目の調子がおかしくなったのは、1ヶ月ほど前の、とある暑い日だった。
外を歩いていると、前触れ無く右目の視野が欠けた。
( ´ ・ω・‘ )これはやっちゃったな…すぐに思った。だから全く慌てなかった。糖尿病の持病があった事はもちろん分かっていたし、どのような合併症が出るのかも把握していた。
眼科にはしばらくかかっていなかったので、決して褒められたモンではない。むしろ怒られるべき事だろうが(笑)、それを自己弁護的に言い換えれば『自分の体の状態を知っていた』という事か(笑)。
もちろん事前に防げた状況なのだが、それを悔いたところで状況は改善しない。
悪くなったら、治療するかその状態を受け入れるしかない。
実はこうして開き直って、自分を『まな板の上の鯉』とする事こそが、病に勝つポイントなのだ…が、俺がそう言っても説得力に欠けるかも知れない(笑)。
次の日の朝イチで、近所の眼科にかかった。前日に一番評判の良い病院を調べておき、診察してもらうと、やはり目の裏側の網膜からの出血だった。網膜専門の医者の診察日に改めて受診する事になり、その日は薬だけもらって帰る事に。
そして次の受診日に専門医にかかったのだが、その医者が東大から外診で来ている人だった。
その場で言われた。
『うちの大学で手術ね!』
と。
まぁ手術は間違いないだろうと思っていたが、まさかの東大…遠いじゃん!
手術は以前に腹膜炎で体験していたが、その時は全身麻酔だった。眼の手術は部分麻酔…。
うわさに聞いた事は有るが、どんな感じなんだろ??
東大病院に通院し、詳しい検査を受け、入院と手術の予約を取った。手術は、最初に眼科にかかった日からすると1か月後となった。
それまでは、さらに出血しないように、血圧が上がるような運動は避け、風呂も湯船には浸からずにシャワーだけとし、重たいモノを持ち上げたり踏ん張ったりしないようにとの事。
( ´ ・ω・` )案外ノンキな感じなんだな。そんなんでいいんだぁ…。
などと思いつつ、とにかく日々を安静第一に過ごした。
そして入院、その翌日である昨日手術。
どんな手術なのかは、事前に説明を受けていた。
目の周りに部分麻酔を打ち、目ん玉の動きを止めた上で、白目に穴をあけてそこから目ん玉の中身の硝子体を吸い出し、目の中を丸洗いしてたまった血液を取り除き、レーザーで出血箇所を焼いて止血し、新たに硝子体の代わりとなる物質を注入するのだという。
す、すげえ…そんな事出来るんだ!
だって…目ん玉だヨ目ん玉!
今の医術は本当に凄いね!
手術のおっかなさは、その時点でぶっ飛んでた気がする。
そんな体験、出来るもんじゃない!
強がりでも何でもなく、手術までの数日間は、まるでジェットコースターの順番待ちをしてる時のような気分になった(笑)。
『これからどんな体験が出来るんだろう…?』
心配してくれた方々からすれば『ふざけんな!』という事になるかも知れないが、本当にそう思ったんだから仕方がない(笑)。
手術日は、東大病院の眼科の場合、毎週火曜日と決まっているらしい。何人かが手術を受ける予定になっていて、朝から順番待ちとなる。
俺の前の患者の手術が長引いたらしく、言われていた時間から1時間押しで、手術室に入った。
改めて訊いてみる。
『見えてる状態で手術すんの?』
と。
もちろんそんなはずはない(笑)。
『麻酔をかけると、明るいか暗いか程度しか分からなくなる』
『何かやってるな程度には分かるらしい』
との答え。
その時は『ふ~ん』程度にしか思わなかったのだが、ここで大きなトラップが!
そう…麻酔を打つ時には、まだ目は見えてるのだ!
瞳を開く目薬を入れるので、少しぼやけた状態だが、注射器と針は見える!
『ちょ!!!』
目ん玉の裏側にまで届きそうな長~い針と、結構な大きさの注射器がもろ見えだ!
数回に分けて注射するらしい。
目ん玉と眼窩の隙間に針を刺して!
最初の針が打たれる。
い、痛ぇ…。
4回目くらいから、痛みの感覚は無くなってきたが、まだ目は見えてる。
『先生…まだバッチリ見えてるんだけど…?』
『あっそう。じゃあ麻酔追加して打つね~。あれ?何だろ?上手く入んないなぁ?眼球が人より小さいみたいだね。』
『痛かったりしたら言ってね。我慢すると大出血するかも知んないから。それと、くしゃみや何かも出をうになったら言ってね~。いきなり動くと危ないから。』
…。
最後の麻酔の後、目ん玉を薄いイソジンみたいな消毒液で、ジョーッと洗われたトコまでは見えた(笑)。後はいきなり見えなくなった。
でも、確かに何かしてんのは分かる。
レーザーで焼かれてる時は、スポットライトの点滅みたいなモンは見えた。
んでもって、ここはどうだあそこはどうだという、執刀医と助手の会話はもちろん丸ぎこえな訳(笑)。
しかも全編もれなく専門用語!まるで意味が分からん。
もちろん、どういう意味なのかは気になる。
だけど、ここで大事になってくるのが、最初に述べた
『まな板の鯉になりきれるかどうか』
だったりする。
『後で詳しく教えてくれんだろ。良いようにやってくれ( ` ・ω・´ )b』
俺がすべきは、とにかく動かない事だけだ。事実。生唾を飲んだ一瞬、本当に少しだけ体が動いたのだが、その程度ですら
『動かないで!』
と怒られてしまった。
麻酔を打たれて、1時間ほど経過した頃だろうか。
『もうすぐ終わりますが、これから1~2分、絶対に動かないでくださいね。眼球の膜を縫いますから。一番気を付けなきゃならないトコなんで』と言われた…。
動かずにじっとしてると…針と糸で何かやってるのが見える!
…縫ってる…。
…チクチクと縫い合わせてる…。
…目ん玉の表面を…。
…糸止めの玉とか結んでる(笑)…!
す…凄ぇ!
それから最後の処置をして、手術は終わった。
手術室に入って、2時間弱の時間が経っていた。
『予定通りに終わりました。動かずにいてくれたんで、順調に行きましたヨ!』
と、執刀医が声をかけてくれた。そこで
『今日の手術の様子を、レポートにしてFacebookに上げようかと思ってんのヨ。』
と、手術台に横たわりながら言ったら、スタッフ一同笑ってくれた(笑)。
何だか分からんけど…俺の勝ちだと思った(笑)。
手術の翌日である今日の時点で、右目は全く見えていない。明るさしか感じない。
退院する頃も、視力は回復してないだろうという事だった。
手術で治療が終わる訳ではない。むじろこれが治療の始まりだ。焦らずじっくり治していく事になる。
そう…『まな板の鯉』モードは、まだまだっ進行中なのだ。