でビッチョビチョになっていた。


中に入っていた一万円札はもちろんビッチョビチョ。


カードで払いたかったが、現金のみの取り扱いだった。


仕方なく、タオルで優しく水分を拭き取り、

シナシナになった一万円札を差し出した。


濡れてはいるが、一万円札には変わりない。


間違いなく一万円の価値のある紙だ。



しかし!!!



「これではお受け取り出来ません。」


フロントの男に、一万円の価値のある紙を突き返された。


感じの悪い男だった。


きっと僕の格好を見て、見下しているのだろう。



お金を下ろさなければ、払えるお金が無い…。


フロントの男は、


「この並びの400mくらい先にセブンがあるので。」


と言った。


そのセブンは、足が痛過ぎて、

夜飯抜きを覚悟して立ち寄らなかったセブンだ。



こっちは、足が痛過ぎて一歩歩くだけでしんどいのに、

一万円札が濡れているからという理由で、

400m先にあるコンビニまで行って、金を下ろして出直して来いと言う。

往復で800mだ。



僕は確信した。


この男が嫌いだと。



しかし、これからお世話になる身。

悪い雰囲気にはしたくない。


僕は怒りを抑え、


「お金下ろしてくるので、ここに荷物置かせてもらってもいいですか?」


と聞いた。


「どうぞ。」


明らかに面倒臭そうな

それはまた腹の立つ態度だった。



僕は再確信した。


この男が大嫌いだと。



怒りを抑えながら、

濡れた一万円札をヒラヒラさせ、セブンまで歩いた。


それはまぁ、しんどかった。


ついでなので、食料を買った。


お金を下ろし、ホテルに戻る。


リュックを背負っていないため、背中がめちゃくちゃ寒い。


背中と言うか、外はめちゃくちゃ寒かった。


やっとの思いでホテルに着くと、

ヒラヒラさせた一万円札は完全に乾いていた…。


完全にムダ足だった。


しかし過ぎてしまったことは仕方ない。


足は痛いが、食料も買えたことだし、良しとしよう。


そして、僕は宿泊代を支払った。


フロントの男は、


「やっと来やがったよ。」


と言わんばかりの態度で一万円の価値のある紙を受け取った。


こういう時は、カタチだけでも


「お手数おかけしてすみません。」


くらい言うもんじゃないのか?



僕は、学習した。


この男と関わるのは、人生のムダだと。




いつもの僕なら、こんな従業員のいるホテルは絶対に使わない。


他に泊まるところが決まってないとしても、


「やっぱり結構です。」


と言って、利用しない。



しかし、今回ばかりは、天然温泉&サウナの欲求が勝った。



この足の痛みは、天然温泉じゃないと治せない。


サウナで身体を芯から温めないと治せない。


と思った。



案の定、温泉とサウナは最高だった。



露天風呂も熱めのお湯加減に外の冷たい風が心地よかった。



明日はどんな旅になるだろう?



小さな露天風呂から、優しく光るお月様と、

あまり見えない星を見上げながら思った。


ここから先は、大きな街は無い。


長野県に続く山道へ入る。



Googlemapで調べてみると、

現在地から25km付近は、

キャンプ場は見付けることが出来たが、宿泊施設が全く無い。



今朝テント送っちゃったよー…。泣



この計画の無さが、また僕らしい。


寝袋はある。


こんな時のためにガスコンロもある。


しかし、野宿なんてしたこと無い。


外は寒いし…


野犬が出てきたら…


クマが出たら…


オバケが出たら…


おまわりさんに捕まったら…



どうするべきか…。



目標は大事だ。


一日のゴールが決まっていれば、そこに向かって行けばいい。


しかし、そのゴールを自分が出来そうな範囲で設定していては、何も成長しない。


「自分の限界はいつも自分が決めているんだ!」


修造の言葉が脳裏をよぎる。



ゴールは設定しない。



ゴールは、「行けることまで!」



すべてその場で決めてやるぜ!




野宿?


リアル田舎に泊まろう?


宿が見つかるまで夜通し歩く?





どうなる!?


どうなるの!?僕!?!?








つづく…。




3日目の成果!!


【歩数】

28129歩


【消費カロリー】

956.3kcal


【歩いた距離】

19.69km


【歩いた時間】

10:30〜18:30












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