前回のあらすじ
僕は小林先生から初めて本格的な「就活のいろは」を学んだような気がした。
はっきりとした口調で、次々と就活生の不安を消し飛ばしてくれる小林先生の言葉。
僕含め何人もの就活生が目を輝かしながら小林先生の話を聞いていた。
そんな中で始まった初の「グループディスカッション」。情けないくらいに喋れなかった自分と、勇気を持ってリーダーに立候補した大塚さんの姿。
たった一回の研修で、僕は色んなことを学ぶことができた。そして二週間後、僕は二度目のグループディスカッションを迎えたのであった。
悩んだ末に
2週間の間、僕はどこの企業のインターンシップに参加しようかと悩んでいた。
渡された資料には見たことも聞いたこともない企業が並んでいて、どのインターンシップ内容もすごく面白そうだった。
「営業の仕事を学ぶための一日体験有り!」
「いかにしてメーカーは工場で商品を作っているのか?」
などなど、その気になればわずかな期間で色んな業界の裏側が見れるのではないのか?と思うほどだった。
が、、、もちろん参加できる企業は一つ。どれだけ心が欲張ったとしても一つしか体験することは出来ない。
「ん~、インテリア関係の仕事はないのか。」
辞書かと思うほど文字が並んだ資料を見ながら、僕はインテリア関係の仕事はないかと探したが見当たらなかった。
50近くの会社が紹介されているのなら1つぐらいインテリアの仕事があってもよさそうだが、実際は営業や金融などの仕事のほうが多かったのである。
「まあでも色んな業界を知るのも勉強になるか!」
別にマスコミ系の仕事を目指すわけではないが、僕は小林先生の言葉を思い出した。
就活は今まさに始まったばかり。
今まで知らなかった「会社の裏側」「業界の裏側」を学ぶための絶好の機会である。
その中で一つ、ふと僕の目に止まった職種があった。
「、、、コンサル??」
コンサルという名前は新聞やテレビで見たことがあったが、それがどんな仕事なのかは具体的には知らない。
それでも僕は「企業の悩みを聞いて力になる!」という短いキャッチフレーズに興味が湧いた。
「悩みを聞くか、、、ちょっと面白そうかも!」
昔からよく友達の相談に乗ることが多く、悩みを聞いた友達が元気になる姿を見ることは嬉しかった。
それは「会社」対「会社」でも同じで、コンサルという仕事では相手企業の悩みや問題点について「どうすれば解決するのか?」というのを共に考える仕事だというじゃないか!
「そやな、これにしよか!」
単純過ぎる動機で、もし小林先生が隣にいたらローキックされそうだが、せっかく参加するインターンシップなら自分の興味が湧く会社に行きたかった。
僕はその企業のインターンシップを熟読して「参加する」という項目に丸をつけた。
「一体インターンシップってどんなことするんやろ??」
色んな妄想が頭の中でグルグルと回っていて、僕は来週に迫った二回目の説明会が楽しみになっていた。
二度目の挫折
あっという間に2週間は過ぎ、2回目の説明会の日がやってきた。
僕はまだ慣れないリクルートスーツを来て、梅田にある就活センターへと向かった。
教室に入るともう既に何人か到着していて、和気あいあいとインターンシップについて話し合っていた。
前回はみな初対面だったが二回目と言うこともあり、グループメンバーとは仲良くなっていた。
僕は自分の席へと座ると、前に座っていた大塚さんが話しかけてくれた。
「どこのインターンシップに参加するんですか?」
「実はコンサルの仕事にも興味が湧いたので、受けてみようと思ってます。」
「コンサルか~、なんだか難しそうなイメージがあって私には向いてないかも、、、」
「難しいのか?」と何も考えてなかった僕は一瞬戸惑った。しかしモノは試しである。興味あるものは片っ端から受けてみようと思ったのだ。
「ちなみに大塚さんはどこのインターンシップに参加するんですか?」
「私は自分が行きたい銀行とか金融系のインターンシップに行こうと思ってます。」
前のグループディスカッションで金融系に興味があると話していたので、僕は大塚さんならそこのインターンシップを受けるだろうなと思っていた。
「そういえば、どうして大塚さんは金融系に興味があるんですか?」
僕は素朴な疑問を大塚に聞いてみた。
「私のお母さんが銀行に務めていて、よく仕事の話を聞いていたんです。それで自分にも興味がありそうだなと思ったので、そんな仕事で働いてみようかと思ったんです。」
確かに親や身近な人の仕事が一番リアルで自分にも伝わる。
僕は自分の身近な人でインテリア関係の仕事をしている人が居ないことを悔やんだ。
「石本さんはもともとコンサルに興味があったんですか?」
ふと大塚さんからそんな質問が来たので僕は一瞬戸惑った。そんなに深く考えてコンサルを受けるわけじゃない。
うまい理由も思いつかないので僕は素直にコンサルを受ける動機を話すことにした。
