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14/9/22

夫婦の絆

Image by Olia Gozha

 梅雨も明けようかという7月の午後、たまたま同じ日に受診されたふたりの70歳代ご婦人の患者さんのエピソードを紹介する。

 Aさんは3年ほど前から白内障で定期的に通院している。今回も前回の受診からの期間を考えると定期検査の時期なので、そのつもりで診察していると、ご主人の話を切り出された。Aさんのご主人は今年1月に他界されたとのこと。そのご主人が眼帯をした姿で昨晩、夢に出てきたので、何か目に変化があって早く眼科に行けと伝えているのではと思い、来院されたという。検査の結果は前回と大きな変化もなく、今まで通りでよいこととした。亡くなられたご主人が、残された妻を案じて夢に出てきたという亡き夫への想いを感じさせる話である。私にだけでなく、会計時にも事務職員に同じ話をされていかれたようで、よほど印象的だったのだろう。

 Bさんは当院が開業した年から通院されている。シェーグレン症候群があり、ドライアイの加療と経過観察で定期的に受診されている。当初はご主人も時折ご一緒に受診されていたが、3年ほど前から認知症で施設に入所され、最近はBさんだけが来院されている。かねてから老眼鏡を作り替えたいとの希望があり、この日は古い老眼鏡も持参してもらい比べた上で最終的な度数を決めようということになっていた。持参した眼鏡を拝見すると、中にご主人が使っていた眼鏡もあり、Bさん曰く「これをかけていると主人と一緒にいる気がする。」とのこと。「この眼鏡でも、結構見える。」とおっしゃっていたが、度は全くと言っていいほど合ってはいなかった。持参した眼鏡はどれも適当な度数ではなく、新たに処方することになった。長年連れ添い、今は離れて暮らす夫への想いを表す話である。

 熟年離婚、仮面夫婦などという言葉が一般に認知されるようになって久しいが、2つとも夫婦の絆の強さを感じさせるエピソードである。統計によると、結婚後30年を経過した夫婦の離婚率はここ10年で3倍に増えているという。Aさん、Bさんの結婚歴までは存じ上げないが、普通に考えれば30年は優に超えていると推測される。Aさんは亡くなられ、Bさんは認知症で施設に入所と連れ合いの状況は異なるにせよ、相手を思う気持ちがあればこそのエピソードである。私の結婚歴はまだまだおふたりには及ばないが、10年後、20年後と夫婦の絆を深めていけるだろうか。

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