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14/12/5

シンデレラ症候群

Image by Olia Gozha

私は、物心ついた時から 自分に対して(特に容姿)に大きなコンプレックスを持っていた。


◯もっと痩せていたら…

◯もっと目がパッチリしていたら…

◯もっと鼻が高かったら…

◯ニキビが無かったら…etc

挙げだしたらキリが無い。


容姿で人気者になれないなら、人を面白可笑しく笑わせて人気者になればいい‼︎

基本的に考え方がポジティブな私は、そう考えた。


昔のアルバムを広げると、変顔ばかり(しかも かなり強烈)の私がたくさん現れる。

まるで本当の自分をひた隠しにするピエロのようだった。


本当はいつだって可愛くなりたかった。

でも、こんなブスな私がそんな事を思う事自体が恥ずかしいと思っていた。

本当に人生に行き詰まっている人ほど、「私 今辛いんです。」と言えない状況に似ている。


昔から友達は多かった。

先輩にも恵まれたし、後輩からも慕われた。

小学生の時に、イジメにあったこともあるけれど、今となってはお互い笑い話。

基本的に人間関係であまり悩んだ事はなかったと思う。


ただ、恋愛はそうはいかない。


年頃には、たくさん恋もした。

憧れの野球部の先輩。

いつも遊んでいたかけがえのない男友達。

恋をしたら、誰でも振り向いてもらえるようにキレイになりたいと思うのは当然だ。

それでも、怖くて その言葉を口に出す事が出来なかった。

心の奥にある呪いに似たコンプレックスがいつだって邪魔をした。


《どーせ私はブスだから》と。


私が東京に闇雲に憧れていたのには訳がある。

キラキラしたこの場所には、きっとシンデレラになれるチャンスが眠っていると思っていた。

現実には、魔法使いのおばあさんなんていないけど、私を知らない未知の場所でならカッコつけずに魔法の呪文を唱えられると思ったのだ。



《キレイになりたい》

簡単な事じゃん!って他人は笑うかもしれないが、私には途方も無く難しい事だった。

そんな事に無頓着なフリをしてきた「過去の自分」をみんな知っているからこそ、キレイになるための努力をする事が恥ずかしかった。


それに、まだ自分の中にあるブスの呪いがそんな私を笑っているような気がした。


20歳、専門学校に通うため 上京。

東京に来て、少なからず 以前の自分の容姿よりもマシになってきた。

と、自負している。

特に 何を変えたって訳でもないけれど、やはり学校が渋谷にあったし 周りは高校上がり若くてオシャレな子もたくさんいたから その中で何となくもまれたってのもあるんだと思う。

顔立ちなんて そうそう変わらないけれど、メイクやヘアスタイル、身につけているもので多少 コンプレックスも解消してきた気がした。

それも、無理にあーしなきゃ、こーしなきゃ!と考えてやっていたわけではなくて、気がついたら自然とそれを選んでいたって感覚。


その頃には、人並みに彼氏もいたし、嬉しい事にこんな私を好きだと言ってくれる人も現れた。

恋愛の楽しさや、それに伴う すったもんだをたくさん味わったのも この頃だと思う。



私は、昔から女性は誰だって変身願望があると信じている。


もちろん 私も。

私の場合は、それが人一倍強かった。

幼少期は魔法少女的なアニメが大好きで、誕生日やクリスマスのプレゼントには大体 魔法のステッキやらコンパクトやらをおねだりした。

もちろん電池で動き、光ったり 音がなったりするだけの子供だましなものだけれど。


上記に書いた通り、写真の勉強をするため渋谷の専門学校に通ったのだが、私がそもそも写真に興味を持ったのは 1冊の本から。

もうタイトルも覚えてないけれど、そこには、写真と詩が一緒に載っていて、その当時 傷心していた私にその言葉がビックリするくらい入ってきたことを覚えている。

その本には何気ない写真が散りばめられていたのだけれど、写真と言葉がミックスすると こんなにも人の心に訴えかけるのだと、衝撃を受けた。


学校では、1年間 カメラの基礎知識や使い方を教わった。あとは、スタジオワークだったり、報道系の実習だったり、風景とか芸術系だったり、フィルムの現像とか暗室作業とか…とりあえず基礎的な部分を押さえていく。

2年目はそれらを踏まえて、自分の興味・関心のある分野に配分される。

私が選んだのは、肖像科 モデルポートレート実習が多くあるゼミ。

1年間 写真の勉強をしてきて、1番惹かれたのはやっぱり女性のポートレートだったから。

単にモデルを雇うお金の無い貧乏学生だったって事もあるが、中でも、友人に頼んでモデルをしてもらった時が1番楽しかった。

街で声をかけて、女の子をハントした事もある。

だって、普通のどこにでもいる女の子がカメラを向けて 同じ時間を過ごしているうちに どんどん表情が変わってくる。


最初はこうして、あぁして、指示していたのに、モデル顔負けの表情でレンズを覗いてくるんだ。

「女ってすごい」

と、肌で感じた。


そして同時にきっと女性は誰でも自分がフューチャーされて お姫様になれるチャンスを待っていると思った。


2年制の専門学校。

やっと慣れてきたと思ったら、すぐ就職活動になる。

とはいえ、鬼のようにエントリーシートを書いて、会社説明会に行って…とかはあまり無い環境だった。食べていけるかは別として、クラスに半分くらいは普通にフリーで写真家としてやっていきたいって奴らがいたし、あとは大体 修行の意味でスタジオに入る子がほとんどだった。


