床に座っていた女はみたことがなかったが、
僕の顔を見るなり女はニヤリと微笑んだ。
しかも少し露出した衣類を身にまとっている。
僕は、事態があらぬ方向に音を立てて進んでいることを直感ですぐにわかった。
そう、先ほど僕が「第三者はいないから大丈夫」
と言った「第三者」が、まさに目の前に出てきたのである。
それだけならまだいい。
なんと「被害者女性」としてそこに座っていたのである。
聞けば、「レ◯プをしたとして警察に出頭させる選択肢」をすぐに遂行するとのことだった。
それを聞いて、僕は取り乱した。
気が動転するとかのレベルじゃなかった。
脳で思考するという状態を忘れた動物のように、脊髄レベルで泣き叫んだ。
最近某県会議員が「ウァーーーーーーー」と叫んで話題になったが、
正直、気持ちがわかる。
人間「生きるか・死ぬか」の窮地に追い込まれると思考できなくなる。
思考できなくなると、黙るか、取り乱すか。
究極的にはこの選択肢しかない気がする。
しかし。
そんな僕の必死の抵抗も虚しく、A氏は暴れまくる僕を大きな岩のごとくまったくびくともせず掴んだまま離さなかった。
そんなこと構わず、僕は泣いて。暴れた。
こんなに感情を表に出したのは、当時15年生きてきてはじめてのことだったと思う。
<当時の僕について>
当時僕は生徒会や学級委員をしていたり、学校ではなんとなく優等生で通っていた。
勉強も定期テストはテスト前に「要領よく」こなして、学年で一桁の順位。
部活も何となくバスケットボール部に入り、副キャプテンなんかもやっていた。
一方で、自分自身今考えても恥ずかしい話なのだが、
当時はすぐに女性を好きになり、本当に色々な人に声をかけまくっていた。
校内・校外問わず。
思春期だから。とか、若気の至りだから。とか、そういう「いいわけ」をさせてもらえるなら、そんなありがたい話はない。
結果、それがあだとなったわけだ。
ある女子生徒とのトラブルが引き金となり、このA氏と出会うことになった。
A氏はとても気さくで話やすく、相談にも乗ってくれていた。
本当に頼れる兄貴みたいな存在だった。
存在だった。
存在のはず、、、だった。。
そんなA氏が、今鬼の形相で僕を掴み、岩のごとく動かない。
15歳の僕にその状況を受け入れるだけの経験も知識も、そして器量もあるわけがなかった。
その僕の心境を全て見透かし、もて遊ぶかのごとく、A氏はこう言った。
A氏「さて、今から警察に電話を掛けさせるから、覚悟しろよ。」
発言は思考レベルで想定の範囲内だった。
でも、精神とか脊髄レベルでは想定の範囲外だった。
人間は、八方塞がりになると本当に頭が真っ白になる。
この時、本当にそれは学び感じたのを覚えている。
そして、女が電話に手を掛ける。
女が「本当に掛けちゃうよ?」とA氏に問う。
そのやりとりの結果は、僕にとって死活問題であることは間違いない。
僕は必死になって抵抗した。
A氏も抵抗する僕を羽交い絞めにしたり、投げ飛ばしながら押さえつける。
一瞬、A氏と僕の間に距離ができた。
その瞬間、渾身の力でA氏を突き放した。
そして、間髪いれずに土下座をした。
額を擦って、擦って土下座をした。
意味なんて考えない。
脊髄レベルでそう判断したのだと思う。
たぶん、一生分の謝罪をしたんじゃないだろうか。
僕が謝罪する意味はわからない。
わからないけど、それしか方法がなかった。
そんな心理状態だった。
その後もとにかく泣き散らしながら、誤り続けた。
テレビから虚しく聞こえる、再放送のアニメのオープニングとエンディングを
土下座をし続けながら聞いた。
だからたぶん30分以上、土下座し続けたんだと思う。
A氏や女が喋ろうとしても、僕は喋らせない。
そのくらいの勢い、間隔で、誤り続けたのは覚えている。
しかし、
この後、僕の精一杯の態度を踏みにじるかのような出来事が起こる。
僕は土下座をしていて周りが見えていなかったが、
女「もしもし、○○署ですか?」
と、無情にも女が警察に電話をかけ始めたのである。