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15/4/12

【第九話】『旅の洗礼』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

Image by Olia Gozha


2日目…



1日目は19時過ぎに大月駅に到着し、

疲労と身体の痛みで全く動きたくなかったため、

大月駅前にあるホテルに泊まった。


かなりのエネルギーを消費した…。



エネルギーを補給するには、炭水化物!



近くのコンビニで、たらこパスタ大盛りと、

おにぎり2つ、フライドチキン、そしてビールを買った。


何ともリッチな一夜だろうか。


一人でホテルに泊まるなんて初めてだ。


この時すでに26歳、とうの昔に成人しているが、

なんだか大人になった気分がした。


小さな湯船に浸かり、入念にストレッチ、

洗濯など、もろもろ明日の準備をして布団に入った。



「本当に旅が始まったんだな。」



そう思った。


一日を振り返り、本当にここまで歩いて来たことに感動した。

明日への期待、そして不安が入り混じり、

嬉しいような、怖いような、不思議な感覚だった。

でも、決して嫌な感じはしなかった。


きっと楽しかったんだと思う。


歩き疲れたのか、睡眠薬がよく効いたのか、

今までの生活では考えられないくらいよく眠れた。



そして朝を迎えた。



旅の洗礼①台風接近…



寝坊した…。



7時朝食のお願いをしていたのに、起きたら8時。


「やべぇ!!」


自分で7時にお願いをしておいて、バックレるとは、何とヒドい話だろう。


僕は人に迷惑をかけることにものすごく罪悪感を感じる。


急いで一階のラウンジに行った。


朝食は、トーストだった。


席に着いてから焼き始めるため、寝坊しようが何しようが関係なかった…。


とりあえず、ホッとした。


朝食を済ませ、一旦部屋に戻り、出発の準備をする。


足にテーピングを巻き、サーキュレーターに水分を補充して、

入念にストレッチをし、チェックアウトの手続きをした。



宿の主人に、朝食ともう一つお願い事をしていた。


「体重計を貸して欲しい!」


と。


どうしても荷物の重さが知りたかった。


この尋常じゃないくらいの重さが一体何kgなのか?


どれくらいの重さを担いで歩いていたのか?


そして、これから歩いて行くのか?


知りたかった。



宿の主人は体重計を用意してくれていた。


荷物を乗せると…。



ピッタリ20kg。


「Wow!」


そりゃ重いわけだ。


完全に詰め過ぎた…。



20kgなんて、ビール樽を背負って歩いているようなもんだ。



でも、こんなに重たい荷物を背負って25㎞以上歩くことが出来た。


「自分、すげぇじゃん!」


と思った。笑


ほんの少しだけ、自分の力に自信がついた。



宿を出て、出発する。


2日目のゴールは、石和温泉。


前の年に社員旅行で訪れた町。


そこまで歩いて行ったなんて言ったら、

会社の人たちに話すネタになるし、

温泉街だし、きっと宿にも困らない。


「今日も長い道のりになるな。」


さて、出発しよう!





しかしこの日、2日目にして、命の危険に晒されることになる…。



台風接近中…



前の日、Facebookで近況を報告したところ、


「ひーくん、台風近付いてるから本当気を付けて!」


とコメントをもらっていた。



「台風か…」

「やっかいだな…」



雨の中を歩くのは、身体が濡れるし、視界も悪い。

風が強ければ、身体が煽られて危険だ。



しかし、止まってなんていられない。


僕は限界を探しに来たんだ。


危険を回避する旅なんて、僕が求めている旅じゃない。


危険に向かっていくのが、僕の求めている旅だ。



「台風でも何でも来やがれ!こんちくしょー!」



くらいの気持ちでいた。



いや、正直、結構ビビっていた…。



しかし、朝起きると、雨は降っていなかった。


前から晴れ男だと思っていたが、それが確信に変わった。


台風をも吹き飛ばす男、坂内秀洋!



