日本人はアメリカじゃモテない
これは定説でしょう。
貧弱で自信なさげな日本人はいわゆる金髪碧眼の美女にはモテない。
そして日本人の中でもさらに貧弱な僕はびっくりするほどモテない。
生まれて初めてのナンパをしたり、筋トレをしてみたり、いろいろ頑張ったけどそれはもうモテない。定説はひっくり返せませんでした。ちなみに年上だと思ってナンパした彼女は高校1年生でした。成功してても犯罪だったから相手にされなくてよかった。うん。
これはシアトルに1年間留学してた僕が、帰国直前に体験したエピソードです。霊験あらたかな話でもないしスケールの大きい話でも何でもないですが、僕の今までの人生の中ではまあまあ衝撃的な話だったので、ここに残しておきたいと思います。
ほんとに突然ですが僕はどっちかっていうとかわいい系の顔をしています。
だからよく言われたのが、
「女の子にモテなくても男の子にモテるよ!」
いやいや!別にモテたくないし!
おれ女の子が好きだし!
って内心「そうなのかぁ」ってドキドキしてたんですが、驚くことに1年間別に男の子にもモテませんでした。
自分にがっかりです。いや別にいいんだけどね。
ところで、シアトルには有名なゲイタウンがあります。市街地にほど近く、飲み屋街も兼ねていたそこは夜もにぎやかでとても陽気で明るい地区。たくさんあるゲイバーは連日愉快なゲイとレズビアンであふれています。
帰国も近くなり、せっかくだからゲイバーに行ってみたい!ということで、友達に連れてってもらうことになりました。彼女はダンサーで、普段ゲイバーで練習したりもするためそこらへんの事情には詳しいとのこと。
「僕をゲイバーに連れてって!」
「いいよー。ハードなとこがいい?ソフトなとこがいい?」
「もちろんハードっしょ!」
完全に油断していました。だって1年間男の子に全然モテなかったから。「アジア人はかなりモテるけど大丈夫?」と心配する彼女をよそに「どーせならハードでしょ!なんならハーデストでしょ!」と謎のチャレンジ精神に燃えていました。
そして待ちに待った当日。僕は彼女に連れられドキドキしながらハーデストゲイバーの門を叩きました。
ここで少しゲイバーの説明をしておくと、バーといってもイメージはナイトクラブのようなもんです。
入場の時にチャージを払い、手にスタンプを押されます。これが入場証代わり。僕が行ったところは確か6ドルくらい。
3階建てで、1階と2階は割と落ち着いて音楽を聴きながら飲んでる感じ。みなさんおいしいお酒と恋人とのキスを楽しんでいます。ちなみに僕はこの時初めて男性同士のキスを見ました。
「ねぇチューしてる!チュー!」
「うん、チューだねぇ。」
やけに落ち着いている友人の横で、僕は初めての場所にやけにはしゃぎまくってました。そう、まるで初めて遊園地に来た子供のように。
このあと自分がチューされることになるとも知らずに…。
そして最上階、3階は完全にアゲアゲイケイケチェケラッチョ状態。みなさん入り乱れて踊りまくってます。フロアの各所に一人用のステージが設置されていて、そこではレイザーラモンHGのような人達がポールダンスを披露しています。もうほんとムキムキ。そしてイケメン。腰を降るスピードはまさにフルスピードです。
ステージで踊っている方はピッチピッチのブーメランパンツを履いていて、そこに1ドル札を挟めるとすごい頑張ってくれます。「いやそれはもうアウトだろ」ってくらいパンツも下げてくれます。

(ステージで腰を振るパフォーマー)
いや、楽しいんですよ。すごく。別世界です。僕もテンション上がってノリノリで踊ってました。気になるのは一人のガッチリムッチリな黒人とよく目が合うなーってくらいでした。
端っこにバーカウンターがあり、そこでお酒を注文できます。うなる人ごみをかき分けてバーカウンターに向かっていると、おっさんに声をかけられました。
おっさん「Hey、君どっから来たの?」
「ジャパン!留学生だよ!」
おっさん「オー日本!名前は?君の顔はとってもかわいいね。」
おぉ。も、モテている。
僕は今、確実に、アメリカに来て初めて、モテている。おっさん相手だろうが悪い気分ではない。
そこからはもう質問攻め。
「日本のどこ?」「年齢は?」「恋人はいるの?」「君とデートしたいな」
なんか段々やばいなと思ってたとこに「you so hot dude..(君はとってもいいよ…。みたいな)」と言われ、そろそろお暇しようかしらと思ったとこで、彼が僕の耳元に口を近づけてこう言ったのです。
おっさん「Hey dude…」
「ひゃー!///」
おっさん「…何飲みたい?」
「……え?えっと…ジントニック、、」
おっさん「OK…」
おごってくれました。しかも僕に酒を渡した後は「楽しんでねー!」と陽気に言ってどこかにいってしまう。
…いい人じゃん!全然怖くないじゃん!
