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15/4/5

【第八話】『旅人になった日』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜

Image by Olia Gozha

1日目「旅の始まり」





ついに僕は歩き出した。




初めての旅。


初めての一人旅。




ずっと憧れていた




「旅」






僕は今、念願の「旅人」になったのだ!






ほんの少し住宅街を抜け、国道20号線へ出る。




同じ神奈川県にも関わらず、そこは全く知らない世界。




「この道が日本海まで繋がってるんだ!」




そう思うと、どこにでもある普通の道路が、

一本の光の筋のように輝いて見えた。






1日25㎞以上歩かなければならない。




今日のゴールは山梨県の笹子。




このゴール設定はもちろん、ちゃんとした距離を測った訳ではなく、


地図の縮尺を指で測って、ちょいちょいとやって決めている…。




なぜGooglemapを使わなかったのかと言うと、


この時僕は、Googlemapで距離が表示されるのを知らなかった…(苦笑)








笹子といえば、笹子トンネル。




ちょうどこの旅の少し前に、


笹子トンネルで大事故があったため、


ニュースで幾度となく名前は耳にしたことがある。




そう、名前しか知らない。




どんな町なのか?


宿泊施設はあるのか?




なんてことは全く調べていない。






「テントもあるし、何とかなるべ!」




この気持ちだけで、




「日本海へ行こう!」




と決断し、実行してしまうんだから、


人間なんて、本当にやる気になれば、

出くわす環境なんてほとんど関係ない。




身一つあれば、行動する条件なんて、すでに揃っているのだ。




と思う。








しかし僕は、国道20号線を歩き出して間もなく、


自分の無知に、計画の無さに、苦しめられることになる…






最初の景色…




少し歩くと、相模湖が見えてきた。




神奈川県に住んでいても、相模湖なんてちゃんと見たことなんてない。




僕は見るものすべてが新鮮に感じた。




すべての景色を目に焼き付けておきたかった。




「一番キレイに見える場所はどこだ?」




辺りを見回すと、高台へ続く階段があった。




めちゃくちゃ急な。




その階段を上る。




半端じゃなく思い荷物を背負いながら、

急な階段を上るのは、少し勇気がいる。




でも、目の前に美しい景色があるのに、


少し頑張れば、その景色が手に入るのに、諦めるなんてもったいない。






この旅で僕は、後悔は絶対にしたくない。




「あの時あぁしていれば…」




なんてことは一つも残したくないのだ。






後悔する時は大抵、

本当は出来たのにやらなかった時だ。



出来ることは何でもやる!




それがこの旅でのルールなのだ。






そうして高台の頂上へたどり着いた。







「うーん。相模湖だね。」



「キレイだけど。」




後悔しないために行動をしても、

最高の結果が手に入るとは限らない。





しかし、どんな結果であれ、


結果を知ることが出来たこと以上に最高の結果は無いと思う。




すべては経験。




とりあえず、急な階段を上り切った自分を褒めてあげよう。






そして、その階段を下る。






上りより、下りの方が断然危険なのだ。




旅開始から1時間くらいで死ぬ訳にはいかない。




僕の探している死に場所は、どこか分からないが、

決して此処ではないということだけは分かる。




慎重に下りて、元の道へ戻る。




当たり前のことだが、元の道へ戻ったという事は、

どんなに体力を消耗していても前には進んでいないということだ。




「この疲労の対価があの景色かよ…」




なんてことは思っちゃいけない。




後悔はしないのだ。




思い荷物を担いで、

急な階段を登ってはいけないことが分かっただけで、

良しとしようではないか。




そして僕はまた歩き出す。




一気に緑が増え、神奈川県から山梨県に続く山の峠道に入る。






「あれ?歩道が無い…」






歩道が無い…






地図には「道」がある。




「道」とは元々、人が歩くために造られたものだ。




人が歩けるようになっているのは当たり前。




だと思っていた…。




道には必ず歩道があると思っていた…。




しかし!




僕が買ったのは、ツーリング用の地図だ!


歩き用ではなかった…。




歩道があるのは、市街地や、住宅街といった、人が歩いて行動をする場所で、


そこ以外の場所は、人は歩いて行動などしない。




今、僕が歩いてるのは、神奈川県から山梨県に入る峠道。




隣の県に行くのに、歩いて行くだろうか?




