【その1】大学卒業後、ろくに就職もせずにカケモチでしていたバイトを辞めて7日間だけの旅に出たら、人生が少しだけ明るくなった話。
【その2】大学卒業後、ろくに就職もせずにカケモチでしていたバイトを辞めて7日間だけの旅に出たら、人生が少しだけ明るくなった話。
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自分の宿泊ベッドに荷物を置いた僕は、まるで修学旅行中の中学生のように、非日常を全身で味わいながら1Fに降りた。

誰もいないフリースペース。ゆんたくルームとも呼ばれていた。
せっかくの旅だ。気の赴くままに起きていよう。日付はもうすぐ24時。辺りをみまわすと本棚がある。とりあえず、近くの本棚の漫画を手に取る。「迷走王ボーダー」。中身を見るまでもなく、俺の人生も迷走してるなあ、ハハハーとかなんとも都合のいい理由を付けて、読まずに本棚に戻した。なんせ、今日は50ccのバイクで150kmも移動してきたのだから、漫画を読む体力なんて微塵も残されていなかった。僕は少しまどろんだ。

トントントン、、、足音がした。
20代後半だろうか。目がくっきりした黒髪の女性と目が合う。長期で滞在している入居者のようだった。
「あっ、どうも」
「あっ、すいません。僕山下っていいます。大学卒業してバイトしててやめて今度予備自衛官の訓練うk、、、、、、」
「そうなんだ。私Aっていいます。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします!Aさんは、ご出身はどこで、どんな仕事されてるんですか?」
「私?私は関東の出身で、スポーツインストラクターの仕事とかしてる。ところで、なんでそんな事きくの?」
「えっ?なんでって、、、すいません。。」
「そんな事聞いて、何になるのかと思ってさ、、、まあいいんだけど。」
Aさんは、目を丸くして僕の目を覗き込む。
「はぁ。」
その時、僕は猛烈に反省をした。
僕が人から聞かれたくなかった事を、そのまま挨拶代わりに初対面の人に聞いてしまったのだ。僕も、僕が嫌いな人たちがデフォルトで兼ね備えている強烈なステレオタイプを持っていた事が、自分の一言であらわになってしまった。
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Aさんは、3.11を機に名古屋から西へ移動してきて、ここのゲストハウスにたどり着いたようだった。放射能によって脅かされた食の安全について。自分の人生観について。色んな話をしてくれた。
自分の手で捌けるもの以外の動物は食べないだとか、自分で小さな畑を借りて、オーガニックのものを育てている、とか、漢字のなりたちや言葉のちからについて、とか。
「言葉って面白いよね。自分が発言した事が現実になるんだからさ。」
「そもそも毎日働く必要も無いし、決められた時間ずっと働き続けるのもどうかと思ってるんだよねー、どう思う?」
「月の半分しか働きたくなくてさ、そんでもって◯◯万円稼ぎたいってずっと言い続けてたら本当に叶っちゃったんだよ、すごくない?」
「もういろんな遊びも経験したし、◯ッ◯スも飽きたしさ、なんか人の役にたつことしたいなーと思って今、◯◯大学院に行きたくて勉強してるんだ。」
「えーっと。。。。」
月に半分働いて◯◯万円ももらって、小作農もやってさらに◯◯大学院(日本最高峰)に行こうと研究してる、、、?しかもセ◯◯ス飽きたって20代の多感な男子の前で平然と言ってのけちゃう感性をお持ちのあなたはなにものですかーーー
僕は、その美しい容姿から全く想像しえないオネイサンの破天荒な人生を目の当たりにして、思考が完全にストップしていて、何一つリアクションができなかった。
、、、2時間ほど話しただろうか。時刻は午前3時をまわっていた。
「なんだそのそっけなさは!!!!」
終始たいしたリアクションもできなかった僕をAさんは軽く叱りつけたあと、
少しあくびをして、 おやすみ といって、自分の部屋へと戻っていった。
このまま目をつぶってしまう事がもったいないくらいだったが、
体が限界を迎えていた。
部屋に戻り、寝支度をしているとなにやら、外からザーザーと聞こえる。
。。。。大雨だ。つくづく雨に見舞われる旅だな、と思いながら眠りについた。
翌朝も、雨脚が弱まることはない。バイカー(僕はただの原付だけど)やチャリダーにとって雨は死活問題である。
オーナーさんの、
「もう一泊しちゃいなよ!」
の一言に、僕は延泊を決めたのだった。
これから、また何が起こるんだろう。
完全に無計画な旅はまだ、続く。