僕は余裕綽々で歩き出した。



が、



間もなくして、やはり雨は降りだした。


僕の確信は1時間と保たずに打ち砕かれた…。


雨具を着て、ザックにカバーをして、雨の中を歩き出す。


帽子の上からフードを被り、視界は30㎝程、

顔ごと左右に振らなければ周囲は見渡せない。


完全に怪しい人物だ。


しかし、市街地を抜けたその道のりは、周囲に何もなく、誰一人いなかった。



フードに当たる雨の音が、脳の中に響き渡っていた。


雨の中を歩くのは、孤独を引き立たさせる。


時折、雨に打たれながら歩く自分の姿が頭の中で客観的に見え、とても寂しかった。


やはり、僕は独りぼっちなんだ…。


自分で決めた選択。


誰のせいにも出来ない。


自分との闘い。


自分の弱さとの闘い。


雨の中、誰にも頼れぬ孤独感との闘いに旅の洗礼を受けた。





僕は気を紛らわすため、イヤホンを耳に着け、音楽を聴いた。


出発前に作ったお気に入りのプレイリストを聴いて歩いた。


音楽は不思議だ。


現状は何一つ変わっていないのに、

独りじゃない気がする。


雨音ではなく、人の声が聴こえるだけで安心した。


何もない景色も、音楽があれば、

記憶に残るような景色に変わっていった。





止まっていた景色が動き出す。


曲が終わるごとに、確実に時間が過ぎ、

前へ進んでいる実感がして、嬉しかった。





しばらくして、笹子駅に着く。




やはり、1日目のゴールを大月にして正解だった。



周りには何にも無い。



宿はもちろん、ご飯屋さんや、コンビニさえも無い。



「ちゃんと計画的にやらなきゃな。」



と、思うのが当たり前だが、


僕は、


「超ラッキー!」

「やっぱり僕、持ってるなー!」



と呑気なことを考えていた。


我ながら、自分のアホさに驚愕するが、


このアホさが無ければ、この旅はもちろんのこと、

僕の人生において、貴重な経験は何一つ出来ていない。



僕はこう思う。


人生において、大きな決断をする時は、

知識や知恵なんて大して必要じゃない。

そこに飛び込むアホみたいな動機が大半を占める。


10代の頃は、モテたいがために色んなことをやってきた。


足が速けりゃカッコいいから、陸上やって、

スケボー出来たらカッコいいから、スケボーやって、

背が高いとカッコいいから、バスケやって、

バンドやってたら、カッコいいから、バンドやって、

ダンス出来たらカッコいいから、ブレイクダンスやって、

ピアノ弾けたらカッコいいから、ピアノやって、

自分がカッコいいと思うあらゆることをやってきた。


カッコいいことが出来たら、絶対にカッコよくなれると思った。

だから、カッコいいと思うことをやり続けてきた。


それは27歳になった今でも変わらない。



「モテたい!」



というアホみたいな理由で、色んなことが出来るようになったのだ。




どんなに知識や技術を持っていたって、

飛び込む勇気がなければ何も始まらない。


だったら、先に飛び込んじゃえばいい。

知識や技術は後から必ず付いてくる。



まずは、アホみたいな動機から全てが変わる。


全てが始まると思う。




ちょっと話が逸れちゃいましたね。


実際に僕がモテたかどうかは、ご想像にお任せします。笑



旅の洗礼②初めてのトンネル…




しかし、やっぱり計画は大切だ。



笹子。



そう、あの大事故のあった笹子トンネルの笹子だ。


この旅で初めての大きなトンネル。


しかし、事故のあった笹子トンネルは、中央自動車道の高速道路のトンネル。


国道20号線を通る笹子トンネルは、新笹子トンネルと言って、


