top of page

15/1/2

絵本は心の拠り所 その6

Image by Olia Gozha

動揺

 私は電話に出た。受話器の向こうには,明るい声の女性がいた。

「森内先生,今日はぜひ,具体的な話をさせていただきたいと思いまして。」

「え〜っと。私はまだ,お受けするとは言っていないはずですが…」

「承知しております。でもみんな,すごく乗り気なんですよ。読み聞かせを日々実践されている方の話を伺うことができるなんて…」

「ちょっと待って下さい!たしかに私は,毎日絵本の読み聞かせをしています。でもそこには,系統だったものなんて,なんにもないんですよ。ただ単に,子どもが喜んで…」

「先生,それが大事なんですよ! 子どもが喜んでいる。そのことが,どれくらい子どもの心を育むか,それをお聞かせいただきたいんです。系統とか,理論とか,それはあったほうがいいんでしょうけど,私たちは読み聞かせの実際と,子どもの笑顔の様子が聞きたいんです!」

 そこに妻が割って入る。

「いいんじゃない,話してあげれば。あなた,人前で話すの,嫌いじゃないでしょ」

 受話器越しに妻の声が聞こえたのだろう,電話の主は語気を強めた。

「奥様もそう仰っておられますし。先生,お願いしますよ!」

「んん…しかし…」

「私たちの研修会が,網走市内で開かれることになったんですよ。その時にぜひ!」

「いや〜…」

「やってあげればいいでしょ」

という妻の言葉に,思わず

「ちょっとまってくれ!」

と,私は動揺して叫んでしまった。私の剣幕に驚いたのか,電話の主は,

「また改めてお電話させてください。失礼します。」

と,そそくさと話を終えてしまった。今日は無理強いはできないと判断したようだった。


 静まり返った室内。私ははっとして妻のほうを見た。彼女は表情を固めたままで,微動だにしなかった。

「ごめん,大きな声出しちゃった…」

という私の声を聞いて,ようやく我に返った妻。私をまじまじと見つめて,

「どうしたの。なにかあるの?」

と,ゆっくり尋ねてきた。私は胸につかえているものを,ようやく吐き出すことができる時が来たことを感じた。

(つづく)

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

フリークアウトのミッション「人に人らしい仕事を」

情報革命の「仕事の収奪」という側面が、ここ最近、大きく取り上げられています。実際、テクノロジーによる「仕事」の自動化は、工場だけでなく、一般...

大嫌いで顔も見たくなかった父にどうしても今伝えたいこと。

今日は父の日です。この、STORYS.JPさんの場をお借りして、私から父にプレゼントをしたいと思います。その前に、少し私たち家族をご紹介させ...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

あいりん地区で元ヤクザ幹部に教わった、「○○がない仕事だけはしたらあかん」という話。

「どんな仕事を選んでもええ。ただ、○○がない仕事だけはしたらあかんで!」こんにちは!個人でWEBサイトをつくりながら世界を旅している、阪口と...

あのとき、伝えられなかったけど。

受託Web制作会社でWebディレクターとして毎日働いている僕ですが、ほんの一瞬、数年前に1~2年ほど、学校の先生をやっていたことがある。自分...

ピクシブでの開発 - 金髪の神エンジニア、kamipoさんに開発の全てを教わった話

爆速で成長していた、ベンチャー企業ピクシブ面接の時の話はこちら=>ピクシブに入るときの話そんな訳で、ピクシブでアルバイトとして働くこと...

bottom of page