前回のあらすじ
僕は杉村さんの話しを聞いて、初めて「コンサル」という仕事に触れた気がした。
いや、働くという以上に何か大切なことを学ぶことができた。
10年もの間、コンサルで活躍し続ける杉村さんの話には、僕含め多くの就活生の心に残ったのである。
そしてインターンシップの後半戦は、僕にとってリベンジマッチとなるグループディスカッションが待ち構えていたのである…
グループディスカッション再び!
一日がかりのインターンシップは、杉村さんの話で午前の部が終わってお昼休憩へと入った。
僕は適当に駅近くのマクドで腹ごしらえしながら、橘くんの話や杉村さんのことを思い出していた。
「あれが働くってことなんか~」
まだ甘ちゃんの僕にとって社会人として「働く」というのは、どういうことなのかさっぱりわからなかった。
「自分もいつかは杉村さんのように好きな仕事で活躍して、就活生の力になれるんかな?」
そんなことを考えながら僕はチーズバーガーを食べていた。
午後の部は、なんとまさかのグループディスカッション!
とは言っても各グループこどに社員さんが一人付き、最初は質疑応答に答えてくれるというものだった。
僕のグループには恰幅の良いコンサル歴12年の人がやってきた。
「おぉ、この人も杉村さんと同じく10年以上も働いている人か!」
中村さんというその方は、いかにも「仕事ができる!」というオーラを醸し出していた。
自信のある声に、わかりやすい説明、さらには就活生の話しを聞き出す能力など、、、
「これぞまさにコンサル人」というイメージがピッタリの人だったのだ。
中村さんもすごい人で、話しを聞いているとどうやらビジネス雑誌にも何度かインタビューされて載ったことがあるらしい。
間近で社会人の人と話しながら、仕事の話しを聞いたり、就活の悩みを聞いてもらえるのは新鮮だった。
他の就活生に負けぬよう、僕も一生懸命に中村さんに質問していた。
「普段はどんな仕事をされているんですか?」
「どんな時にやりがいを感じますか?」
「休日はどんな風に過ごしていますかー??」
「俺はインタビューアか!」と自分でツッコミたくなるほど質問をしていたが、それでも中村さんは笑顔で答えてくれた。
そして30分かの質疑応答タイムは終わり、とうとう宿敵である「グループディスカッション」が始まったのだ!!
ディスカッションのプロ現る!
ディスカッションの内容は「架空の企業をコンサルしよう」というもの。
コンサルという仕事を想定して、ある企業からコンサルの依頼が来る…
その内容が資料に載っていて、僕らはこの企業に対してどんな提案ができるか?というものだった。
「めっちゃおもろそうやないかー!!」、ゲーム感覚にも似たこのディスカッションに僕はとてつもなく興味が湧いた。
制限時間は50分!(けっこう長い!)、最後は各グループの代表2名で発表する。
「とうとうリベンジマッチがきたか、、、」そう思うと僕の頭で天使と悪魔がささやきだした。
天使「そうだ石本!そうそうチャンスなんて訪れてこないんだから、今日はしっかり決めろよ!」
悪魔「げっへっへー、まあまあそう焦ることもなかろう!今回は見送っても大丈夫だろう。」
またも頭の中で天使と悪魔の戦争が勃発して、そっちに意識が取られそうになった。
「では、誰が発表役になりますか?」
前に座っていた就活生の言葉で、僕はふと我に返ることができた。
おそらくディスカッションが初めての人がほとんどだったのだろう。少しの間、沈黙が続いていた。
その中で一人、僕の斜め前に座っていた学生が、
「僕が発表するのであと一人決めましょう。それにタイムキーパーと司会進行役、あと書記の人も決めたほうが良いですね。」と話し始めた。
「こやつ、何者!?」鮮やか過ぎる言葉に僕は目をまん丸くしてその人を見た。
「誰か一緒に発表してくれる人はいませんか?」
その学生の言葉にみんな黙ってうつむいていた。
そりゃそうだ、もし発表するとなると就活生だけじゃなく、会社の人たちもいる。
初めてディスカッションや発表を経験する人が、いきなり100人の前で発表なんてできやしない。
僕も下を向いて悩んでいた。小林先生の指導や練習もしながら、結局今回もできないのか?また情けない思いをしないといけないのか?と…
その時ふと橘くんの話や、杉村さんのことを思い出した。
誰だって悩みながら、つまづきながらも前に進んでいる。最初からうまくいくとなんてほとんど無い。だったら思いっきり失敗しても構わないんじゃないか?
そう思うと少し気持ちが楽になって、僕は震えながらも手を挙げた。
「、、、僕も発表します!」
全員の視線がこっちへ来た。そして最初に立候補した学生が「ありがとうございます!」と言って話しを続けた。
「それでは司会進行も僕がするので、タイムキーパーと書記をやってくれる人はいませんか?」
これが噂に聞くポジショニングである。
就活のグループディスカッションではだいたい司会進行・タイムキーパー・書記と言ったポジションが存在する。
これにより限られた時間でのディスカッションをスムーズに行うのだ!
