あっけない手術の代償は大きかった…
あのさらりと終了した私の左胸のしこり摘出手術。
結局胸から出てきた乳白色のしこりは、大きさが大体5ミリ程度だったらしい。
胸の上から触っている感じだと1センチはあると思っていたけれど、
脂肪のせいで大きさの感覚が違ったみたい。
…なんて事をすっかり忘れて普通に生活をしてた私。
特に体調が悪い訳でもないし、何一つ変化のない身体。
ただ唯一気になったのは、痛み。
刺すような痛みがたま~に手術をした辺りから感じるようになって、
私の中に違和感を感じさせる日々が続いていた。
それが、30才になっていた私。
ふと部屋で考え込む。
アタシ「何だろう…面倒な事は嫌だなぁ…」
ええ、面倒な事が大嫌いな性格ですから(笑)そんな風にしか思わなかった。
それでも放置するのも何だか嫌だ。だって痛いんだもん。
自宅で色々パソコンで検索をしてみても、大した情報はない。
唯一私の心に引っ掛かった単語。
「がんは痛みを伴いません」
…これが自分の身体に対しての危機感を薄れさせていたのは事実。
だけど痛いモノは痛い。
ってことで、再度親友に連絡。
アタシ「ねぇねぇ、前に手術したじゃない?あの辺りがまた変なんだけど、診てもらった方が良いかなぁ?」
親友A「う~ん、気になるんだったら診てもらった方が安心だと思うよ~また手配してあげるから、おいでよ病院に。」
…ってことで、2年前に訪れた同じ病院に私は足を運ぶ。
「どうせまた何もないんでしょ~」というお気楽モード全開のままで。
行った科は前回同様「外科」だった。
でも前回の熊医者はすでに退職しており、今回の医者はノーマルな感じのお医者さん。
以下「ノマ医者」と表記します。
ノマ医者「どうしましたか?」
アタシ「2年前にこちらでしこりの摘出を受けたのですが、また同じ箇所が気になって…」
ノマ医者「そうですか。では診てみましょうか。」
とてもジェントルなノマ医者さん。
前回の熊医者のような雑な感じは一切なく、淡々と検査をしていく。
エコー(超音波)の検査をしている時だったか?表情が変わった。
ノマ医者「今から紹介状を書きますので、すぐに専門病院へ行ってください。」
アタシ「(ぽか~ん)え、今から速攻ですか?」
ノマ医者「ええ、速攻です。病院の場所は地図をお渡ししますし、先生にも連絡しておきますので、必ず行ってください。」
アタシ「はい…(マジか?何なの???)」
そう、アタシ軽い混乱モード。
だって前回のライトな感じから一変、重量級なうえ真剣さも半端ない。
会計にいた親友に声をかける。
アタシ「ねぇ、何だか専門医のところ行ってって言われたんだけど…」
親友A「ま、ちゃんと診てもらえば大丈夫だよ!早く会計済ませて行っておいで♫あ、結果はちゃんと連絡するんだよ~」
はぁ…orz 何だか面倒な展開になったぞ。
一日に病院ハシゴって何なんだ!(涙)おまけに今度の病院は女性Onlyですって。
どんなところなのかしら…不安だ…ってか迷わず辿り着けるのか?←これ一番重要。
そんな困惑の中、専門医の病院へトボトボ移動。
ま、今いた病院から専門医の病院までは歩いて10分もかからない距離。
でも徒歩が大嫌いな私からすれば、なかなか気が重い。
それでもあれだけ「速攻!」って言われたら…行くでしょ(苦笑)
アタシ「ま、さっくり終わるでしょ~(楽観的)」
はい、この気楽さは風のように吹き飛びましたよ、数時間後には(笑)
女性専用だけあって、待合室はピンク系のセンスの良いソファと綺麗な花。
クラシックが流れ、アロマの香りが心地よい。
初めて足を踏み入れた私にとっては何だか異質な空間。
受付でノマ医者から貰った紹介状を出すと、
事務長「連絡はいただいていますよ。少しお待ちくださいね。」
とても穏やかで優しい受付のマダム。
僅かばかり緊張が解けたところで診察室へ呼ばれた。
私を待ち構えていたのは…侍医者だった(笑)
