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15/2/14

2100㎞離れた恋、台湾人の天使と過ごした5時間。

Image by Olia Gozha

2012年9月。


僕は台湾と香港へ旅に出ていた。





台湾での享楽を終え、香港へ向かうために台北桃園空港に来た。

ただし、香港へ行くために、また一度上海に戻らなければならない訳のわからないルートだった。

上海のトランジット時間は5時間もある。5時間も空港に留まるなんてことをしたら僕は死ぬので、上海を軽く観光しようか。


そんなことを思いながらゲートに向かうと、さすが中国、安定して飛行機が遅れていた。

上海観光はおそらく不可能となったが、何も問題はない。ぜんぜん大丈夫だ。


一枚の紙が配られ、その紙に関しての説明と現状について、中国語での説明しかなされなかった。


困っている僕に、1人の台湾人女性が話しかけてきた。

彼女は英語と、少しだけ日本語が話せたため、現状を説明してくれた。

「飛行機は2時間遅れているみたい」

「この紙は、空港内で使えるお金のようなものよ!」

「なるほど!」

精一杯のありがとうの気持ちを伝え、そのチケットを使い、1人でバーガーキングで食事をした。


そろそろ時間だ。

ゲートに向かう。


……彼女はいない。


飛行機へ乗り込み、ぼけーっと読めない機内誌を眺めていると、彼女の姿が見えた。


偶然にも彼女は斜め後ろの席だった。


小中学生時代、席替えで好きな子の近くの席になったときの、なんとも言えない興奮を思い出した。


重そうな荷物を持っていたので、さっきのお礼も兼ねて、荷物を棚に入れてあげた。


「さっきはありがとう。おかげで助かったよ」

「いいのいいの。こちらこそ荷物をありがとう」

「台湾の人?」

「そう、お休みで家に帰っていたの」

「上海では何を?」

「留学(多分)しているの」


などとつたない英語で会話をしていると、CAさんが中国語で話しかけてきた。


「ちょわちょわにーそいやさっさー」

「……???」

「一昨日もあなたを見たって言ってるよ」

なんと!確かに、一昨日同じ航空会社で上海から台湾に入った。

CAさんの記憶力、すごいな!僕なんて名刺を貰った人の顔すらその日の内に忘れてしまうのに。

彼女と会話をしているうちに、少し寝てしまった。


…………



ぐわんぐわん!


うおお!!なんだ!!



ポーン

「シートベルトをお締めください!」

「電子機器の電源をお切りください!シートベルトをお締めください!」

お、おいおい、マジか!!


ぐおーん!

ゴゴゴゴゴゴ!

「キャー!!」

どこかで子供が叫んでいる。


無理もない。窓の外では雷が鳴り響き、上下左右に飛行機が揺れている。


ポーン

「ただいま悪天候のため飛行機が揺れています。しかし、心配はご無用。皆様の安全は保証します。」

機長からのアナウンスだ。だだだ大丈夫だ。何も心配することはない。

この航空会社は事故率で言ったら36位。JALよりも安全なはずだ。

しかし、なぜだろう。すげえ不安なのは……


ゴゴゴゴゴゴゴ!!!


わーッ!ダメだ!!終わった!このまま墜落して死ぬんだ!

でもそうなれば後ろの彼女と天国でいつまでも……


いやいや!ダメだ!僕も男だ。

こんなことでビビっていたら、後ろの天使もさぞ怖がってしまうことだろう……


話しかけようと思って後ろを振り向くと、そこには!



爆睡している彼女がいた。



……なんという肝っ玉だ。


しばらくすると飛行機は安定し、彼女も起きてきた。

彼女に今までのいきさつを話し、窓の外に稲妻が見えると言ったら、興味津々で窓の外を見つめ始めた。

遠くで稲妻が光ると、興奮した様子だった。


「そういえば君は上海で何をするの?」

「ちょっと観光をしようと思ってたけど、飛行機が遅れたからすぐに香港へ向かわなきゃならないんだ。」

「そっかぁ……」

気のせいかもしれないが、このときに彼女が見せた、ほんの少しだけ寂しそうな顔は忘れられない。



そうこうしている内に、一度も墜落することなく飛行機が上海浦東空港に到着した。

できればもっと乗っていたかったけど。


荷物を取ってあげて、入国審査だ。彼女と一旦別れ、入国審査も問題なく終了。

乗り継ぎの飛行機の時間が迫っているから、優先的に通してもらえた。


そろそろお別れの時間だ。それはわかっている。



預けた荷物を受け取り、僕は搭乗口

彼女は空港の出口へ向かう。


これが映画だったらここでなんらかのことが起こるが、現実ではそんなことはない。


香港行きのチケットを破り捨てて彼女の元へ走ることもせず、連絡先を聞くことも、Facebookで友達になることも、名前を聞くことすらできなかった。


エレベーターに乗り込んで行く彼女の笑顔も、一生忘れられない。

僕もできるかぎりの笑顔で見送り、別れた。



(それから2年後、上海浦東空港で別れた場所で)


おそらく、あの天使とはもう二度と会うことはできない。

本気で好きになった人には何もできないことを知った22の夏の終わりでした。

上海へ予定通りに飛行機が飛んでいたら仲良くはなれなかったし、勇気を出して連絡先を聞いていたら、こんなに心に残る思い出になることもなかったのかもしれない。

多分、これでよかったんじゃないかな。


あの天使は今、どこで何をしているのかな……

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