top of page

15/1/14

つり革にかかった傘

Image by Olia Gozha

今日は午後9時前くらいの電車(正確には汽車)に乗った。 






夜の地方のローカル単線に、学生とスーツ姿がパラパラと乗り込む。


都会の顔を失ったような気配のない車内ではなく、どことなく人がいる気配がするのは不思議だ。

それほど親密ではないが、無防備なのだ。







つり革の手を持つところに傘が3本かかっている。

ひとつは黄色で、後は透明のビニール傘。

通路をはさんで向こうに座っている女子高生の持ち物らしい。

傘はひとつのつり革に仲良く並んでかけられている。






それを眺めながら、ぼんやりと思う。


傘はつり革にはかけないものだと誰が決めたのだろう。


かける理由もないが、かけない理由もない。

車内はガラガラで、誰の邪魔にもなっていない。


でも、これを見た大人の多くは、顔をしかめるのだろうな。

そして幾人かは女子高生に注意する。

傘はつり革にかけないものだと。

それさえ言わないかもしれない。






傘をつり革にかけないように、人々は社会を作っている。

実は社会の多くのことは、単に傘をつり革にかけないためだけに整備されているのではないかと思ってしまう。


女子高生はそれに遅かれ早かれ気づいて、自分からつり革の傘をとるのだろう。

そして、いつしか傘はつり革にかけないものだと覚える。

昔を青春だとか若かったとか呟いて、傘をつり革にかけていたことさえ忘れるだろう。






「僕は未だに傘をつり革にかけたらいけない本当の理由を、理解できたことがないんだ。」







女子高生は注意されずに、そのまま傘を持って最寄りの駅に降りていった。

僕も降りなければならない。

明日いつものようにするために。 

←前の物語
つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

フリークアウトのミッション「人に人らしい仕事を」

情報革命の「仕事の収奪」という側面が、ここ最近、大きく取り上げられています。実際、テクノロジーによる「仕事」の自動化は、工場だけでなく、一般...

大嫌いで顔も見たくなかった父にどうしても今伝えたいこと。

今日は父の日です。この、STORYS.JPさんの場をお借りして、私から父にプレゼントをしたいと思います。その前に、少し私たち家族をご紹介させ...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

あいりん地区で元ヤクザ幹部に教わった、「○○がない仕事だけはしたらあかん」という話。

「どんな仕事を選んでもええ。ただ、○○がない仕事だけはしたらあかんで!」こんにちは!個人でWEBサイトをつくりながら世界を旅している、阪口と...

あのとき、伝えられなかったけど。

受託Web制作会社でWebディレクターとして毎日働いている僕ですが、ほんの一瞬、数年前に1~2年ほど、学校の先生をやっていたことがある。自分...

ピクシブでの開発 - 金髪の神エンジニア、kamipoさんに開発の全てを教わった話

爆速で成長していた、ベンチャー企業ピクシブ面接の時の話はこちら=>ピクシブに入るときの話そんな訳で、ピクシブでアルバイトとして働くこと...

bottom of page