普通の人は電車やバス、車、バイクなどの交通手段を使う。





当然、




「山梨まで歩いて行ってきまーす!」




なんて人はいない。




人が歩いて使わない道。




人の歩くスペースなんていらないのだ。




すなわち、人が歩くような道ではないのだ…。




ということは、車を運転している人たちも、


人が歩いてるとは全く思っていない。




容赦ないスピードで、峠道を攻めて来る。




最初、僕は道路の左側を歩いていた。




後ろからもの凄い音を立てて、バカでかい鉄の塊が高速で接近してくるのだ。



しかも、通り過ぎるまで目には見えない。



視界に入った時は、超至近距離で僕の真横を猛スピードで通り過ぎていく。



「ひぃっっっ」



後ろから突っ込まれたら、回避のしようがない。


100%不意打ちであの世に行くことになる…。




僕が知りたいのは、答えだ。


本当の自分の気持ちだ。




闇雲に死にたい訳ではない。




常に背中に、死の恐怖を感じる…。


歩いているだけで、死の恐怖を感じたことがあるだろうか?




反対車線へダッシュ!!




高速で車が走り抜けるところを横切るのは結構勇気がいる。


しかもめちゃくちゃ重たい荷物を担いでダッシュするのは、もの凄い体力を消耗する。



「あぁっ!」



なんてコケちゃった時には、もう完全にあの世行きだ。




ただ歩くだけなのに、すべての動作に神経を使う。




それでも、冷や汗をかきながら、無事に反対車線へ辿り着く。




これで、後ろからの恐怖は無くなった。




しかし、今度は正面から恐怖を味あわなければならない。




不意打ちから、真っ向勝負になる。




不意打ちよりはマシだが、


本当に真っ向勝負になったら、100%負ける戦だ。


僕の運命は、前からやってくる車のドライバーにかかっている。




僕は、そのドライバー達に自分の存在を知らせながら歩いた。



ムダに大きな動作をしてみたり…


車道寄りに歩いてみたり…


ドライバーに熱い視線を送ってみたり…






僕の運命を握るドライバーに自分の存在を知らせた。




しかし、決まって返ってくるのは、




「なんでこんなとこ歩いてんだ…こいつ…」




という冷たい視線だった。






「道」とは元々人が歩くために造られた道である。




しかし、幾年もの時を超え、文明が発達した今、




人の歩くスペースなど全く無い。


人が自由に歩く権限は無い。


そこに僕の居場所は全く無かった。




恐るべし…文明…




生きた心地のしないまま、そんな道をしばらく歩いた。




でも、悪いことばかりだった訳じゃない。




歩いていたのは山の峠道。




山の中なのだ。







交通量は結構あったが、道の周りは緑が生い茂っている。




「こんな緑を見たのはどれくらいぶりだろう?」




現地の人にとっては、緑があるなんて当たり前のことかもしれない。


僕の地元にも、結構、緑はある。




でも、こんな風に全身で緑を感じたのは本当に久しぶりだった。




それだけ周りを見る余裕が無かったのだ。




木があって、草が生えて、花が咲いている。




こんな当たり前のことを忘れてしまっていた。




だからこそ、見るものすべてが新鮮で、キラキラ輝いて見えた。






「こっちは紅葉がもう始まってるんだな。」



歩けば歩くほど変わっていく景色に、


ストーリーのある映画を見ているようで、


楽しかった。




ただ、歩くことが楽しかった。






山梨県突入…








山梨県上野原市。


山梨県に突入した。







高速道路の高架下、


長い上り坂だった。




ここで、第一村人に出逢う。




交通整理のおっちゃん。




バカでかい荷物を担いで、山の中からやってきた一人の青年を見て、


