top of page

13/3/15

ミスターマリックとなぜ僕が戦うことになったのか(第二章 ~蹉跌~)

Image by Olia Gozha

そんな数奇な運命の糸(意図)に手繰りよされた出会い。それがマリックさんとの出会いであった。

僕は、子供の頃に劇団ひまわりに通っていた持ち前の演技力を発揮し、鼓動が聞こえるほど心の中では大きな動揺をしていたが、全く同様をするそぶりを見せず無表情を装った。

「あんた誰?」顔である。

しかしながら、そこは百戦錬磨なマリックさん、僕の一瞬の顔のひきつりを見逃さなかった。

その証拠に僕がイリュージョニストであることを見抜いていた。イリュージョニストであるということはすなわちマリックさんの存在を知らない訳がない。彼は皆の羨望の的であったのだから。

「イリュージョン」とは心理学を駆使する科学だと僕は定義している。この時はまさしく心理戦であった。

マリックさんはおもむろに、そのネジを僕に見せながら、「これは何に見えますか?」と問うた。

僕はスパコンの速さで頭の中で2つの答えを用意した。

一つは、ストレートにネジであると伝えること。

一つは、相手を混乱させるための何の関係も無い物を伝えること。

僕は後者を選択し、しかも彼がその場に用意できるはずもない物を伝えた。

「温泉」と。

彼ぐらいのレベルがあれば事前準備の時間さえあればこのイリュージョンはやってのけるはずだ。

が、ここはただの東急ハンズ。出来る訳もない。

そう、これはつまり僕の彼に対する完全なる挑戦状なのだった。

「温泉」と聞いた後に彼はニヤッと微笑み、ネジを掌の中に握った。「ハンドパワーです」といういつものフレーズを口にしながらその握ったこぶしに対し、反対の手でパワーを送るパフォーマンスを行い、一本ずつゆっくりと指を開くと、ネジは無くなり、その代わりに、くしゃくしゃになった紙が存在した。

マリックさんは僕にそれを取るように促し、その紙を恐々開くと、そこに書かれていたのは、

「麻布十番温泉入浴券」

という文字であった。

完敗であった。完全なる敗北感。

彼は僕のスパコンの速さよりもはるかに速い光の速さで答えを導いたのだ。

人生最大の蹉跌であった。

つづく

つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

忘れられない授業の話(1)

概要小4の時に起こった授業の一場面の話です。自分が正しいと思ったとき、その自信を保つことの難しさと、重要さ、そして「正しい」事以外に人間はど...

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 1

2008年秋。当時わたしは、部門のマネージャーという重責を担っていた。部門に在籍しているのは、正社員・契約社員を含めて約200名。全社員で1...

強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話

学校よりもクリエイティブな1日にできるなら無理に行かなくても良い。その後、本当に学校に行かなくなり大検制度を使って京大に放り込まれた3兄弟は...

テック系ギークはデザイン女子と結婚すべき論

「40代の既婚率は20%以下です。これは問題だ。」というのが新卒で就職した大手SI屋さんの人事部長の言葉です。初めての事業報告会で、4000...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

bottom of page