ま、今でもお世話になっている先生だが、あえて侍医者と呼ばせていただく。
侍医者「紹介状を拝見しました。これから検査をしていきますね。」
アタシ「はい…よろしくお願いします…」
「大したことないでしょ?」
なんて言葉が言えないくらい、ちょっとしたオーラが出ている侍医者。
とにかく言われるまま様々な検査を受けた。
今回の検査内容は、問診・触診・マンモグラフィー(乳房のレントゲン撮影)・エコー(超音波)
ま、一般的な検査全般ってヤツ。
マンモなんて初めてだったから、大騒ぎなんてモンじゃない(笑)
痛いし、痛いし、痛いし…ってそればっかりになる位痛かった(号泣)
でも仕方ないのかな、何もないって確定するまでは。
侍医者「結果が出るのが一週間くらいなので、また来てくださいね。」
この言葉を耳にしながら、とぼとぼ帰路へ。
沢山検査もしたお陰で、とにかく疲れていたアタシ。
とにかく早く自宅に帰りたかった。
一応親友Aにも電話を入れ、大急ぎで自宅に戻り、一人ぐったり。
アタシ「ど~せ何もないんだし…とにかく早く全部検査終わらないかな…(涙)」
と自宅の猫達に話しかけては無視されて凹む(涙)
ま…この子達のためにも、何もないことを早く証明しなくちゃ。
…と思いながら、一週間が経過し、再度私は病院を訪れた。
侍医者から告げられたのは、
侍医者「きちんとした診断をしたいから、次の検査受けてね~」
アタシ「え?また検査ですか??(涙)」
そんなアタシの言葉をさらっと受け流して、笑顔の侍医者。
…この人ドSだ。間違いない、アタシの勘がそう言っている。
おかしいなぁ?前回結構検査したよねぇ?(涙)まだやるの…???
なんて私の思いは放置プレイ。
次から次へと検査は続くのですよ、これまた。
穿刺吸引細胞診(細い針をつけた注射器でしこりを刺し、顕微鏡で検査)やら、
分泌液細胞診(乳首からの分泌液を検査)、
最後が乳管内視鏡検査(乳首から内視鏡を入れて、中を検査)。
全行程が終わったのは、最初に来院してから半月後。
まぁ…長かったですね、ホント。
一通りの検査が終わってから1週間。
私の携帯が鳴った。相手は病院の受付マダム。
事務長「今先生に電話代わりますね。」
アタシ「まさか結果が最悪とかなんて事ないよね~まさかね~そんな事ないっしょ♫(内心)」
侍医者「あ、もしもし?今から病院来られる?」
アタシ「え?まさか…」
侍医者「うん、だから早く来てね~」
…細かい言葉は忘れちゃった。
でも一つ言えることは「良い結果ではなかった」ってことだ。
何とな~く現実味がない中で、車を走らせる。
「う~ん…何が何だか良く分からないが…ま、いっか。」
ええ、こんな感じで病院向かってましたね(笑)
そして病院到着。
他の患者さん達とともに待合室でしばし待ち、診察室へ。
侍医者「検査の結果なんだけど、左乳房乳管がんだね。今から詳しい説明するから、良く聞いて。」
アタシ「あ、はい。お願いします…」
↑ 結構平常心のまま。
侍医者「(かなり詳しい説明ののち)ってことだから。」
アタシ「あ、そうですか。では私は何をすれば?」
どうやら普通の患者さんだったら、泣く・わめく・落ち込む・放心状態のどれかになるらしい。
そりゃそうよね、一応悪性腫瘍だって言われる=がん告知 なんだから。
ところが私はあんまり感情が動かなかった。
何故かって?泣いてわめいて病気が治るんだったらそうする。
でもそんな事しても治らないなら時間の無駄だって思ったから。
ならば何をすれば良いのかを先生から聞き、選択していくしかない。
だから「では私は何をすれば?」ってワードになった訳です(笑)
侍医者「まずは治療方針決めて、手術って流れかな。ご親族にも説明した方が良いし、色々あるでしょ?準備とか。とにかく今日から薬飲んでもらうから、あとで飲み方説明するね。さ、治療頑張ろう!」
アタシ「あ、はい。よろしくお願いします~」
…これが私のがん告知でした(笑)さっぱりしたモンでしょ?