ちなみにポジションが無かった場合、無惨な結果に終わってしまう場合が多い、、、
「なら私、タイムキーパーします!」と前の女の子が言うと、隣に座っていた男の子が「僕が書記をします」と言ってくれた。
こうして無事にポジショニングが完了し、僕ら6人のグループディスカッションが始り、司会進行の彼がスムーズに話しを進めてくれた。
「まず、もらった資料からこの企業の問題点が何か話し合いましょう。そうですね、時間は10分間にして、各自が思う問題点を話し合いましょう。」
僕は内心「なんやこの人!実はコンサルの人!?学生に混じりながら本物がおった!?!?」などとアホなことを思いながらとても感心していた。
今までのグループディスカッションで「手練れ」が居なかったので、僕は初めて熟練者の人を間近で見ることが出来たのである。
「みなさん、何か思う問題点はありますか?」
「そうですね、、、新しく始めた企画の売り上げが良く無いような気がします。」
「確かに、それにお客様の声でもクレームが上がっていますね。」
などなど、みんな自分が思う意見を話し合っていた。
ちなみにディスカッションの内容は、ある大手企業の事業の中で売り上げが悪い部分がいくつかあり、それに対してどういったコンサルができるか?というもの。
こう聞くと自分がバリバリのコンサルの人のように思うだろう?ふふふ、完全にただの学生ですよ。ただの。笑
そんな冗談を言ってる余裕は無く、僕らは10分間とりあえず思いつく原因を出し合った。
「10分経ちましたー!」とタイムキーパーの人が言った時は、ラーメンで3分待っているより早いやろ!と感じたほどだった。
「じゃあだいたいの問題点は出たと思うので、その問題点についてどういった改善策があるのか考えていきましょう。」
僕はこの人のことを学生に扮したコンサル生ではないかと思った。
明らかに他の就活生とは違ってリーダーシップの発揮の仕方、ディスカッションの進め方をマスターしている。
「いったいこの人は何者なんや?」と僕は考えていた。
改善策を考えるのにも時間を決める必要があるといって15分間ディスカッションすることになった。
「ではみなさん、この問題点についてどんな改善策があると思いますか?」
彼の言葉がグループに響き渡った。
「僕はこの新しい事業をやめた方がいいと思います、、、そんなに売り上げも取れてないし。」
「私もそう思います。お客様からのクレームも出ていて、これが赤字の原因かと、、、」
「おぉ!この場面だけ切り取ってみたら僕らはもう一端のコンサル人だ!!」などと恥ずかしいことを考えながら、僕もディスカッションに参加していた。
とりあえず思いつくままに解決策を出していき、それを進行役の人がうまくまとめてくれた。
実力あるリーダーがいるだけでこんなにもディスカッションがまとまるものなんだと僕はその時学んだ。
そして15分間は過ぎ、ディスカッションの残り時間はあと半分となった。
「じゃあ解決策も出たことですし、これを発表できるようにまとめていきましょう!」
そう言うと彼は、書記の人が書いてくれた解決策案の紙をみんなに見えるように広げてくれた。
「色んな案が出ましたが、大まかに分けるといくつかのカテゴリーに分かれると思います。それをみんなでまとめていきましょう!」
「なるほど、こうやって出た案をまとめると発表しやすくなるんだな!」僕は心のメモ帳にこの戦法をばっちりとメモった!
(後に僕はこの方法を多用しまくったのである!)
彼の話したとおり出た解決策は3つくらいのカテゴリーに分かれて、ずいぶんとキレイな形にまとまった。
その時点で残り10分、バッチリすぎるタイムスケジュールである。
「じゃあ形もまとまった事ですし、残りの10分間は発表するための練習に使いましょう。石本さん、何か発表したいやり方はありますか?」
その質問に僕は肝心なことを思い出した…
「そうやー!!俺が発表するんやったわーーー!!!(泣)」
50分という長丁場と、彼のあまりにうま過ぎる司会進行に、自分が発表することをすっかり忘れていた。
「そ、そうですね、、、なら僕は前の方を発表します。」
前の方って何や?と自分で思いながらも僕は必死になって答えていた。
なら前半部分はお願いします!と彼は僕の言葉を理解してくれて、僕らは発表の練習をしていた。
書記の人がキレイにまとめてくれていたのでほとんどその内容を音読するだけでじゅーぶんだった。
発表の練習をした後、細かい部分の修正を加えてディスカッションの時間は終わりを迎えた。
「はい!みなさんお疲れ様でした!では今から発表の時間にしたいと思います!」
前に立っていた中村さんがいつの間にか司会をしていた。
「ではグループ代表の方は前に出て発表お願いします。まずは、、、Aグループの代表の方、お願いします!」
僕はその瞬間凍りついた。
テーブルの上にあったグループ名には間違い無く「A」と書かれていたからだ。
どっからどう見てもそれは「A」。逆さに置いたとしても絶対に「A」としか読めない。
僕はすぐさまCグループに逃げ込んでやろうかと思ったがそんなことは出来ず、まるで公開処刑を受けるかのように前の方へと進んでいった。