全くの別物なのだ。


別物だと知らなかったため、ちゃんと通れるのかどうか事前に少し調べていた。



「笹子トンネル 歩き」



と検索すると、何とも恐ろしい情報ばかりだった。




「危険極まりない!」

「トンネル狭い!歩道無し!」

「人の通る場所じゃない!」



自転車の人でも危なくて、

そこの区間だけは電車を使うこともあるらしい…。



この笹子トンネルを迂回する方法は、

トンネル手前の笹子峠という山道を通るルートがある。



しかし、峠道はクネクネしているし、

アップダウンもあるため、あまり歩きたくはない。



僕は迷ったが、その時に決めることにした。

余裕があったら笹子峠。

先を急ぐようなら、トンネルを通る。



そして、その時が来た。



トンネルの少し手前、空き店舗の大きな駐車場で、先の道のりの準備をした。

ヘッドライトとペンライトを装着し、心を落ち着かせた。



相変わらず、雨は降り続いている。


ほぼ山の中のため、霧も出てきていた。



「笹子峠も危険だな…。」



雨の山道は、足下も悪い。

霧も出ているため、視界も悪いだろう。



「入り口まで行って、整備された道なら笹子峠を通ろう。」



そう決めて歩き出した。



笹子峠入り口…。





「何か閉鎖されてるー!!!」



歩行者は入れたのかもしれないが、

やはり、雨の山道は危険だ。


僕の中で、笹子峠の選択肢が消えた。



「トンネルを通るしかない!」



人が通れない訳ではない。


「きっと大丈夫!」


しかし…


内心超ビビっていた。



でも、このトンネルを通るしか、先には進めない。


トンネル入り口まで行く。





一応、歩行者に注意と書いてある。


しかし、歩行者なんて一人もいない。


何せ、人が通るような道ではないのだから。




思ったより交通量が多かった。


思ったよりというか、めちゃめちゃ多かった。


しかも、すげースピードで通り抜けていく。


そして、何と言っても狭い!


絶対事故るよ!このトンネル!!




左車線を歩くのは危険だ。


不意打ち100%地獄決定だ。



ヘッドライトがドライバーに見えるように、

右車線を歩こう。



右車線に移動し、ヘッドライトを点滅モードにした。

そして、覚悟を決め、

車が通り過ぎたタイミングでトンネル内に入った。





写真では伝わらないかもしれないが、

歩くスペースなんて本当に無い。



一応白線が引いてあるが、白線の内側の半分は轍になっていて、

雨でぬかるんでいる。


これがまた滑る。


壁は少し触れただけで袖が真っ黒になってしまうほど、ホコリまみれだ。




しかし、そんなことは言ってられない。



本当になんでこんな細い道で、こんなにスピード出すんだよ!!!


ってくらい、猛スピードで車がやってくる。



特に危ないのはトラック。


歩けるスペースは靴一足分くらいだろうか。


どうやっても白線からはみ出て歩くことになる。


そんな中、トラックは壁スレスレで通ってくる。



半端じゃない恐怖だ…。





ちょっとはみ出したら、本当に死ぬ。


ちょっと足を滑らせたら、本当に死ぬ。


本当にというか、絶対に死ぬ。


絶対に…。






僕は壁に張り付いた。



先の信号の関係か、車の通りが少しの間だけ途切れるタイミングがある。


そのタイミングを見計らい、車が通らないタイミングで、全力ダッシュ!!


20kgの荷物を担いで全力ダッシュ!!!


そして、車が来たら、壁に張り付く。


また車が去ったら、全力ダッシュ!!!