先生が事細かに書いてくれた説明書きは、父に説明する時に活用させてもらいました。
ちなみに病気の事を説明し、号泣したのは父。私は…泣かなかった。
いや、あれだけ目の前で号泣されたら泣けないって(笑)
何て言うんだろう。「アタシがしっかりしなくちゃ!」って思うくらい落ち込んだ父。
それもそっか、一人娘だし、母もいないしね…
ごめんね、パパ。余計な心配増やしたね(涙)
でもさぁ…病気の娘が「しっかりしなくちゃ!」ってどうなのよ?(爆笑)
ま、幸いにして私にはとても心強い叔母(父の妹さん)がいてくれるので、
何かあれば面倒見てもらえる安心感もあったし、
親友AもBもいてくれるので、精神的には安定していたのかもしれない。
だけどね…女性として左胸がなくなるって言うのは、かなりのショックだった。
自分で言うのも何だけど、結構私の胸、綺麗な形と大きさだったのよね(爆笑)
これが片方無くなるのかぁ…って思うと、
正直治療なんてしないでこのまま死んでしまいたいとすら思った。
告知を受けてからの私はいくつかの山を越える必要があった。
まずは薬。
内服の抗がん剤やら胃薬やら何やら…
おまけに告知受けた途端、不眠になってしまったので、
安定剤や睡眠薬まで出させる始末。
特に抗がん剤は体調を悪化させてくれるため、
それまで続けていた仕事も辞めることに。
次は生命保険。
私は本当に自分に病気の疑いがあるなんて思ってもいなかった。
だからこそ、それまで入っていた保険を切り替えた。
ただし、切り替えたタイミングが最悪だったのかもしれない。
だって新しい保険にしてから9か月で乳がんの告知だもん。
そりゃ新しい保険会社にしてみれば、疑いを持っても仕方ない。
なので保険金が下りるまでは戦いだった。
それがなければ治療も出来ないし、仕事も辞められない。生活も出来ない。
つまり…死ぬしかない。
まぁ幸い満額保険金が下りてくれる運びになったので、
全てはクリアになったけど、あんまりいい思いはしなかったな。
「生命保険って、入る時は優しいけれど 請求したら手のひら返すのね」
と思ってしまったのは私だけではないはず(号泣)
最後は治療方針。
何せ色々決める事が沢山ある。
当初私の手術は左胸の4分の1を切除って話だった。
でも次に検査をしたら、2分の1の方が安全かも?って流れになり、
最終段階で、何だか面倒になった私は…
アタシ「全摘出でいいです。それでお願いします~あと同時再建の方向でお願いします~」
という決断をする。
何故全摘出にしたか?だってまた手術するの嫌だったんだもん。面倒だし(笑)
…ええ、こういう性格ですよ~
同時再建って言うのは、イメージしてもらいたいのは肉まん。
私が受ける手術は、この肉まんの中身だけをくり抜くイメージ。
そのくり抜かれた部分に生理食塩水の入るバッグを挿入し、
少しずつ水を追加していって、表面の胸の皮を伸ばして、
最終的にはシリコンに入れ替えるって方法。
時間はかかるけれど、出来上がりがとても綺麗に出来るそうなので、
あえてお金も時間もかかるけれど、その術式を選択した。
失ったモノを取り返すには、多少の犠牲は必要だもの。
そして着々と手術に向けての準備や選択は進み、
手術の日程が決まった。
翌年の1月7日。新年早々手術って…良い年なんだか悪い年なのか全く不明。
でも面倒な事はさっさと終わらせたいし、
一度最悪な状況まで落ちれば、あとは上るだけ。
そう、ポジティブですよ、私。
だって、こうなったらやるしかないんですよ。
誰のために?
自分のため、父のため、身内のため、猫のため、仲間のため。
人は色々なモノを背負って生きている…それを痛感したのもこの時期だったかな。
そして悲しいけれど、この時期に私は人間関係の断捨離をしていた。
「辛いよね~わかるわ~」って言った元友達(顔見知りに格下げ)や、
「そんなに辛そうじゃないよね?」って言った元自称親友(同級生に格下げ)とか、
何だか病気によって自分にとって誰が大切で、誰がそうじゃないかが明確になった。
…あながち病気は悪いことばかりを与える訳ではないらしい。
そんな事を学ばせてくれた乳がん。ちょっとだけ感謝かな。
…続く。