15/1/10
第8話 人生を変えた1つの質問【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】


ー前兆に従ってゆきなさい

かけ足で山手線の原宿駅の改札をぬけると、
原宿のシンボルのような、大きなGAPの建物が見えた。
平日の昼間だというのに原宿の街は
OLさんや早足のサラリーマン、学生たちで忙しそうだ。
うぅ....寒い。
急にブルっと震えが来る。
春になったばかりの東京は、日差しは暖かいけれどまだ風が冷たい。
えっと......なにしにきたんだっけ。
勢いで家を飛び出してここまで来てしまったけれど、
寒さで冷静になると、急に不安になってきた。
それより、まさくんって原宿のどこにいるんだろう.....
そういえば連絡先も知らないんだ。
私が一方的に知ってるだけなのに、
はたして今私がやってることは迷惑じゃないんだろうか....。
”会わない方がいい”まっとうな理由が、つぎつぎと浮かんでくる。
さっきまでの胸があつくなるような”ワクワク”した気持ちも、
ただの不安の震えだったんじゃないかと、勘違いにさえ思えてくる。
原宿の人の流れの真ん中で、携帯を握りしめたまま一人立ち止まってしまった。
一体私は何をやっているんだろう。。。
よく考えると、今まできちんとした”目的”もなく行動するなんて滅多になかった。
『まさくんに会って、で?どうなる?』先が見えない自分の行動に怖くなる。
ただ本を読み終わったままの勢いでここまできてしまった自分が
小さくて幼くて、だんだん恥ずかしくさえ感じてきた。
そのとき、ふとアルケミストの一節がよぎる。
ー前兆に従ってゆきなさい。
主人公の羊飼いの少年は物語の中で、
何度も何度も、その「前兆」ということばを聞かされるのだ。
そして少年はたくさんのハプニングがあっても、
その”前兆”を信じて行動し続けていた。
すると、かならずそこに答えがある。
そしていつも、ハッピーエンドなんだ。
.......よしっ。
やっぱりまさくんを探そう。
とにかく、会うだけ会ってみよう。
顔を上げ、人の流れにまかせながらまた歩き出す。
もし私が物語の主人公だったら、
私の前兆は、確実に”アルケミスト”だ。
この1ヶ月のつらなった偶然が思い浮かぶ。
1ヶ月に3回も紹介された”アルケミスト”。

由紀夫やけんちゃんとの出会いや

バック1つとアルケミストだけで東京に出てきたあべちゃん。

大切な出会いが”アルケミスト”でつながっていく。
自分の道を歩くと決めて、
就職をけってからのこの「偶然」は
ただなんとなくの「偶然」じゃないんだ。
誰より”私”がそう信じたかった。
ただメルマガの男の子に会いに行くだけなのに、
この行動がとても特別で大事なことに感じていた。
まさくんとの出会い
人の流れに任せたまま、原宿のおだやかな上り坂をのぼっていくと、
代々木公園前にかかる、おおきな歩道橋が見えてきた。