それが終われば、次は卒業に向けて走り出す。

もともと写真を学びたいなんて人は《自己表現欲の塊》だと私は思っている。

もちろん自分もそのひとりだ。

それぞれ 興味のある分野は違えど、写真で何かを訴えたい、表現したいと言うのだから、根幹は似ている。

なので、自分の卒業作品展のテーマも自ずと決まった。


《セルフヌードポートレート》

卒業作品展でそれを選んだのは、自分史上1番キレイな自分を作品として残したかったから。

きっと自分の根っこにある部分では、私は自分大好き人間。

ただ、それを口に出して言うのが恥ずかしいだけ。

6畳一間の小さな部屋で、何度も何度もシャッターを押した。

もちろん 撮るのも、モデルも、自分だから、セルフタイマーをセットして 裸で部屋を行ったりきたり(笑)

かなりシュールな光景だったと思う。



※卒業作品展 作品内から抜粋



前述にも書いたが、女性にはみんな変身願望がある

私がヌードを残したいと思ったように、自分の1番キレイな瞬間を残したいと思っている

シンデレラのように、魔法をかけられてお姫様になりたいと思っているはずだ。


それは単にフリフリのドレスを着て着飾りたいという訳ではない。


現に私はフリルが嫌い(笑)

例えて言うなら、白シャツにジーンズをさらりと着こなしても絵になるような空気感のある女性。

裸に布一枚でも、なんだか様になってるようなイメージ。

そんな風になりたかった。


人それぞれ きっとなりたい自分は違う。

そして、それを声を大にして言える人と、そうではない人の違いだけだ。


そんな事を考えながら、晴れて卒業。

私は某出版社の写真部に入社した。

基本的な仕事はカメラマンのアシスタント業務だったが、簡単な物撮りや、著者近影などの人物撮影などは任せてもらえた。

もちろん 本当に自分が撮りたいものは、そこには無かったけれど スタッフみんなで何かを創り上げるという楽しさはそこで知ったと思う。


現に、どんな被写体であろうと やっぱりそれが書籍化したり、誌面に載ったら嬉しかった。

もちろん 出版社だから、芸能人にも普通に会える。

撮影に立ち会える事もあった。

煌びやかな衣装に、完成されたメイク、華やかなストロボの光を浴びて 彼女達は益々輝いた。


だけど、今や人気モデルや売れっ子女優だって、何も生まれついてそこに至ったわけでは無い。

普通の女の子がある日 突然 スターへの階段を上る事もある。

それは、まるで魔法のように。

だったら、それをやってみたらいいんじゃないか?


魔法をかけてみよう!私が‼︎


完全に思いつきと好奇心で高校時代の友人達に話を持ちかけた。

「私達の写真集を作ろう」と。

メンバーは高校の時の部活の友人13名。

もちろん みんなそれぞれ社会人になっていたから、撮影のスケジュールを組むのは めちゃめちゃ大変だった。


看護師、介護士、保育士、教師、事務員、美容師、専業主婦…


それぞれのライフスタイルもあるから、それらを柔軟に合わせて撮影を進めた。

ヘアメイクは、その当時 東京で美容師として働いていたMに頼んだ。

この写真集の中でも登場している。

スタイリストをつけるお金も無いし、もちろんスケジュールがうまく組める保証もないので、衣装はそれぞれ持ち寄りで みんなに協力してもらった。

結局 なんだかんだデザイン・製本まで合わせたら丸々1年はかかったと思う。

でも、その苦労も出来上がってきた写真集が吹き飛ばしてくれた。


今回の写真集のタイトルは、

《PANDORA COLORS BOXXX》

かの有名なパンドラの箱にかけて名付けた。

絶対に開けてはいけない禁断の箱。

だけど、人はそこをどうしても避けては通れない…と、暗に女性なら誰でも心に秘めたシンデレラ症候群を示している。


色をテーマに持ち込んだのは、私達13人のそれぞれの個性を表現するには面白いと思ったから。

あとは、視覚的に違いを捉えやすいようにしたかったのもある。

結果は、もう見てもらえればわかると思うが 女ってすごい。

真夏の溶けそうな日もあった、

真冬にノースリーブ、ショーパンを着させた事もあった。

怒られそうだけど、ロケ地もお金をかけられないから全てゲリラ。








「このタイヤ工場たまらない!」

「この家の門構えすごいよ!」

「よし!線路で撮ろう」

「とりあえず、ド派手な服で田んぼってのも面白いよ!」












よし!やってみよう‼︎
もしも怒られたら頭下げればいいし‼︎(笑)


若さゆえの行動力が、頭の中にあった画を現実のものにした。

もうワクワクが止まらなかった。










そして、無事に写真集が出来上がって 友人達にお披露目した時のみんなの笑顔は忘れられない。

撮影の技術や、その他 かなり荒削りな作品ではあるけれど 彼女達の表情を見ていたら そんな事よりも大切なものがあると思いしらされた。

キャーキャー言いながら、嬉しそうにページをめくる瞬間。

そして、極め付けはこの言葉。


『こんな経験 もう2度と出来ない』


素直に嬉しかった。

そして、嬉しかったと同時に疑問も残った。

こんな風に自分を表現しないで、人生を終えて行く人はどれくらいいるんだろう?と。

悲しいかな 女性が自分が主人公になれると信じているのは「結婚式」くらい。

良くて「七五三」「成人式」かな?

でも、どれも なんだか『自分を表現する』『シンデレラみたいに魔法をかける』ってニュアンスとはちょっと違う気がする。

少なくとも、私は。


人生は有限で、そのうち 自分のために使える時間もまた限られている。

誰に見せるわけでもないけれど、(もちろん 見せまくってもらえたら嬉しいけど・笑)自分の確固たる自信になる写真があるって心持ちが違う。


何度も言うけれど、

《女性は誰だってシンデレラになれる》

絶対に。






そして、覚悟を決めたら
不可能なんて無い。




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