おっちゃんは、通行車を止め、僕のために道を空けてくれた。


そして、



「こっち側だったら歩道があるから!」



と、安全な道を教えてくれた。


とても優しい顔と声だった。




いい人だった。




今まで猛スピードで僕の命を轟かす

悪党ドライバー(決して悪党ではないが…)と戦って来たせいか、


人と話すのが久しぶりだったからか、


そのたった1つの行動と、たった1つの言葉に感動した。




「ありがとうございます!」




このおっちゃんに会うことはこの先無いだろう。


でも、間違いなく僕の記憶に刻まれた。


僕を助けてくれた人。




道中、たくさんの交通整備の人に助けられた。


中には無愛想な人もいたけれど。




交通整備って、なんかお金に困っている人がやっているイメージで、


正直あんまりいい仕事とは思ってなかったけど、


通行人や通行車の安全を常に考え、仕事をしている。


時に、道案内をし、時に、人助けをする。



誰かのために仕事をしている人は、

どんな仕事であってもカッコいいと思う。




「おっちゃん!ありがとう!」




僕も誰かのために…


手を差し伸べられる人になりたいよ。




そんなことを思った。






それから、少し市街地に出たが、


山梨は、やはり神奈川とは違った。













街に、自然が溢れている。


当たり前にある景色から季節を感じ取ることが出来る。




「山梨県って良いところだな!」







甲州街道に入り、ひたすら歩く。




そこで、僕は第二村人に出逢う。






少し先に見える葬儀場から、2人の夫婦が歩いてきた。




60歳を過ぎたくらいだろうか。




おじさんと、おばちゃん。




僕は、声をかけられた。




おばちゃん:「どこまで行くの?」




僕:「日本海までです!」




おばちゃんはギョッとしていた。




そりゃそうだ。




山梨県で話しかけた奴が、日本海へ行くなんて、

後にも先にも聞いたことのない答えだろう。




おばちゃん:「まぁ、えらいわねぇ!」




なぜか褒められた。




僕は内心、




「全然えらくない。」


「仕事もしないで、周りの人に心配をかけ、更にはこの旅は死に場所を探すのが目的だ。」


「えらいどころか、僕は最低の人間なんだよ…」



と思っていたが、


おばちゃんは更にこう言った。



「若い子が頑張ってる姿は嬉しいわ。」


「時間があったら、うちでお茶でも飲んでいかない?」




この言葉でおじさんがギョッとした。




そりゃそうだ!


見ず知らずの変な格好をして、



「日本海まで歩いて行きます!」



なんて訳の分からない言葉を発する奴が家に来る…


なんて思ったら、誰だってギョッとする。




「うち寄ってけ!」




なんてテレビの世界かと思っていたが、現実に存在するんだなぁ。




もう少しおばさんと話をしてみたかったが、


僕には時間がない。


日が暮れれば、悪党ドライバー(決して悪党ではないんだけど…)の餌食になる。




「ありがとうございます!」


「でも、今日のゴールまでまだまだなので…」




とお断りをした。




「えらいわねぇ。」




褒められて嫌な気持ちはしない。




僕は何だか、この旅が正しいことに思えてきた。


ここまで独りで決めて、独りで準備して、独りで実行してきたけど、


本当は正しい決断なのか、どうなのか自分でも分からない。


本当は誰かに背中を押して欲しかったんだな。




「おばちゃん、ありがとう!」




あの夫婦は、葬儀場から出てきた。


きっと大切な誰かを喪ったのだろう。


大切な人を喪い、悲しい思いをしているのに、


見ず知らずの人に、


「うちでお茶でも飲んでいかない?」


なんて言えるだろうか?