これを繰り返した。



そして、この恐怖の笹子トンネル。



なんと、全長2953m。


約3kmを全力ダッシュしては張り付き、

ダッシュしては張り付きを繰り返した。


3kmの間、もちろん休憩なんて出来ない。

引き返すことも出来ない。


抜けるまでに何分くらいかかっただろうか。


3㎞を普通に歩いたとしても、20分〜30分はかかると思う。


その距離を、いつ猛スピードの車に轢かれてもおかしくない状況で歩き続ける。



全く生きた心地がしなかった…。



トラックの恐怖。

ドライバーからの視線。

確実に交通妨害をしているという罪悪感。


泣きたくなるくらい恐ろしい。


穴があったらソッコー入りたかった。


でも、止まっている方が恐ろしい。


とっとと抜けないと、この恐怖は終わらない。


僕は、必死で前へ進んだ。


出口が見えてきたが、出入り口こそ危険だ。


トンネルに入ると一気に暗くなるため、

外から入ってくるドライバーは、トンネルの中が一瞬見えなくなる。


さらに人が歩いてるなんて、全く思っていない。


慎重にトンネルを出るタイミングを見計らった。


そして、やっとトンネルを抜けた。


思わず、


「よっしゃ!!」


と声が出た。


奇跡の生還をしたような気分だった。


本当に奇跡体験アンビリバボー。


この笹子トンネルを歩いて通り抜けたことがあるという人がいたら、

僕は黙って右手を差し出すだろう。


あの恐怖は、ヤバい。


間違いなく、人が通る道ではない。





初めて死に直面した。


ほんの数十cm先に「死」があった。


一歩一歩に命が懸かっていた。


もの凄く怖かった。


足が震えるほど怖かった。



そして、それを切り抜けた時は、


嬉しかった。


ただの普通の道に出ただけなのに、凄く安心した。



生きる喜びって、生きてる実感って、


こういうことなんだと思った。



当たり前が当たり前じゃなくなって、


また当たり前に触れられた時。


当たり前は、本当は当たり前じゃないんだなって思った時。


そういう時に、本当の喜びや、幸せを実感出来るんだと思う。




台風の接近…



笹子トンネルを抜けると、


甲斐大和という道の駅があった。





3kmも死と隣り合わせだった僕は、ドッと疲れが出た。


雨のせいで身体が冷えていたが、全身びしょ濡れのため、

店内には入らず、外のベンチで休憩をしていた。


余裕で白い息が出る。


歩いているときはそれほど寒さは感じないが、


止まると一気に身体が冷える。




2日目のゴールは石和温泉。



あとどれくらいあるのだろう?



タオルで身体を拭いて、店員さんに聞いてみた。



僕:「石和温泉まであと何キロくらいありますか?」



店員さん:「10km〜15kmじゃないかなぁ?」




僕:「まじか…。」




この時、時刻はすでに16時過ぎだったと思う。



あと1時間くらいで暗くなる。



「急がねば…。」



前の道をひたすら真っ直ぐ進めば着くらしい。



僕はまた歩き出した。




雨が強くなって来た。


頭のてっぺんから、足の裏までビッチョビチョ…。


足、肩の痛みも酷くなってきた。



辺りはすっかり暗くなり、歩行者なんて誰一人いない。


ずぶ濡れになりながら、独りで暗い道を歩く。



今すぐにでも休みたいが、休める場所なんてない。


休んでる時間なんてない。



身体の痛みと、容赦なく打ち付ける雨に何度も心が折れそうになった。


でも、絶対に諦めなかった。


辛い思いをするために旅をしているのだから。




大きな道に出た。





勝沼大橋。



勝沼バイパスに入る手前のとても大きく、キレイに舗装された道だった。


今まで、狭い歩道を歩いてきたため、久しぶりの広い道に開放感があった。



相変わらず、誰一人として歩いている人はいない。


雨が降っているため、車は窓を閉め切っている。



僕は歌った。


全力で歌った。



疲労と寒さで、身体はもう限界に近かった。



声を出さないと、心が折れそうだった。


歩いても歩いてもゴールに辿り着かない状況に、

今にも泣き出しそうだった。




耳につけたイヤホンから、RADWIMPSの有心論が流れた。



「今日も生きて、今日も生きて、そして今のままでいてと…」




僕は生きている。


そして、今日も生きて終わる。


僕は、生きてゴールに行くんだ。




そんな当たり前のことに気付かされた気がした。



「今日も生き抜いてやる!」



やることはただ一つ。


歩くだけだ。


前へ進むだけだ。



勝沼バイパスに向かう大きな一本道をひたすら歩く。



「??????」




バイパス?



