317 研修生
上野先生の「生き延びるための思想 新版」一冊だけしか、山形県の温泉旅行に持って来なかったが、 361ページの本を初めから最後まで、ゆっくり集中して読む事ができた。
私の好きな一人旅であるが、 読みがいのある本を持参していると、旅に深みを与えてくれる。
東北出身と自認していたつもりであるが、 小、中、高校時代と20歳迄位しか、宮城県に住んだこともない。
当然、子供時代はお金も無く、東北6県を旅して回った事も無かった。
山形県の赤湯温泉を、今回生まれて初めて訪問した。
自然の美しさを愛でながら、毎日一万歩をこなすため、大正時代の面影が残る宿泊中の旅館のまわりを歩き回った。
旅館の裏側近くの山の中腹に神社があり、古く長い石段をゆっくり登った。 神社の境内から、眼下に赤湯温泉郷を見下ろす事ができた。
しかも、山形県と言うだけあって、幾重にも山々が見え、秋の紅葉の中に自分がいた。
赤湯温泉郷の周辺は、自動車社会らしく、高速道路が続き、 その高速道路に並行して、農家の人々が日常利用する普通の道路があった。
ほとんど車も通らず、 私だけの道と思えるほど、
一人のんびり、近くの低い山々の紅葉を楽しみ、道の両側に自然に生えている野草を見ながら歩き回った。 すすきが風になびき風情をていしていた。
朝晩温泉を楽しんでいるが、 宿泊客が少なく、温泉も独り占め感を楽しんだ。
今朝は、珍しくほとんど私と同時に、割と背が高く若い女性がお尻を隠す下着をつけたまま、浴室に足を踏み入れ、私の存在に気づいた上、 下着を全部自分がまだ脱ぎ終わっていない事にも気づき、脱衣室に姿を消した。
全裸体で再度姿を現したその女性は、シャワーの後、温泉に入ろうととして、「あ、昨日よりお湯が熱い。」と。 私も、思わず「熱いですね。」と、反応した。
「でも、身体はこの暑さに直ぐ慣れるね。」と、その若い女性は肩まで温泉の中。 「そうですね。 何でも直ぐ慣れてしまうものですね。」と私。それから、少し会話を楽しんだ。
日本語のアクセントから、日本人でないと直ぐ察した。 中国から看護師として、5年前に福島県の田舎の養護施設で働いているそうだ。
「今回の赤湯温泉一週間の滞在は、看護師研修会に参加するためだ。」と、その女性は話してくれた。
末期癌患者などの看護手法等を、長年この道一筋に働いて来た先輩講師から、毎日5時間以上の講義を受け、最後に試験もあるそうだ。
日本でも、 外国人労働者を少し受け入れ始めたようだ。 私も、移民としてアメリカ生活が長い。
40年以上アメリカに住んでいても、アメリカ生まれの人は、すぐ私が外国生まれだと気づく。 もちろん、アメリカの事、アジア人であるだけで、外国生まれである確率は高いが、英語にあきらかな外国訛りがあることでも、外国生まれであると即判断されてしまう場合が大半だ。
一週間の研修後、また、福島県の田舎にある養護施設の職場に戻るそうだ。
毎日、10時間以上の勤務で、身体はくたくた。」と、その女性は温泉に浸かりながらつぶやいた。