僕ならきっと自分のことでいっぱいいっぱいで、

他人のことなんて構っていられない。




でも、そんな時にこそ誰かのために何かが出来るのが、

優しさってものなんだと思う。




何となくぼんやりとだけど、何か大切なことに気付けた気がした。






夫婦と別れ、僕はまた歩き出す。




甲州街道。





左手に川を見ながら、山の中を歩く。




ただひたすら。


スタートから10㎞くらいだろうか。




事件が起きる。








ストックのキャップが紛失した。




排水溝の蓋に、ストックがスッポリと入り、

その拍子にキャップが取れてしまったらしい。




排水溝の蓋にストックがハマると、

後ろからグッと引っ張られたように、急に体がのけ反る。


歩くリズムが一瞬で途切れてしまう。


何度も何度も排水溝にハマった。


調子よく歩いていたのに、何度も足止めをくらう。


ずっと歩き続けるより、止まって歩いてを繰り返す方が遥かに疲れるのだ。



仕事をしていても、普段運動はしていない。


しかも、この2ヶ月間くらいは家で寝転んでいるだけの生活だった。



体力がどんどん消耗していく…。



さらに足が痛くなってきた…。



僕は、足の裏にグリップの付いた五本指ソックスを履いてた。


ネットで、歩くのはそれが一番いいと書いてあったから。


しかし、そのグリップのせいで、足の裏が痛い。


完全に情報に踊らされている…。


新しい靴だったため、靴擦れも出来てきた。


足が痛くなったら、酷くならない内に手当てをするのが賢明だとネットに書いてあった。




先も長いため、恐らくこの情報は正しい。




少し広いスペースのあるところを探し、僕は休憩することにした。


荷物と靴、靴下まで脱ぎ、少しでも体を休ませる。







応急処置はバッチリ!




ストックのキャップは先のどこかで買おう。



ゴール変更!目的地は大月…



そして僕はまた歩き出す。




ひたすらひたすら歩く。




流れるように移り変わっていた景色はここでは全く変わらない。




出口も、入り口さえも見えない道をひたすら歩いた。




「今、どれくらい歩いただろう?」




Googlemapの使い方が分からない僕は、


今自分がどこにいるのかさえも分からない。




ただ一つ分かるのが、大月カントリークラブまで、12㎞だということ。




電信柱に広告の看板に、


「大月カントリークラブまであと12㎞」


と書いてある。




「大月カントリークラブまであと10㎞」


「大月カントリークラブまであと8㎞」




いつまで経っても、


大月カントリークラブ…




ずぅーっと、変わらない道。


目に見えるのは、


大月カントリークラブまであと…







時刻は午後4時を回った。




まだ変わらぬ景色を歩いている。




このままでは日が暮れる…。




夜になったら、危険だ。




何せ、街灯なんてありゃしないんだから。




大月…




ラジオの交通情報で、よく大月JCTって聞くな。




大月はきっと大きな街だ!




今日のゴールは大月駅にしよう!


駅前ならどこか宿があるだろう。




1日目にして、ゴール変更…。




しかし、この判断は正しかった。






やっと、山道を抜けた。




そしてついに…







大月カントリークラブ!




なんか感動した。




最初は12㎞先だったのに、今は350mで左折するところまで来ている。


すんげぇ歩いた。




そしてこの場所では、電車が走っている。





甲府行きの電車。




この電車や、僕を追い越していく車を見て思った。




人間はなんて非力なんだろう。




25㎞なんて、電車や車ならほんの数十分で辿り着いてしまう。




しかし、その距離を歩こうとすると丸一日かかる。




人間は非力だ。


世の中はどんどん便利になっていく。


しかしそれは、人間の知恵が優れているのではなく、

人間の非力さを必死で隠してきたように思えた。




人は、独りでは大した力なんて無い。


今の世の中が当たり前になって忘れてしまっているけど、


当たり前のことって、本当はもの凄いことなんだ。


本当は、もの凄くありがたいことなんだな。




そんなことを思った。




それから、日が暮れ、辺りは真っ暗。







足も、肩も、体全身が痛い。


しかし、立ち止まる訳にはいかないんだ。




ゴールまで辿り着かなければ、終わることはない。


この疲労から、痛みから、解放されることはない。




市街地へ入る。




が、もうまともに歩くことさえ出来ない。




足を引きずりながら、必死で歩いた。


行き交う人達の視線も気にせず、


ただ前へ前へ。


一歩ずつ一歩ずつ歩いた。




そして、ついに…










1日目のゴールに辿り着いた。




初めての一人旅。




予想してたより、ずっとハードだ。




これを明日も明後日も、なの明後日も、自分が納得するまでやり続ける。




明日の身体が心配だ…。




しかし、無事にゴールに辿り着いた自分を少し褒めてあげよう。





今日の成果!


【歩数】


41443歩


【消費カロリー】


1409.0kcal


【歩いた距離】


24.86㎞(一歩60㎝計算)


28㎞(Googlemap調べ)


【歩いた時間】


8:20〜19:00








さて、明日も全力で歩こう!

前へ進もうじゃないか!









つづく…。



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