今までずっと歩いてきた国道20号線が、そのままバイパスになる。


※バイパスとは…自動車両専用の道路である。




人歩けないじゃーん…。


道は繋がってるんじゃないのかよ…。


何だよこの地図…。





思い出して欲しい。


僕が買ったのは、バイクのツーリング用の地図だ。



地図のせいには出来ない。


しかし、この地図を勧めたあの店員の責任だ。


いや、すべては僕の無知が引き起こした問題だ。


僕の責任だ…。



何とか、通れる道は無いかと、行けそうな道を歩いたが、


事件が起きるんじゃないかってくらい真っ暗で、


真っ直ぐな道ではなく、細かい曲がり角や、


下っては上っての繰り返しだった。



前に進むのに効率が悪すぎる。



この時、18時を回っていた。


予定では遅くても19時には到着していたかったのだが、


100%不可能だ。



どこかで道を確認しなくては…。



雨が激しくなって来たため、屋根のある休めるところを探した。



しかし、ここはバイパス。


周囲にそんなところは無い。



しばらく歩くと、閉店したお店らしき建物があった。


屋根ではないが、入り口なら少し雨はしのげそうだった。



腰を下ろし、スマホを取り出す。


googlemapを開くが、手が濡れていて画面が反応しない。


手を拭いても、頭から流れてくる雨粒が画面に落ち、


全然操作が出来ない。



雨の日のスマホは全然スマートじゃない。



それでも何とか現在地を確認することが出来、


石和温泉までの道のりを探した。


すると、ちょうどたまたま休憩した場所の交差点を曲がった道を行けば

辿り着くことが出来ると分かった。



超ラッキーだった。


やはり僕は持っている。



そして、休憩しているほんの10分くらいの間に、

母親から電話があった。



「台風大丈夫なの??」

「危ないから早く避難して!!」



母親はめちゃくちゃ心配していた。


そりゃそうだ。


日本海まで行くって言って、台風の夜にも連絡が来ないんだから。


きっと、どっかで死んでいるかも…


と思っていたに違いない。



僕はそんなことより、道も電話も、ナイスなタイミングだな!


