ばあちゃん「ごめんな、いつも迷惑ばかりかけてすまんな」
オレ「ええよ…やりたいことはもうないん?」
ばあちゃん「うん、もうないわ。何もしとうない。もうな、早く楽になりたいわ」
オレ「…でも、楽になれるかどうかもわからんやんか」
ばあちゃん「ほら、わからん。わからんけどな、こっちにおっても、おるだけで苦しいんよ」
オレ「そうか…でも、そうしたら悲しむわな」
ばあちゃん「そうやけど、それはもう仕様がないやんか」
オレ「…そうやな。わかった。ほんま、ようわかったわ…あと言うことはないか」
ばあちゃん「ううん、何もない。これまでよう言ってきたから、心配ないわ」
オレ「そう…ほな、ほんま、ありがとう」
ばあちゃん「ごめんな、いつも迷惑ばかりかけてすまんな」
オレ「迷惑なんて思っとる人誰もおらんよ」
ばあちゃん「うん、わかっとる。ほんま、ようしてもらっとる。ありがとう」
オレ「うん、ありがとう」

これが、ばあちゃんと最後に交わした主だった会話だった。
ばあちゃんは豪快で厳しい人だった。
自分が家を守っている、そういう誇りと強さがあった。
ばあちゃんが亡くなって、その葬式で僕はできるだけ礼節を保った。
それがばあちゃんを弔う一番ふさわしい姿勢だと思った。
式場にチリひとつないよう気を配った。
ばあちゃんの最期に僕も加わっていることが誇らしくて、涙が出た。
じいちゃんは寡黙で気ままな人だった。
どこかいつも外れたところを見ている、浮遊した軽さがあった。
じいちゃんが亡くなって、その葬式で僕はできるだけ気ままにふるまった。
それがじいちゃんを弔う一番ふさわしい姿勢に思えた。
酒を飲んで、しんみりせずに、気楽にいた。
じいちゃんがその姿を微笑んで見ているようで、涙が出た。
ばあちゃんとじいちゃんは口けんかが多かった。
一方は自分勝手だと思え、もう一方は強引だった。
彼らはずっと口げんかを止めず、それなのに数か月のうちにバタバタと二人とも逝った。

泣くって本当は、悲しいとかいう風に、単純に言葉にできるものではないのだと、思う。
言葉にもできず、何かもわからず、ただそこにいたい時がある。
それは、その人がくれた幸せな時間だと思う。