「いいじゃないですか。確かに誰かの悩みを聞ける人が向いてる仕事ですもんね!石本さんならいけると思いますよ。」
それがお世辞だったとしても僕は嬉しかった。就活を始めて何も自信が無い中、初めて褒められた言葉だ。
まあ京都の説明会ではベルトを褒めてもらったのだが、、、
あれは「ベルト」に焦点があって、メインの「僕」はかやのそとだった。自分という人間を評価してもらえたのは今日が初めてだ。
そんなことを考えていたらいつの間にか予定の時刻になり、勢いよくドアが開いた。
「みなさん、おはよう!」
きた!!相変わらずドス、、、いや力強さが効いた声で小林先生が登場してきた。
小林先生はもはや僕にとってのヒーローにだった。
就活生のことを否定する時は全力で否定してくるが、反対に応援してくれる時も全力。
それに小林先生の言葉一つ一つには断固とした「自信」があり、それがまた僕らにとっての力になっていた。
「あれから2週間が経ちましたが、みなさん参加したい企業は決まりましたか?」
もちろん決まっています!という顔をした就活生もいれば、まだ悩んでいそうな学生の姿もあった。
僕はとりあえず決まっていたので「俺はコンサルに行きたいです。」と心の中で呟いた。
「では本日もさっそくグループディスカッションを行ってもらう。そのディスカッションで自分が何故その企業のインターンシップに参加したいのか?また何を学んできたいのかを話し合ってほしい。」
出た!!これが噂の「グループディスカッション」だ。(噂も何も、前回もやったのだが、、、)
この前のグループディスカッションではみな初対面ということもあり、話し合い自体がぎこちなかったが今回は違った。
さすがに二回目ということもあり、みな笑顔を見せながら自分が行きたいインターンシップについて話し合っていた。
「ちなみに今回も発表してもらうからな!その役も決めておくように。」
小林先生は意味深な笑顔でそう言うとまた席に戻った。
「今回こそは、、、」僕は悩んでいた。今回こそは手をあけで「僕が発表します!」と言いたかった。
何故なら就活が始まれば否が応でも発表しなければいけない。だったら今のうちに練習しているほうが断然いいからだ。
引き続きグループのみんなが楽しそうに志望動機を語り合っている中、僕だけ違う戦いが始まっていた。
天使「いくんだ石本。今いかないとどうするんだ?」
悪魔「へっへっへー。まだまだいかんでも良いやろ。それに練習の機会なんてまたあるわ!」
僕の頭の中で天使と悪魔が激しく戦っていた。そのおかげで全くと言っていいほどディスカッションの内容が頭に入ってこない。
天使だろうが何だろうが、とりあえず頭の中で騒ぐのをやめて欲しかったが、それ以上に重要なのは手を上げれるかどうかだった。
「、、、くそ~、まるで身体が別人のようだ。まったく意識に反応してくれない。」
どれだけ手を挙げろと命令しても、僕の右腕はまったく反応しなかった。
そうこうしてる内に、いつもは黙っている竹内くんがいきなり「、、、今回は僕が発表します。」と一言だけ言った。
いつもは黙っている竹内くんからの予想外の言葉で一瞬沈黙が訪れた。
「なら、今回は竹内くんがお願いします!」
と奥村くんが気を取り直したかのように笑顔で答えた。
「やってしまった、、、」今回こそは本気でテーブルに頭をぶつけてやろうかと切に思ったが、やはり理性がそれを止めた。
ただまたも自分の不甲斐なさにはどうしようもなく無力感を感じたのだった。
「は~」僕は心の中で100回ほどため息をついているといきなり奥村くんが、
「そう言えばどうして石本さんはコンサルに行きたいんですか?」と訪ねてきた。
そこで僕は大塚さんに説明したと同じく、ことのいきさつをみんなに話した。
「なるほど。」と小声で頷いた竹内くんが気になったが、僕は志望動機を一通り説明した。
その話を聞いていた奥村くんが何か言おうとした時、「はい終了!」という小林先生の声が響き渡った。
と同時に騒がしかった教室は静かになり、前回同様、グループごとの発表会となった。
まだどのグループもたどたどしかったが、それでも最初の頃よりは一応話しがまとまっている班が多かった。
僕らのディスカッションの内容は、みんなの前に立った竹内くんが伝えてくれた。
緊張しているためか表情は固く、いつもより早口になっていたが、それでもみんなの前で発表している竹内くんの姿が羨ましかった。
「おいおい、俺はほんまに大丈夫なんやろか?」
またも絶好のチャンスを逃した僕は、一人で落胆していた。
最後のグループの発表が終わり、再び小林先生が壇上に立った。
「みんな一回目の時よりもディスカッションらしくなってるやないか!数をこなせばこなすほど、絶対に上手くなるからな~!やから今出来んくても落ち込む必要はないからな。」
そんな小林先生の言葉が僕の胸に響いた。
「次こそは、、、」
僕は新たに決意して、来週に迫るインターンシップを迎えたのだった。