と感動していた。




国道20号線を離れ、住宅地に入る。


歩いている最中は、スマホは見れない。


googlemapの記憶を頼りに前へ進む。



見馴れた街ならどうってことないが、

知らない街の住宅地は、大きい道と違い、何の目印も無く、どの道のどの辺を歩いているのかさえも分からない。



地図では、道なりに真っ直ぐだったが、

三角路など、中途半端な曲がり角はどちらに進んでいいのか全く分からない。



何となく、「こっちだろう」と思う方向に進んでいった。



雨はどんどん強くなる。


排水溝から水が溢れ、靴はグチョグチョ。


雨が顔に当たり、前を見て歩くことも出来ない。



いつまで経っても着かない。


疲労はピークに達していた。


一刻も早く休みたい。


しかし、完全に迷子になった…。


僕は、住宅地で迷子になった。



そんな時、交差点の向かいにセブンイレブンを発見。



こうなりゃ現地人に聞くしかない。



全身ビッチョビチョのまま店内に入った。


一応、入る前に水滴は払ったつもり。



店員さん達は、


「とんでもない奴が来た…。」


みたいな表情だった。


えぇ、そうですとも。


台風の日に傘もささずに住宅地で迷子になったとんでもない奴ですとも。



「石和温泉までどうやったら行けますか?」



店員さんの思っていることは確信に変わった。



「えぇ!?石和温泉!?」


「こっから結構あるよ?」



ガビーン…。



だった。



僕の脳内地図では、あと2キロくらいだと思っていた。

しかし、現実は遥か遠くだった…。



「じゃぁ、この辺で泊まれるところないですか?」



住宅地にあるコンビニで、こんなことを聞く奴は恐らく一人もいないだろう。



しかし、ここに一人いた。



店員さんは少し考えたあと、もう一人の店員さんを呼んだ。



「ルートインなら行けるんじゃない?」



「石和温泉行くよりは近いよ!」



僕は、石和温泉まで行って、この冷え切った身体を温めたかったが、

この際そんなことは行っていられない。


さすがにもう身体が限界だ。



「ルートインってどうやって行けばいいですか?」



すると、



「この前の道を真っ直ぐ。」

「ずーっと真っ直ぐ行くと、ドリームがあるから、その先だよ!」



「ありがとうございます!」



何も買わなかったが、しっかりとお礼を言ってコンビニを出た。



これで僕は休むことが出来る。

やっと今日の寝床確保だ。


しかも、ちょうど目の前の道を真っ直ぐだという。


このコンビニで道を聞かなかったら、僕は彷徨い続けていただろう。



ラッキー過ぎるぜ僕。

やっぱり持ってるぜ僕。



少し元気が出た。


そしてまた歩き出す。



ドリーム、ドリーム、ドリーム…。



ドリーム?ドリーム?ドリーム?



ドリームって何だー???



僕は、店員さんがおばちゃんだったこともあり、

スーパーか何かの名前だと思っていた。



しかし、いくら進んでもドリームというスーパーは無い。


もしかしたら、閉店時間を過ぎて電気が付いてない店なのかもしれない。


そもそもスーパーじゃないのかもしれない。



僕は必死にドリームを探した。



一つ一つ看板に気を付けながら、ドリームを探した。



無い…。



ここまで無いと、この道が正しいのかさえ不安になってくる。



ドリームはどこだ?



もうすでに足を曲げるのも、伸ばすのも痛過ぎて、小股でしか歩けない。


20kgの荷物で肩も半端じゃなく痛い。


寒い。


「もうこれ以上歩けない…」

「もうこれ以上歩けない…私は…」


イヤホンからチャットモンチーが流れた。


本当にその通りだった。


しかし僕は信じた。


あのコンビニのおばちゃん達を。


そして、必ずドリームがあることを。



コンビニを出てから30以上経った頃だと思う。


一際目立つ照明の建物。


めちゃめちゃ明るい照明の建物。



「ドリームラボ」



「これかー!!!!」


「ドリームってパチンコ屋だったのかー!!!」



全然スーパーじゃなかった…。


しかも、看板を必死に探さなくても、結構遠くからでも一際目立っていた。


きっとあのおばちゃん達のドリームなのだろう。




とりあえず、この道で間違いない。



少し安心した。



そしてさらにしばらく歩くとついに…。





「ルートイン発見!!」



やっと休める。


この時、20時を回っていた。


目の前にデイリーヤマザキがあった。


部屋から一歩も出られないくらいに疲れていた僕は、先に食料を調達した。



そして、ルートインへ。





「一人なんですけど…」



フロントの人の顔が歪む。



「ちょっと待ってくださいね。」



「………。」



「あっ、一部屋だけ空いてます!」




ギリギリセーフ!!!



もしも、満室だったら…。


ルートインの目の前でこの台風の中、テントになるところだった。



しかし、やはり僕は持っていた。



こうして、無事にチェックインすることが出来た。



本来のルートを少し外れたが、そんなことだってある。


明日また頑張ればいい。


しかし、台風大丈夫なのか?


直撃じゃないのか??


どうする?


どうする僕…???



つづく…。



2日目の成果!!


【歩数】

47166歩

【消費カロリー】

1603.6kcal

【歩いた距離】

28.29km(歩数計調べ)

30km(googlemap調べ)

【歩いた時間】

9:00〜20:30





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