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14/8/9

小学生のA君から教わったつながりの話

Image by Olia Gozha

私がキャンプリーダーだったグループに、A君がいた。


その子は小学校の中学年あたり。


ADHDの症状があるといわれていた。





私がA君と一緒になると知ったとき、正直不安だった。


他の子どもたちとうまくやっていけるかな。


私はうまくやれるかな。




グループのメンバーが最初に出会ったとき、不安が的中した。


A君は、静かにしなければいけないときも、大声で話しかけ、じっとしていられない様子だった。


上級生の子が正していたが、明らかにいらだっていた。


心配が増した。





移動が始まってからも、A君はしっかりと歩かない。


体が小柄なせいもあるのだが、すぐに疲れてしまう。


リーダーや上級生の子の手や肩を掴んで、体を預けようとした。


上級生ははっきり嫌がっていた。


私にもつっかかってきた。


しばらくの間、私は適当にさせたいようにしていたが、どうにもたまらなくなってきて、「やめてよ」と手を払った。


A君はそれから私に近づかなくなった。


「○○(私)は怖い」


そういって、A君は他のリーダーのほうに体を預けるのだった。


私は、ちょっと途方に暮れた。


A君はこのままキャンプを続けていけるのかな。


どうしたらいいのだろう。


自分がA君を嫌いになってしまう気持ちに襲われた。




あれは、キャンプ2日目の夜だったと思う。


私のグループでは、一日の終わりに絵を描いてその日一日をシェアリングする。


私がその日提案したテーマは、「今の気持ち」だった。


こども一人一人の趣向を凝らした絵が、感想と共にカンテラの中で踊っていた。





A君の番になった。


A君は画用紙の真ん中に小さなマルを書いて、その外側に七色の円が何個も囲んであった。


A君はゆっくりとこう言った。


「僕が真ん中にいる。周りにリーダーやみんながいる。僕はとても嬉しい。」


私はその瞬間をよく覚えている。


その時私は、A君の絵から暖かい空気が吹き出して、自分のグループをしっかり包んだように見えた。


ほっこりと暖かい空気に包まれたような気持ちになった。




それから、私は思った。


絶対にこのグループは大丈夫。


嵐が来ようが、何が来ようが大丈夫だと思った。


なぜなら、A君の言葉は、A君だけの言葉だけではなくて、みんなの言葉であり、私の言葉のような気がしたから。


そうだ。


みんなつながっている。


みんな人は違うけれど、同じキャンプに集まってきた仲間たち。


そして、私もみんなとつながっている。


私は、A君のことを疑おうとしていた。


けれど、何と言うこともない。


私の小さな見識や不安が招いたものにすぎなかった。


A君は今も歩いている。


彼のペースで。


それがどうしていけないというのだろう。


一緒に行こう。


私と一緒に。





A君は私の大好きな仲間になった。


相変わらず、歩くペースは全体と比べて遅かったけれど、グループで楽しく歩いた。


時には休んで、空を見上げた。


A君はいろんなことを教えてくれた。


虫のこと、学校のこと、自分のこと。




みんな大丈夫。


遠く離れていても、二度と会わなくても、私たちはつながっていて、共に歩いている。


全部、A君が教えてくれたこと。



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