すると、歩道橋のはしっこに青いTシャツを着た男の子が立っている。
足元には、ゴロゴロのついた黒いスーツケース。
路上で書き下ろしをする人はほとんど、
たくさんの道具を入れるためにスーツケースを持っているのだ。
........もしかして。
身体が少し緊張でこわばる。
人の流れから離れ、早足になるのを抑えながら彼の後ろ姿に近づいていった。
その男の子は人目を避けるように、
人通りのある方に背を向けて誰かと電話で話している。
こころなしか、背中が緊張しているように見えた。
そして上を向いて、伸びをするようにふーーっと息を吐き、電話を切る。
誰かからの励ましの電話のようだった。
私はもう彼のすぐ後ろまで来たところだった。
足が、自然と一歩前へ出る。
「あ、あの、まさくん???」
まさくん「!?!?!?え!?」
不意に声をかけられて、驚いた顔で彼が振り向いた。
大きな目の優しそうな顔。
メルマガでよく見るまさくんがそこにいた。
わ!!!声をかけてしまった!!
「え、えっと、あの...。。。メルマガで、メルマガを読んでて!」
何も考えず声をかけてしまい、頭が急に真っ白になる。
しまった!何を話すかも考えてなかった。どうしよう。。!
「え、え〜と、それで、あの、私、昨夜アルケミストを読み終わったんです。」
「まさくんもメルマガに書いてたの見て。それで、あの、行かなきゃって!」
まさくんからの今朝届いたメルマガを思い出す。
まさくんは資金がつきて自分はもう東京にいる役目がない、って葛藤していた。
そうだ。だから、それは違うよ!って、ただそれを言いたかったんだ。
「いつも、メルマガではげましてもらってます。ありがとう!!!」
しどろもどろ、言葉をつなぐ。
下手くそだけど、こころのまっすぐなところで言葉を出したつもりだった。
寒いはずなのに、にぎった手にはたっぷり汗をかいている。
まさくん「....ほ、ほんとですか!!!」
まさくん「う、うわ〜〜〜。。。。そっか、そっか〜。ありがとう!!」
東北訛りのやさしいイントネーション。
目の前のまさくんが、本当にうれしそうな顔になった。
あぁ、、来てよかったんだ。。。
ほっとして、体中の緊張や不安が、なにか熱いものに変わってめぐっていく。
まさくんのうれしそうな気持ちと
自分の嬉しい気持ちがまじって目頭が熱くなった。
まさくんの反応が本当に、嬉しかった。
まほ「あ、あの。私にも書き下ろししてくれませんか!」
それがまさくんとの最初の出会いだった。
ソペアモンコール(幸せ)の始まり
原宿のゆるい上り坂を、今度はゆっくり下っていく。
来た時は不安でいっぱいだったけれど、
今は充実感と幸せな気持ちであふれていた。
坂の途中の目についたカフェに入る。
ホットのカフェラテを頼んで、トートバックに滑り込ませたアルケミストを開いた。
書き下ろしをしてもらったとき、まさくんと色んな話をした。
彼は初めて会ったとは思えないほど、こころが近く感じる人だった。
そして書き下ろしが終わったあと、また話そうとお茶に誘ってくれたのだ。
アルケミストから始まった今日の一日の不思議な流れと
まさくんとの出会いが、こころをあったかく満たしてくれていた。
”前兆”を信じてここまで来た自分が、すこし誇らしく思えた。
アルケミストをめくりながら、この時間をゆっくりかみしめる。
まだこころの奥がワクワク震えていた。

いつの間にか、窓から見える原宿の景色は夕暮れへと変わっていく。
まさくんと約束した時間は少し過ぎていた。
書き下ろしのお客さんが多かったら、少し遅れると言っていたのを思い出す。
たくさんお客さんが来たのかもしれないなぁ。
まさくんもいい日になったかもしれない。
そんなことを考えていると、カフェのドアが開いた。
まさくん「お~~~い!まほちゃん!まほちゃーーーん!!」
カフェの入り口には満面の笑みのまさくんが立っていた。
片方の手に書き下ろしの道具がパンパンに入ったスーツケースを引きずって、
もう片方は大きく手を振っている。
まさくんは、今日一番晴れやかでとてもいい顔をしていた。
「まさくん!!!お疲れ様!長かったねー!あれからどうだった?」
まさくん「うん!!まほちゃん!聞いて!!ソペアモンコール(カンボジアの言葉で幸せという意味)だよ!!!奇跡が起こったんだ!!!」
まほ「えっ....!!」
まさくん「あれからたくさんお客さんが来てくれたんだよ!今までで一番の売上だったんだ!過去最高だったんだよ!!」
まさくん「まほちゃん!!ここにいる意味はあったんだよ!まだ東京にいられるんだ!」
高揚したまさくんの、大きな目はキラキラしていた。
今朝のまさくんのメルマガがよぎる。
ーもうここにいる意味は無いのか、宮城に帰ったほうがいいのか
そのあと紹介されていた、アルケミストという文字。
その数時間前、あべちゃんからもらって読み終わったアルケミスト
起きたての布団から出て急いで原宿駅に来た朝
まほちゃん、奇跡が起きたんだ!!まさくんの大きな目。
ー前兆に従ってゆきなさい
前兆の置き石が、少しずつ繋がっていく。
主人公の少年は、いつもハッピーエンドなんだ。
アルケミストがまた笑った気がした。
何かを少し信じれる気がした。
それが、まさくんとの最初の出会いだった。
まさくんの奇跡のその先
それからまさくんは、東京に残って原宿で毎日書き下ろしを続けていた。
お客さんは途絶えることなく、半年もすると、今度は路上に出られなくなった。
人気が出過ぎて、お店やイベントに来てほしいと呼ばれるようになったのだ。

