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15/2/21

第13話 ルカとの出会い【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】

Image by Olia Gozha

マチュピチュに行くタイミング

※前回の話はこちら⇒第12話マチュピチュの予言



宿の扉を思い切り開ける。



クスコの街は快晴だった。

青い大きな空と、街をくるりと囲む山が気持ちがいい。



私は地図を見ながら、

とりあえずマチュピチュのチケットが買える場所を見に行くことにした。

 


 ー 一人では行かないで!必ずタイミングが来るから。



なっちゃんから言われた言葉がどうしても気になる。



 ータイミング、一体何のことだろう。いつ来るんだろう?



考えても仕方がない。とにかく動くしかない。



クスコの街は石造りの細い道が続いている。




道の両側では、お土産屋さんやご飯屋さんがぎゅうぎゅうに並んでいた。



客引き「ヤスイヨー!」


客引き「トモダチ−!ハポン!」



客引きたちの変な日本語をくぐりぬけ、細い路地を抜けていく。

チケット売り場まで、まだ大分歩かないといけない。



方向音痴の私は何度も地図を確認してはバックにしまった。



地図を持って歩いていると初心者だとバレて狙われる、

なんてそんな噂があったからだ。



細い小道も終わりようやく人通りの大きな道に出ると

そこは観光客や地元の人で賑わっていた。



そのとき、ふと男の子とスレ違った。



ボロボロの色あせた青いレインパーカーにツバのついたニット帽。

いかにも”旅人”という格好をしている。



ーあれ?日本人・・??



チラリと見た横顔は、深く帽子を被っていて、

そしてよく日に焼けすぎたのもあって国籍が分からない。



そのまま通り過ぎてしまう。



すると、後ろから小さく挨拶が聞こえてきた。



「 こんにちわーっ 」



ハッと振り返る。

その後ろ姿はもう1ブロック先まで行っていた。



…日本語だ!日本人だ!



それはクスコで初めて会う日本人だった。

気づいたら、私はもう走って彼を追いかけていた。




まほ「あ!あの!!もしかして日本人ですか!」



追いついた背中に、思い切り声をかける。




男の子「ウッアっ!ビックリしたーっ!」




物凄く驚いた声をあげて、彼は振り向いて止まった。

すごく驚かしてしまったようだ。




まほ「あ、す、すみません。こんにちわーって聞こえたんで、日本人だって思って。この街で初めて日本人に会いました!」



男の子「あぁ、ほんとっすか。ビックリしたー。俺もさっき着いたんですよ。」



彼は少しぶっきらぼうに答えた。



きちんと顔を見ると、彼はちゃんと日本人だと分かった。

随分背が高くて、見上げるように話さないといけない。



真っ黒に焼けた顔に大きな目。


深く被った帽子からは、

鼻筋が通っていて彫りの深いキレイな顔がのぞいていた。



やっと日本人の旅人に会えた!

私はというと、彼のそっけない態度も気にならないくらい、

とにかく久しぶりの日本人に興奮していた。



もうだれでもいい!なんて失礼な話だけれど、

とにかく日本人と話したかった。



まほ「あ、あの、どのくらい旅をしてるんですか?」



とりあえず会話をつなぐ。




男の子「あぁ、今日でちょうど1年なんすよ。南米ばっかりずっと旅してて。」


男の子「お姉さんは?最近でしょ。服が新しいもんね。」




彼はそう言うと、私の着ているパーカーと靴をジロリと見た。

何だかまだキレイなのが少し恥ずかしくなる。



彼の服は大分年季が入っている。というか、もうかなりボロボロだ。

かなりガチな旅人なんだろう。




まほ「1年も南米!すごいですね!えっと、何しにクスコに来たんですか?」



なんとなくした当り障りのないその質問。

しかし、それはもしかしたら前兆だったのかもしれない。



彼の口から思わぬことばが出たのだ。




男の子「実はあんまり遺跡とか行かないんだけど。何でかマチュピチュだけは行こうと思って。」


男の子「お姉さん、マチュピチュまでの情報持ってないすか?俺、携帯もパソコンも本も何も持ってなくて、どう行くか知らないんですよ。」



その途端自分が今まさにマチュピチュ行きのチケット売り場に行こうとしていたのを思い出した。




ーマチュピチュに一人で行かないで。




今朝のなっちゃんのことばがよぎる。




ー絶対タイミングが来るから。それに乗って!



