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15/3/30

ばあちゃんとじいちゃんのおれ

Image by Olia Gozha

ばあちゃん「ごめんな、いつも迷惑ばかりかけてすまんな」

オレ「ええよ…やりたいことはもうないん?」

ばあちゃん「うん、もうないわ。何もしとうない。もうな、早く楽になりたいわ」

オレ「…でも、楽になれるかどうかもわからんやんか」

ばあちゃん「ほら、わからん。わからんけどな、こっちにおっても、おるだけで苦しいんよ」

オレ「そうか…でも、そうしたら悲しむわな」

ばあちゃん「そうやけど、それはもう仕様がないやんか」

オレ「…そうやな。わかった。ほんま、ようわかったわ…あと言うことはないか」

ばあちゃん「ううん、何もない。これまでよう言ってきたから、心配ないわ」

オレ「そう…ほな、ほんま、ありがとう」

ばあちゃん「ごめんな、いつも迷惑ばかりかけてすまんな」

オレ「迷惑なんて思っとる人誰もおらんよ」

ばあちゃん「うん、わかっとる。ほんま、ようしてもらっとる。ありがとう」

オレ「うん、ありがとう」




これが、ばあちゃんと最後に交わした主だった会話だった。


ばあちゃんは豪快で厳しい人だった。


自分が家を守っている、そういう誇りと強さがあった。




ばあちゃんが亡くなって、その葬式で僕はできるだけ礼節を保った。


それがばあちゃんを弔う一番ふさわしい姿勢だと思った。


式場にチリひとつないよう気を配った。


ばあちゃんの最期に僕も加わっていることが誇らしくて、涙が出た。




じいちゃんは寡黙で気ままな人だった。


どこかいつも外れたところを見ている、浮遊した軽さがあった。




じいちゃんが亡くなって、その葬式で僕はできるだけ気ままにふるまった。


それがじいちゃんを弔う一番ふさわしい姿勢に思えた。


酒を飲んで、しんみりせずに、気楽にいた。


じいちゃんがその姿を微笑んで見ているようで、涙が出た。




ばあちゃんとじいちゃんは口けんかが多かった。


一方は自分勝手だと思え、もう一方は強引だった。


彼らはずっと口げんかを止めず、それなのに数か月のうちにバタバタと二人とも逝った。





泣くって本当は、悲しいとかいう風に、単純に言葉にできるものではないのだと、思う。

言葉にもできず、何かもわからず、ただそこにいたい時がある。

それは、その人がくれた幸せな時間だと思う。 

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