でも、それはまたもう少し先のお話。
あれからまさくんは、私にとってかけがえない友人となった。
そして、私の人生に前兆の置き石を運んできてくれたのだ。
「観念」すること。
まほ「神様ーー!!私はもうなんにもできません。お手上げです。たすけてくださいーー!」
原宿のど真ん中、涙でぐちゃぐちゃの顔で私は天を仰ぎながら叫んでいた。
まさくん「あはは!!!まほちゃん、いいね〜〜!最高だよ〜〜!」
目の前にいる、いつも通りの青いTシャツを着たまさくんは、
路上にゆったりと座って爆笑している。
「これで大丈夫って言ったのまさくんでしょ!!」
と、言いながらも、まさくんが笑い飛ばしてくれたおかげで心は少し軽かった。
すっかり春になった原宿は、代々木公園からの気持ちいい風が吹いていた。
真っ青に晴れた空に、木々が揺れる音はなかなか心地がいい。
まさくん「あはは。ごめんごめん!いや、まほちゃん、でもさっき言ったことは本当だよ!」
まさくん「自分でどうしてもうまくいかない時は、「観念」するんだ。自分はもう何もできませんー!って一旦手放すんだよ。神様に任せるんだ」
あはは。と、また笑って、まさくんは上出来だ!という顔をした。
まほちゃん「うん....。」
でも本当に、さっきまでの絶望の淵にいたような心境からは少し抜けれた気がした。
まさくん「ほら、「観念」したあとは流れに任せて。なんとかなるから!僕の仲間たちが代々木公園でお花見やってるから、気晴らしに行ってみたらいいよ!」
まさくんにそう促されて、涙でぐちゃぐちゃな顔をふいて立ち上がる。
後ろにはもう、彼の書き下ろしを待っているお客さんが並んでいた。
まさくん「うん!ありがとうまさくん!」
まさくんはニコリと笑うと、悩めるお客さんと話し始めた。
ズボンのホコリを払い、私もまっすぐに代々木公園へ歩き出す。
大きな大きな難関
まさくんに出逢って1ヶ月、それは卒業して1ヶ月でもあり、
そして”ニート”(=無職)になって1ヶ月、ということでもあった。
「自分のワクワクした人生を生きるんだ!」そう決意して、
就職もけって、今までやってきたこともやめた。
まさくんにも会って幸先は良好!今から私の”新しい人生がスタートする!”
の、はずだった。だけど私はここで大きな難関にぶち当たっていた。
それは、今まで見ないようにしていた問題だった。
本当に分厚い壁が四面八方に自分の身体を挟んで息ができないような、
そんなどうしようもない苦しい中にいた。
そして一人でもがいて真っ暗になったとき、
原宿に座るまさくんのところへと、相談しに駆け込んだのだ。
どうにか、この悩みから抜け出したかった。
そしてまさくんから、謎の「観念」の術を教えてもらった!
...これで大丈夫だろうか。
ベストセラーの作家さんとの出会い

