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15/3/3

俺が財閥の家庭教師だったときの話1

Image by Olia Gozha

これは俺が塾を始める前の話だ。

あの頃はゴルゴ13に狙撃されるとまずいと思ってさすがに封印していたが、今その封印を解くことにした。

初めて語るこの話は、少し長いので分けて書こうと思う。

なぜこの話を今になってするかだ…

俺を狙うかもしれないゴルゴ13がこんな名言を残している。

「……10%の才能と20%の努力………そして、30%の臆病さ……残る40%は……運だろう……な……」

えっ?

狙撃依頼成功率99%のゴルゴちゃんって40%も運だったの?

まるでバファリンみたいな…

俺も運は結構いい方だしぃ…

もしかして、ゴルゴちゃんから逃げ切れるかも?


実は俺は、塾の先生になる前の少しの期間は家庭教師をやっていた。

3ヶ月間くらいだった。

普通の家庭教師じゃない。

なんと教科書に載ってるような超財閥の家庭教師だったのだ。

あるだろう。

M井、M菱、S友、Y田って。

それの最初の方にでてくる、Nみたいなイニシャルの家に家庭教師に行っていた。


あー。怖っ。

ゴルゴにやられるかもしれない。

もしも、この秘密があの財閥に漏れたら…

俺が不思議な死を遂げたときは、暗殺を疑って欲しい。

そして、銭形のとっつあんに…

銭形のとっつあんにすぐに知らせて欲しいのだ。


なに?

早く始めろだと?

わかってるって。

まあ、急ぐな。


本当は俺は家庭教師になりたいわけじゃなかった。

ただ、金持ちになりたかった。

だから俺は、14年も勤めていた化学会社をやめて、給料のいい家庭教師派遣会社に就職した。

最初はそこでやっていこうかと思っていたのだが、高額教材を売りつけるための悪徳会社だったので給料日の直前に辞めた。

その後、俺は一人で家庭教師を始めることにした。

俺は自分が子供の頃は塾に通ったことないし(貧乏だったから)、ましてや家庭教師を雇ったことない。

でも、俺は勉強の世界が大好きで、そして子供が好きだったから、俺が家庭教師をやることにしたのだ。


そして話はここからなのだ。

なぜ俺が財閥の家庭教師を…

そしてどういう経緯でその仕事が入って来たのかをお前に教えてやろう。


お前も同じようにやれば財閥の家庭教師に…

いや、これは運なのだ。

ゴルゴちゃんが言っているように…

俺にどういう運があったかそれを話すぜ。


あれは、家庭教師を始めて一ヶ月目のことだった。

一ヶ月目なので、ほとんど生徒もいなかった俺はヒマを持て余していた。

そんなとき電話が鳴った。

「ハロー?ミック?」

その相手は、俺が会社にいたときに英語を教えに来てくれていたゲイという女の先生だった。

ゲイってのは名前だから、間違うなよ。

確か20代後半くらいだったと思う。

すごく明るいアメリカの人だった。

(でも、見た目は完全な日本人だった(日本語は話せない))

そして待ち合わせのファミレスに言ったら、ゲイが俺にこう言った。

「ミック、私アメリカに帰ることになったの。今までいろいろありがとう。」

「ああ、でも俺、会社辞めちゃったからもう何の役にも立たないよ。俺こそありがとう。」

「じゃあ、あなた何してるの?もう研究してないの?」

「うん。俺はただの家庭教師になったよ。」

「ああ、ミック。私もこの前まで家庭教師やってたのよ。そういえば、そこの家が子供の家庭教師を探してたわよ。」

生徒が欲しく欲しくてたまらなかった俺は、ゲイに頼み込んだ。


「ゲイ、俺、今生徒がいないんだよ。その家を俺に紹介してもらえないか?」

「いいわよ。じゃあ、紹介してあげるね。」

「ハロー!」

離れた席に向かって、ゲイが叫んでいる。

「ハロー。」

女の人が応えた。




「ミックあの人よ。」


…マジで?



ドラマのような展開に俺はびっくりした。

どう考えてもおかしいだろう。

最初から仕組まれてたのか?

ドッキリか?これは。

いや、俺は今、自分が会社を辞めたことを話して、ゲイは知らなかったから仕組めるはずがない。

でも、なんで?

まあ、いいや。

とりあえずチャンスが来たことだけは確かだ。

一人でも生徒が欲しい。

いや、正しくは1000円でも2000円でもお金が欲しいのだ。

「あの、すみません。ゲイから家庭教師を探してるって伺ったのですが、僕、あの、家庭教師をやっていまして…」


ここからが勝負だ。

ここから上手に上手にやらないと大切な大切なお客様がいなくなってしまう。

まずはとにかく体験授業をさせてもうことだ。

そこで気に入ってもらうしかない。

体験授業をさせてもらえなければ、どうしようもない。

「ええ、そうなの。来てくださる?」

「はい、いつでも伺えます。体験授業は…」

「いいわ。そういうの。すぐにでもお願いするわ。」

マジで?

そんなことってあるか?

今会って、10秒くらいしか話していないし、自己紹介もしてないし、金額の話もしてないし、子供さんの情報も一切わからないし…

「じゃあ、ついて来てね。」


ファミレスを出て、近所の高級住宅地へと車は向かった。

着いた先は見たこともないような白亜の豪邸だった。

…ガチで?

「上がってください。」

玄関には巨大な生け花があり、階段は周囲が白い大理石で真ん中には絨毯が埋め込まれていた。

通されたリビングには暖炉があり、とにかくこんな豪邸が山口県にあることさえ知らなかった。


ところで確認なのだが、この家は財閥ではない。

普通のお金持ちの家だった。


俺がなぜ財閥の家に行くようになったかという秘密は、この家から始まるのである。

つづく。

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