えっ?あれ?これってまさか…。

でも、”そのタイミング”ってこんなに早く来るの!?



それは宿を出て1時間も経っていない出来事だった。



でも私のカバンには、確かにマチュピチュ行きの情報が全部入っている。

彼は、今日で旅が一年目とも言っていた。



重なる偶然。

久しぶりに”前兆”に出会ったような気がした。



鼓動が早くなる。



まほ「は、はい!行き方、全部知ってます。というか、今チケット売り場に行こうとしてて。」



男の子「え??ほんとに??うわぁ、ラッキー!じゃあ俺もチケット一緒に買いに行っていいですか?」



私は何だかワクワクしていた。



なっちゃんの予言が、当たったのかどうなのかはよく分からない。

だけれどこの面白い流れに思い切り流されたくなった。



また、逆らえない波が私をさらって行くような、そんな感覚がやってきた。




まほ「あの!どうせなら、一緒にマチュピチュいきませんか?」




いつもなら戸惑いそうなそんな言葉も、私の口から迷いなく出ていた。

彼はそれを聞くと、よく日に焼けた顔でニカッと笑った。



無愛想な彼の、笑顔はなかなか可愛らしかった。



ーマチュピチュからが、まぁちゃんの転機になるよ!



なっちゃんの謎の大予言が聞こえてくる。



そうして私は、ついさっき出会った男の子と旅をすることになっていた。

数時間前では考えられない。




ルカ「俺はルカ。よろしく。」


まほ「あ、私はまほです。こちらこそ、よろしく!」




出された右手を、私も強く握った。

真っ黒に焼けた彼の手の甲と、まだ真っ白な私の手をつよく結ぶ。



また彼は目を小さくしてクシャっと笑った。

初めて旅の仲間が出来てしまった。



そうして私の旅は、ガラリと変わってしまったのだ。



ルカ



彼の名前は”ルカ”と言った。

東京生まれ。私より少しだけ年上だった。



長く働いた会社を辞めて、貯めたお金で世界一周の旅に出ていた。

期間は5年らしい。



そして、今日はちょうど1年目。



彼はなかなかおもしろい旅をしていた。

好きな土地に住んでみたり、現地のヒッピーと自給自足をしたり

ゲストハウスで働いてみたり。



そしてメキシコからゆっくりと南下してきていた。



真っ黒に焼けた彫りの深いキレイな顔は、

背が高いのもあって、よく見ないと日本人には見えない。



それが、初めて出来たちょっと無愛想な旅の相棒だった。






そうして私たちはそのまますぐマチュピチュのチケットと、

マチュピチュ行きの電車のチケットを買いに出発した。



心配していたスペイン語の受付も、

南米1年の旅でスペイン語がペラペラなルカがやってくれる。



スペイン語が難しいところは、彼は英語で対応していた。

アメリカに留学もしていたらしい。英語はもっと流暢だった。



最強の相棒を手に入れた気分だ。



そうして全てのチケットを買い終わった頃には、

クスコの街はもうすっかり薄暗くなってしまっていた。




日の落ちたクスコの街は、太陽から街明かりへと変わっていた。

賑やかなセントロまでゆっくり歩きながら話す。



夕方のクスコは、一枚羽織らないとかなり肌寒かった。

肩をすぼめながら二人で歩いた。




ルカ「えっ?マジかよ。じゃあまほちゃん、このペルー人から書いてもらった地図だけで旅してんの??」


ルカ「他に地図ないの?ってかペルーも本の主人公だけで決めちゃったの?」


 