まさくんの仲間に会うため代々木公園へ向かう。
代々木公園を奥へ奥へと進むと、ただっぴろい広場のような場所に出る。
その真ん中で、シートを広げて10人くらいの人が集まっているのが見えた。
東京の桜はまだちらほらとしか咲いてなく、
お花見というよりちょっとしたピクニックのような感じだった。
あれがまさくんの言ってた仲間たちかな?
私と同じような歳の子から40代くらいの人まで、
年齢も職業も様々な人たちがビニールシートの上でお弁当を囲んでいた。
フレンドリーで声のかけやすそうな、とてもいい雰囲気だった。
まほ「あ、あの。まさくんから紹介してもらってこちらへ来たのですが、参加してもいいですか?」
「おー!まさの友達なの?」
「いいよいいよ〜。おいで〜。」
声をかけると快く笑顔で歓迎してくれた。私もその輪の中に入る。
その時、みんなは一人の男性に自分たちの手帳や本を出して、何かを書いてもらっていた。
よくみてみると、それは彼のサインだった。
彼は、さらさらと慣れた手つきでキャラクターつきのサインを書いていく。
もらった人たちはとても喜んでいた。
作家「あぁ!どうも初めまして。まほちゃんでいいのかな?僕は、作家をしてるんだよ〜。」
さわやかで中性的な、笑顔が素敵な人だった。
彼は目が合うと、すぐに自己紹介と握手をしてくれた。
「彼はねベストセラーの作家さんなんだよ。会えてラッキーだね!」
隣に座ってた子が、こっそり教えてくれる。有名な方のようだった。
でもそんな風に思えないほど、
その作家さんはとても気さくで自然にみんなと接していた。
ピクニックも彼が中心となって場を盛り上げてくれている。
おかげで初対面の人ばかりなのに、終わる頃にはみんなすっかり打ち解けていた。
悩んでいたことなんて忘れさせてくれる、とても楽しい時間だった。
日も落ちかけて肌寒くなって来た頃、
みんなと連絡先を交換し、そろそろお開きにしようということになった。
座っていた椅子やマットや食器など、手分けして片付けはじめる。
そのとき、たまたま近くにいたその作家さんが話しかけてくれたのだ。
話は特にたわいもない内容だったと思う。
出身地や、今何をしているのか、そんな当り障りのないことだ。
悩んでいることを言いたかったけれど、今日出会ったばかりだし、
有名な作家さんにそんな話をするのは申し訳なくて深い話はしないでおいた。
少し話していると、ふと、二人とも周囲の異変に気がつく。
作家さん「あ、あれ!?!?みんなどこに行った??」
まほ「え!あれ!ほ、ほんとだ!みんないない!」
話も一段落し、そろそろ帰ろうと周りを見渡すと、
さっきまでいたみんなはもう誰一人いなかったのだ!
作家さん「えっ!?このあとお茶でもしようかって話してたのに。みんな先に行っちゃったのかな??」
まほ「作家さん、誰かの番号わかりませんか??連絡してみましょう!」
作家さんは携帯電話を取り出して何度も電話してみる。だけど誰もでない。
作家さん「え〜!不思議だね〜。こんなことってある?どこ行っちゃったんだろう。僕せっかく呼ばれて来たのに。」
さっきまでいたみんなが、本当にウソみたいに消えてしまっていた。
突然のことに、作家さんも困惑している。
「.まぁ、それじゃあとりあえず、公園を出ようか!」
「は、はい!」
私にとっては願ってもみない偶然だった!
ラッキーな事に、作家さんとふたりきりになれたのだ。
私たちはそのまま代々木公園の来た方へと歩いて行った。
代々木公園の入り口までは、結構距離がある。
歩きながら話していると、作家さんは急にこんなことを言い出した。
作家さん「まほちゃん、もしかして今悩んでいることがあるんじゃない?」
まほ「えっ!!!!なんで分かるんですか?」
作家さん「あぁ、やっぱりね〜。いやぁ、実は僕は人の悩みを10分も聞くと解決できるんだよ〜。」
まほ「ええっ!!!!」
あまりにもキャッチーな文句に、最初は冗談で言ってるのかと思ってしまった。
しかしよく聞くと、その作家さんは本を書くかたわら”人の話しを聴く”という活動を、
ボランティアでやっているそうだった。
話しの内容はほとんどがその人自身の”悩み”で、
長い時は1日8時間ぶっ続けで人の悩みを聴くこともあるという。
その活動をずっと続けているうちに、段々と10分も人の話しを聞けば
その”悩み”の解決策が分かるようになった、というのだ。
作家さん「これも何かの縁だし、ちょっと話してみない?」
そのとき、ふいに今朝のまさとのやりとりが浮かんだ。
まさ「自分でどうしてもうまくいかない時は、「観念」するんだ。自分はもう何もできませんー!って一旦手放すんだよ。神様に任せるんだ」
まさ「ほら、「観念」したあとは流れに任せて。なんとかなるから!」
あの秘伝の「観念」の技は、本当だったんだ!
でもこんな出来過ぎたことってあるのだろうか。
まほ「は、はい。お願いします!」
これはまさからもらった前兆だ。
まだよく状況が飲み込めていないまま、作家さんに話してみることにした。
お母さんとわたし
私が悩んでいること、それは、お母さんのことだった。
簡単に言うと、お母さんから「旅に出る」ことを大反対されてしまったのだ。
だけど、私は分かっていた。
それはただ表面に出ただけの問題で
私にとっては、触りたくない、もっともっと根が深いものがあるということ。
なっちゃん「まぁちゃん、お母さんがそんな話聞いてないって言ってる。もし旅に出るなら、奨学金も学校のために出したお金も全部返してほしいって....。」
それはなっちゃんからの伝言だった。
お母さんと私は今世紀最大の「冷戦」へと突入していたのだ。
お母さんの言い分は、もっともで、当たり前のことだった。
私は学校へ行くために奨学金を借りていたし、
私のワガママで2回目の学校へ行くときは、生活費も工面してもらっていた。
お母さんが一生懸命お金を出してくれたのも知ってる。
お母さんに苦労かけてることも知ってる。感謝もしてる。わかってる。
頭ではそう思うのに、だけどこころが、どうしてもついていかない。
腹が立って悔しくて感情がふれて仕方なかった。
なっちゃん「まぁちゃん、ちゃんと話したら大丈夫だよ。お願いしてみればいいよ。」
「ううん!ちがう。なっちゃんとお父さんにはわからない。これは私とお母さんしか分からないから。もっと違う問題なの!!!」
そう突っぱねて、でも、それ以上はいつもうまく説明できなかった。
私の中ではお母さんとはいつも、
やった、やられたのシーソーゲームをしているように感じていたのだ。
今回はやられたんだ!そんな思いだった。
それは小さいころまでさかのぼる。
私は小さいころ、とてもよく怒られていた。
容量のいいなっちゃんは怒られない。とにかく私だけ怒られてしまうのだ。
私の話すこと、行動、すべてがお母さんをイライラさせていた。
すぐ調子に乗る性格は、いらないことばかりしてしまう。
ワガママで自分勝手な行動も、周りに迷惑をかけてしまう。
だけど要領が悪くて、性悪で粗悪な性格は、
お母さんに幾度となく直されても、なかなか直らなかった。
しなければいけないことや、するべきことが全然分からなかった。
もちろん自分のやった悪いことで叱られるときもある。
でも、ほとんどが何で怒られるのか、何が悪いのか、よく分かっていなかった。
よく分からないけど、何をしても怒られる。迷惑をかけてしまう。
私は段々自分のすべての自信がなくなっていった。
いつしか、お母さんはあまり私に笑わなくなった。
私にだけ返事をしてくれない時もあった。
その頃のお母さんの背中は、仕事と”わたし”で疲れていた。
私はもう、私じゃない人間に取り替えてしまいたかった。
でも私は”わたし”で、どんなに頑張っても直らない、変われない。ダメなままだ。
なっちゃんといたほうが、お母さんはずっと笑顔で気楽そうだった。
私だけ、いつもうまくいかないんだ。