心臓の音が早くなるのが分かった。
前に立ってみると自分が思っていた以上に会場は広く100人以上の学生と会社の方々の視線が僕らへと向かった。
「ええい!読むだけや、、、読むだけや石本!わかっとるかー!!」と僕は自分に謎の喝をいれて紙を握っていた。
そして中村さんが笑顔で「はい、ではAグループの発表をお願いします!」といって拍手をすると、会場みんなも拍手を始めた。
「こりゃ大ごとになってきたわ、、、」
今更、自分が立候補したことを悔やんでも後には戻れない。
静まり返った会場の中で、僕は第一声を話した。
「、、、それでは、今からAグループの発表をしたいと思います。」
どうやら「ちゃんと挨拶から始めないといけない」という理性だけは残っていたようだ。
「Aグループがディスカッションした結果、僕たちの解決策については、、、」
スムーズにディスカッションを行えたおかげで、発表自体は詰まること無く話せた。
僕の発表が終わると後半部分を彼が話してくれた。
僕とは打って変わり、自信ありげな感じで発表する彼の姿はカッコ良かった。
「以上が僕たちの発表になります。」
そう彼が締めくくると会場の人たちが拍手をしてくれた。
「はい、ありがとうございました!キレイにまとまっていたので良かったです。
それでは今から質問タイムにしたいと思います。Aグループの発表について何か質問ある方はいますか?」
「質問やとーーー!!!」
やっと発表が終わって席に戻ることができると思っていた僕は、中村さんの言葉を聞いて完全にフリーズ!
が、特にこれといって誰も手を挙げそうになかったのでうまくいけばこのまま逃れられると思ったのだ。
「よ~し、誰も質問するでないぞ、そのままステイや!」僕は心の中でありったけの念力を会場全体に飛ばしていた。
すると僕からのテレパシーを感じたのか、中村さんが、
「はい、特に就活生からの質問はなさそうですね、、、ならせっかくなので私から質問したいと思います!」
「あんたかいなーーー!!!」
失礼ながら僕は中村さんに鋭いツッコミをしてしまった。
まさか学生のディスカッション内容にプロのコンサルの方が質問するなんて、、、
言うなればそれは原始人の軍隊に、最新鋭の核ミサイルを落とすのと同じ。
質問ではなくそれは攻撃である。
どんな質問が来るのかとビクビクしていた僕だったが、中村さんの質問は優しいもので「ディスカッションの中で一番重要な部分はどこでしたか?」というものだった。
安堵していた僕の隣で、その質問に対して彼がスラスラと答えてくれた。
そして僕も便乗して「その部分が確かに重要だと思いました。」などと偉そうなことを言っていた。
中村さんは満足そうに「ありがとうございます!それでは席に戻って下さい。」と言って、僕らはやっと故郷に戻ることができた。
席に着くとグループのメンバーが「お疲れ様でした!」と温かく迎えてくれて、僕はほっと胸をなで下ろしたのだった。
寿司がきた!
その後も順番に発表があり、最後のグループが発表する時にはもう6時を過ぎていた。
「みなさん今日は本当にお疲れ様でした!私たちのインターンシップはいかがだったでしょうか?
コンサルという仕事について少しでも伝わった部分があると嬉しいですね。そしてこの中から将来、私たちと一緒に働いてくれる人が見つかることを期待しています!」
そういって中村さんは締めの言葉を話していた。
「けっこう長かったな~」ディスカッションも終わり気が抜けた僕は、その日の疲れが一気に出た。
それでも橘くんや杉村さん、そして実りあるグループディスカッションを体験することが出来て僕は満足だった。
「それではせっかく今日はみなさんに来ていただいたので、この後は懇親会を行いたいと思います!」
「え!懇親会だって!?」そういえば確かに今日のタイムスケジュールの最後には懇親会と書いてあった。
でもその内容がどんなものか僕には検討もつかなかった。
「何するんやろか?」と思っていると会場のドアが開いて会社の人たちが何やら手に何か持って入ってきた。
そして僕はその人たちが持ってるものを見て目が釘付けになった!
「あれは、、、寿司だ!!」
そう、そこには間違い無く僕の大好物なマグロが、、、いや、寿司があった!
しかもその後にも続々と寿司やらサンドイッチやらとご馳走が出てくるでは無いか!!
これにはもう就活生の全員が興味津々に眺めていた。
「みなさんもうお腹も減ったと思うので、最後はご飯でも食べながら好きなようにお話しようかと思います!」
「ブラボー!」僕は心の中で叫んだ。まさかの展開に会場から一斉に拍手が響いた。僕もその日一番の拍手をしては、手が痛くなっていた。笑
その後は立食パーティ式でご飯を食べながら就活生と社会人の方々が自由に話しをしていた。
僕は橘くんや杉村さんと話をしたかったが、案の定2人の周りには人だかりが出来ていて話すことは出来なかった。
それでも他の社会人の人たちとはゆっくり話ができたり、違う大学の人とも話せたので僕は大満足だった。
そして7時半頃、一日通してのインターンシップは終わったのである。
(つづく)