そっから味を占めた僕はさらに2,3人のナンパに快く応じました。みんな軽くおしゃべりしたらお酒を買ってくれてどこかに消えていく。
ゲイバー楽しい!!みんないい人!タダでお酒も飲める!
クラブでモテる女の子ってこんな感じなんだなぁ。と、なんでもっとはやくここに来なかったのと後悔したほどでした。
そしたらもっと僕のアメリカモテライフは充実したはずだったのに…。
気分の良くなった僕は同じくレズビアンの方たちにお酒をおごってもらっていた友人と共に再び人ゴミの中に入っていき、ノリノリで踊り始めました。
すごく楽しいですが、そこに一つの気になる視線。その先には先ほどからよく目が合うガチムチ黒人。
最初はあまり気にしてませんでした。距離もあったので。
一旦目をそらしてダンスに興じ、再びそちらに目を向けるとやっぱり目が合う。
しかも、
(ちょっと近づいてる…。)
振り返るたびにどんどん距離は縮まっていきました。心のじゃないです。物理的に。
振り返れば奴がいる状態。ついにほとんど真後ろまで迫ってきました。
それでも「ゲイバー楽しい!みんないい人!」になっている僕はそこまで気にしません。
「僕と話したいのかな?」くらいです。すっかりモテる男気取り。(男から)
そしてついにそのときが。。
友人と音楽に合わせて踊っていると、
僕の動きに合わせて彼の手の甲が僕のお尻に当たります。
最初は手の甲でさする程度でした。僕が「たまたまかな?」と思うくらい。
そして当然のごとくその手はどんどんエスカレート。気づけば完全にもみしだかれてます。
もちろんそんなの初めての経験です。恐怖を感じました。声は出せませんでした。悔しかったです。
「電車で痴漢に合う女の子ってこんな感じなのかぁ…」なんて考えてました。
声を出せないんでとにかく逃げる僕。
そしてどこまでも追いかけてくる彼。
捕まっては揉まれ、逃げては捕まり。
とにかくパワーがすごい。一度肩をつかまれるとなかなか逃げられない。生まれ持った絶対的な筋力の差を感じましたね。
彼の行為はさらにエスカレートし、僕の腰に彼の腰をすりつけて踊り始めました。
イメージ的には去年のアメリカ流行語にもなった「twerk」ですね。
※写真参照

(もちろん僕はこんなノリノリではありあせんが…)
それでも頑張って振り切って逃げると、今度は僕の友人を捕まえてその踊りをし始めるじゃありませんか!
僕は焦ります。
ちょっと待てよ!それは違うだろ!お前は俺のことが好きなんじゃないのかよ!みたいな。違うけど。
さすがに助けない訳には行かないので間に割って入ります。
そうすると彼は「やっぱりか」みたいな表情を浮かべて再びベタベタし始めます。
なかなかの策士ですね。してやられました。
もうあきらめて身を任せる覚悟で力を抜くと、肩をつかまれて思い切り半回転させられました。
眼前に現れる彼の顔。距離数センチで目が合う僕ら。はじめましてこんにちは。
そして彼の手が僕のTシャツの中に入ってきます。いろんなところを触られます。
もう片方の手で腕をつかまれ、彼のバーに誘導されます。もうとってもガチムチでした。
そして僕の首筋に優しくキスをしながら、彼は僕に初めての言葉を発するのです。
「wanna play with you…(お前とヤりたいよ)」
「………」
相手が女の子ならもうウハウハです。女の子なら。
もう一度言いますが、これが彼の発した初めての言葉です。
「やっとしゃべったと思ったらそれかよ!」って感じです。
もうさすがにギブアップ。「No way!!」と叫んで思いっきり振り切り、それでも追いかけて「電話番号だけ教えてくれ!」という彼に番号を教えて逃げるように外に出ました。
なんでほんとの番号教えたんだって感じですが。
帰りのバスでは完全に疑心暗鬼な僕。
「この人たち全員僕のこと狙ってんじゃないか」って思ってました。勘違い女ですね。男ですけど。
後日談ですが、彼から「日本に帰る前に一緒にホテルに行こう!!」という直接的すぎるお誘いメールをいただきましたが、有り難く返信させていただきませんでした。
以上、僕が人生で一番モテた夜のお話でした。
というか、普通に考えたらあそこはゲイバーなんですよね。
本来そこにいるのは全員ゲイかレズビアンな訳で、気に入った子がいたらアプローチするのは当たり前なんです。
そこに遊び半分で乗り込んだ僕に怖がる権利も疑心暗鬼になる権利もない訳で、、、
ガチムチの彼には申し訳ないことしたなぁとあとから思いました。反省です。
だけど、初めての言葉が「ヤりたい」はちょっとだめだと思うよ。
「モテる」というのも大変だなぁと思った出来事でした。
ちなみゲイバー自体はとっても楽しいところでした。そこにいる人々みんな明るくて、面白い。
今度はソフトなところに行ってみたいと思います。