中学生になると、お母さんとぶつかることが増えた。
口喧嘩が増えて、お母さんから言われたことが全部刺さる。
私もイライラをおかまいなしにぶつけまくった。
何かよくわからない怒りと憤りでいっぱいだった。
高校を卒業してから、一人暮らしを始めて距離ができても、
久々に会うと喧嘩をしてしまう。
悪いと思って、お母さんのために何かしてみたり、
でもまたイライラしたり、させたり。
それをぶつけたり、ぶつけられたり。
シーソーゲームのように、触れ合えない。
それが、今もずっと続いていた。
でも私は、その問題を掘り起こしたくなかったんだ。
掘り起こして、点検したら、分かってしまうのが怖かったから。
それは、” 私はお母さんに嫌われていて、愛されてはいないんだ。”ということ。
それを知ってしまうのが、本当は世界で一番、怖くてたまらなかったのだ。
人生を変えた質問
作家さん「そうか....。それは辛かったね。」
代々木公園を出た私たちは、近くのカフェに移っていた。
向かい合った作家さんは、まっすぐ真剣に話を聞いてくれている。
こんな話、あんまり人にしたことがなかった。
まほ「でも、それだけじゃないんです。それから、大好きななっちゃんともうまくいかなくて。仕事も、奨学金と学費を返して、旅のお金を貯めれるようなものなんて見つからなくて。」
まほ「新しい生き方を自分で選んだのに、この生き方で本当に良かったのか、どうしたらいいのか、全部不安になってしまったんです。」
本当に今の私の人生は問題だらけだった。
解決しないといけないことばかりで、何から手を付けていいのか分からない。
一体、どんな解決策があるんだろうか。
自分で選んだ道なのに、こんなに悩んで恥ずかしかった。
解決したい。抜け出したい。もう真っ暗なのは嫌だ。
ワクワクする人生を歩くって決めたんだ!
こころはそう叫んでいた。
すると、作家さんは言った。
作家さん「まほちゃん、この問題の原因は、たった”1つ”のことだよ。それを解決したら、全部解決するんだ。」
えっ....!?
私はびっくりした。
お母さんの問題、なっちゃんともうまくいかない、旅も反対されている、仕事のこと。
全部それぞれ種類が違う厄介な問題だった。
それが”1つ”のことで、解決する?
この人は何を言っているんだろう....?一瞬理解できない。
作家さんは、気にせずそのまま続ける。
そしてそのとき机にあった水の入ったコップを、おもむろに自分の方に近づけた。
作家さん「コップには一体どのくらいの水が入ってると思う?」

作家さんは優しい目で私を見つめている。
ーえ??コップの水???
どうゆうことだろう?その質問を聞いた時は意味がわからなかった。
だけど、この質問が、私の人生を変える大きな質問だった。
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