まほ「う、うん…。」



ルカは呆れたのか感心しているのか、驚いたように何度も質問してくる。

リョニーさんに描いてもらった一筆書きの地図を、不思議そうに見ていた。



とりあえず、私はこの1年で起こったことや、

ソウルカラーのこと、旅に出た理由などを説明していた。



初めて出来た旅の相棒だ。ちゃんと全部話しておかないと。




ルカ「はは。俺も結構変わった旅してると思ってたけど、まほちゃんも違う意味で、かなりヤバイね。」




一体何が”違う意味”で、何が”かなりヤバイ”のかよく分からなかったけれど。

ルカは笑っていた。



そして、今度は私がルカに質問する番だ。聞きたいことなんて山ほどある。



まほ「じゃあ、ルカはなんで旅をしようと思ったの??」



背の高いルカを見上げながら話す。



ルカ「え、う〜‥ん。本当の自由を知りたかった、からかな。南米って、じゆうだーっ!って感じじゃん。日本って窮屈だし。南米の雰囲気大好きなんだよね。」



まほ「へ〜。そっかぁ。」



ルカの言う通り、彼を見ていると本当に旅が好きななことが分かる。



旅で身につけたスペイン語で、

路上のおばさんやヒッピーたちと気さくに話しをしていた。


その時の彼はとてもいい顔をしている。



ペルーの空気に、彼のマイペースさや気質がとても合っている気がした。



まほ「じゃあ、何でペルーなの??何でクスコにいるの?」



また私が重ねて質問する。



ルカ「え…。それは、マチュピチュがあるから‥。」



まほ「え?ふ〜ん。でも遺跡に興味ないって言ってなかったっけ?」



ルカは自分の経歴みたいなことはよく話してくれるのに、

ペルーに来た理由は、何だか誤魔化される感じがあった。


なかなか話してくれないのだ。



そして、ペルーには”なんとなく来てる”というより、

何かを探しているような、ちゃんと目的があるような、そんな印象だった。



私の勘だけれど。



ルカ「まぁいいじゃん。まほちゃん!ほら、明日ここだよ。この下に集合ね。OK?」



結局、質問ははぐらかされたまま私たちはセントロに到着してしまった。

セントロの、噴水のベンチの前を指差しながら彼は言う。



明日から、クスコを出てマチュピチュに出発するのだ。



そしてルカは乱暴な車をうまくさえぎりながら道路を渡っていく。

もうサッサと自分の宿の方に歩いて行っていた。


歩くのが早いルカは、あっという間に細い坂道を上がっていく。



まほ「あ!ルカ!バイバイ!明日ね!」



私はあわててさよならを言った。



ルカは後ろも振り返らずに、

背中越しに適当に手をあげるのが見える。

バイバイのつもりなんだろう。


無愛想な、何だか不思議な相棒が出来てしまった。



ルカの背中が坂道に消えるまで、彼の姿をぼーっと眺めていた。

クスコの街が、今までと少し違う風に見える。



つい最近まで私にとってこの街は、不安で寂しくて孤独な街だった。

でも今は新しい冒険に出るような、ワクワクするそんな場所だった。



夜のクスコの街はキラキラと輝いている。

少し高ぶるような気持ちだった。



リョニーさんから描いてもらった地図をもう一度取り出してみる。

その地図は、大切にあのノートの間にはさんであった。




   何の為に生まれて 何をして生きるのか

   答えられないなんて そんなのは嫌だ!

                      ”



表紙に書いたことばが嫌でも目に飛び込んでくる。

これが、私の旅の目的かあ。



まるで他の誰かが随分前に書いたような、不思議な気持ちだった。

ノートと地図を丁寧にカバンにしまって、私も自分の宿へと歩き出した。



空はうっすらとオリオン座が出ている。

明日からは、ついにマチュピチュに出発だった。


ーマチュピチュからがまぁちゃんの転機になるよ!



もうなっちゃんのことばは少し忘れかけていた。



__________

この物語を書き始めて、もう1年が経ちました。

第1話はグアテマラ、そしてメキシコ、セドナ、と旅しながら、

この第13話は舞台のペルーに戻って書くことができています。

本当にありがとう!


そして本当に素敵な方との出会いがあり、

この物語が、本になることが決まりました。

出版は4月予定です^^


この物語が世界中の”前兆”となるように、

心から願って。


____

※都合により一部名称や設定を変更しています^^

読んで良かったを押してもらえると、とっても嬉しいです^^//!


__________________

5年後の私より。

このストーリーは2015年に書籍化となり、
2019年にベストセラーとなったんだよ!

この本を出してから、人生が変わったという人からたくさんメールが届くんだよ。最後まで書くのが本当に怖かったけれど、絶対書いてよかった。

『あーす・じぷしー はじまりの物語』
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