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14/8/6

人を捉えるもの

Image by Olia Gozha

大学4年の秋の頃です。 


私は、その時教育関連のイベントに参加していました。


就職活動が終わって一段落していたので、少しお金を使って、自分のやりたいことに参加してみたいと思っていた時期のことです。




イベントは自然の囲まれた施設で2泊3日の日程が組まれており、120名ほどの参加者が集まった大きな規模のものでした。


講師の方も5人ほどいて、立ち替わりで講座を開いてくれるのです。





二日目の午後だったでしょうか。


講師の方がシェアリングサークルという、講座というのでしょうか、ふりかえりの時間を設けて頂きました。




シェアリングサークルというのは、上からみて円の形に人が座り、自分の思っていることを自由に話し合う時間のことです。決まりは、他の人が話しているときは、自分は話に入らないということだけ。他は何を話しても自由です。




通常は何かの課題に取り組んだ後、そのふりかえりとして、何があったとか、何を感じたかを話し合うのですが、そのときはシェアリングサークルがメインで、テーマ自体何を話してもいいということでした。




私は特に話したいことはなかったので、ゆっくりと気持ちを落ち着けて、その場の空気にとけ込むようにしていました。


その場は室内でしたが、わたしの前には大きな窓があり、木々の緑と木漏れ日が、とても眩しく見えていました。




色んな話が始まっては終わりました。


そのときその女性は話し始めたのです。




彼女は、学校の先生をしている方でした。


話された内容は、自分が何か悩みを抱えていても、周りの人は私を先生という役割でしかみてくれないということでした。


悩みを打ち明けても、「先生だから大変ね」「でも休みも多いし、悪いこともないんじゃない」という風に、先生である自分しかみてくれない。私自身をみてくれない。それが今とても苦しい。


そんな話だったと思います。




失礼なことに、その時の私はその話をあまりはっきり聞いてはいませんでした。聞き流すような感じで、どちらかというと気持ちを落ち着けて、その場にいることに集中することに意識を持っていたのです。


その女性は、半分泣きそうな声で話していたのですが、私はあまり感情移入せずに、そういうこともあるのだなといった風に聞いていました。




そんな時です。







突然外の風の音が騒がしくなってきました。木々が揺れ、葉の騒ぐ音がどんどん大きくなってきました。


それは私の中で聞こえていた音かもしれません。話し声とは別に、何だか周りが騒ぎ始めたなという感じがしてきたのです。




音はどんどん大きくなっていきます。


私は段々落ち着かなくなってきました。何だか気持ちが揺さぶられるのです。寂しいような空っぽのようなそんな感情が一気に自分を覆い尽くしたような気がしました。


寒気がして、ふるえが止まらないような衝動。


何なんだろう、これは。。


私は混乱しました。




気がつくと、私は泣いていたのです。


何の理由もないのに、何だか無性に悲しいのです。


何で泣きたいのかもわからず、ぽろぽろと涙がこぼれました。




周りの人は、私が泣いているのは気がついてない様子でした。


私は、その女性の悩みに気持ちが揺れたのではないと思います。


現に、その女性が話し終えて、他の人が話し始めたぐらいから、その落ち着かない状態が始まりました。


私は、ひとしきり泣いた後、気持ちを落ち着かせようと、深呼吸をしました。




ようやく落ち着くと、私は今起こったことをどうしても話したくなってきました。でも、訳がわかりませんよね。外が騒がしくなって、急に何だか悲しくなって泣いてしまいました、なんて。


他の参加者のほとんどは、まだ話してもいないような人ばかりなのです。




でも、やっぱり話したい衝動がどんどん強くなってきたので、私は自分から話し始めたのでした。




「先ほどの女性の方が話し始めた後のことなんですけど、急に風の音がゴォーっととても強くなり始めて、私の中に急に悲しい気持ちが襲いました。それはとても冷たく、まっ暗で気持ちの震えが止まらないようなものでした。いてもたってもいられなくて、涙を流しました。


そんなことがありました。」




おそらく実際に話したのは、もっともっと流れのない無茶苦茶な話だったと思います。ゴォーとかザワザワとか、やたら擬音を使って、好き勝手にしゃべったと思います。


私は普段はこんな話をこういう風に話すタイプではありません。


でも、何だか話さずにはおれなかったのです。




そこからは、参加者に教師の方が多かったせいか、「教育とは?」みたいな議論が長く続きました。あまり内容は覚えていません。




そうして、シェアリングサークルの時間が終わりました。


私は、特に何か学んだことがあったわけではないけど、ゆったりして気落ち良かったなと思いながら、腰を上げました。




すると、先ほどの悩みを話された女性が、まっすぐに私の方に向かって歩いてくるのです。


私と彼女とは、面識がありませんでした。


私は、ぼんやりと彼女が近づいてくるのを見ていました。




「あの…先ほどはありがとうございました。」


「え…はい?」


「あなたの話が、私の気持ちをそのまま語って頂いたような気がして、とても楽になれました。他の先生方のアドバイスより、嬉しかったです。ありがとうございました。」


「あ…そうですか。それは…ど、どうも」




まるで、狐につままれたかのようでした。


口をぽかーんとして、頭をかいていたような気がします。


私は、彼女のことを話してはおらず、自分の気持ちについて話しただけです。それをその女性は、自分の気持ちをそのまま代弁してもらったように感じたということでした。





その女性とは、私の住んでいるところからは遠くにいらっしゃいますが、毎年年賀状をいただいています。


今でも、あのときはありがとうといわれて、私も何と反応したら良いやら、返しの年賀状を前にして頭をひねっています。




何が起こったのか。


これは、たまたまのことです。


あるいは、私の守護霊が感応したとか、宇宙人の電波だとか、自然の大いなる力が潜在能力を活性化させたとか、何だって別に構いません。




ただ、その時思ったのは、人の言動というのは、案外論理や感情とは違う部分で動いているところが多くあり、そんなものに大きく影響されているのかなといったことです。


そんなちょっとだけ不思議な話でした。



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