top of page

13/3/1

祖父が教えてくれたこと

Image by Olia Gozha

結婚式を5ヶ月後に控えた1993年9月のことでした。

仕事を終えて自宅に戻ると電話が鳴っていました。

玄関でバッグを放り投げ、スーツを着たまま電話に出ました。

電話の主は、札幌に住む当時80代後半の祖父でした。

「淳か?おじいちゃんだ。」

「うん。おじいちゃん元気?」

「ああ。結婚式の招待状ありがとう。結婚するんだね。おめでとう。」

「ありがとう」

「せっかく招待してくれたんだが、最近足が悪くなって、2月だと雪が多くて、残念だけどおじいちゃん行けそうにないんだ。」

”そんなこと”はわかっていました。

祖父と同居している伯父から、足が弱くなったと聞かされてから、もう何年も経っていたからです。

はじめから祖父が来られないことはわかっていて、報告のつもりで招待状を出したのです。

「え?ホント?残念。」

それでも、とぼけて確かに今初めて知ったかのような返事をしました。

すると、祖父が続けて言ったのです。

「ああ、おじいちゃんも残念だ。だから、結婚式の日に電報を送ろうと思って文章を考えたんだ。今、読んでみるから聞いていておくれ。」

そして、受話器からはしばしの沈黙とカサカサという紙の音。

(もう電報の用意まで・・・)

5ヵ月後に配達される電報の原稿を、電話の向こうで祖父がゆっくりと読み始めた頃、私は受話器を持ったまま座り込んで泣いていました。

当時の私は、社会人4年目。

仕事も一通り覚え、仕事を通して社会人としての自信も芽生え始めていました。

そしていつの間にか、「一人で育った」ような錯覚に陥っていたのだと思います。

あの電話をもらうまでは。

←前の物語
つづきの物語→

PODCAST

​あなたも物語を
話してみませんか?

Image by Jukka Aalho

急に旦那が死ぬことになった!その時の私の心情と行動のまとめ1(発生事実・前編)

暗い話ですいません。最初に謝っておきます。暗い話です。嫌な話です。ですが死は誰にでも訪れ、それはどのタイミングでやってくるのかわかりません。...

忘れられない授業の話(1)

概要小4の時に起こった授業の一場面の話です。自分が正しいと思ったとき、その自信を保つことの難しさと、重要さ、そして「正しい」事以外に人間はど...

~リストラの舞台裏~ 「私はこれで、部下を辞めさせました」 1

2008年秋。当時わたしは、部門のマネージャーという重責を担っていた。部門に在籍しているのは、正社員・契約社員を含めて約200名。全社員で1...

強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話

学校よりもクリエイティブな1日にできるなら無理に行かなくても良い。その後、本当に学校に行かなくなり大検制度を使って京大に放り込まれた3兄弟は...

テック系ギークはデザイン女子と結婚すべき論

「40代の既婚率は20%以下です。これは問題だ。」というのが新卒で就職した大手SI屋さんの人事部長の言葉です。初めての事業報告会で、4000...

受験に失敗した引きこもりが、ケンブリッジ大学合格に至った話 パート1

僕は、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ、政治社会科学部(Social and Political Sciences) 出身です。18歳で...

bottom of page