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15/3/4

私が作・編曲に取り組む理由 その3

Image by Olia Gozha

指導者講習会①

 私が学校で見つけたもの,それは,研修センターで行われる『器楽指導者講習会』のプリントだった。

 私はすぐに校内の研修担当教員に相談した。その年,研修に当てられた旅費は潤沢にあったので,私の希望は満度に叶えられることになった。講習会とは,どんなことをするのだろう,学校の教師なので私自身は“指導者”といえなくもないが,専門の先生がいっぱい来るんだろうな,専門的すぎて全く刃が立たなかったらどうしよう,質問されてもちんぷんかんぷんだったりして…

 その日の夜,興奮した私はなかなか寝付くことができなかった。しかし布団の中でのひとときは,楽しい時間であった。

 学芸会の終了から1ヶ月,私は研修センターに車を走らせた。胸躍る一日のはじまりだ。秋の陽光は温かく,私を歓迎してくれていた。周囲を見回してみた。私の見知った顔はひとつもなかった。どの顔も専門家然として見えた。それはまるで,入試に挑戦する日の“自分以外は自信満々に見える”という,懐かしい感覚に似ていた。

 私の前には,器楽の指導について高度な話をし続ける専門家がいた。音楽用語が飛び交い,自分には到底実現不可能なレヴェルの実践が報告されていた。驚きながらそれらの話を聴き続けている間,私はずっと自問していた。これは私にとって意味のある時間なのだろうか,と。

 講習の1コマ目,90分間が過ぎた。15分の休憩時間,私は休憩室で紫煙を燻らせていた。全く理解できない,お手上げの90分。私は睡魔とも戦っていたので,煙草の力を借りて眠気を吹き飛ばした。あっという間に休憩時間が過ぎる。私はのろのろと体を起こし,研修室に戻った。

 部屋に入った私は呆気にとられた。90分を過ごした,あの部屋と同一とは思えなかったのだ。机と椅子は取っ払われ,だだっ広い空間には様々な楽器類がところ狭しと置かれていた。私はある予感に,ゾクッとした。私の予感が正しければ,これからは楽しい時間になる。

 次の90分の講師が登場した。彼は私たち受講生を見渡して,こう告げたのだ。

「先生方,音楽は楽しいものですよ。これからの時間は,まず先生たちが楽しさを味わってください。そうでなければ,子どもたちは決して楽しむことはできませんから」

 いいぞ,いい! 私の参加したかったのは,こういう講習会だったのだ! 最初の90分に覚えた眠気と違和感の正体を見つけて,私の心は踊った。しかしその直後,講師の発したひとことで,私は立ち尽くした。

「では先生方,好きな楽器の前に立ってください。これから1曲,仕上げましょう!」


(つづく)

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