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14/6/26

カタルーニャの記憶

Image by Olia Gozha

ジャックの物語1


バルセロナに位置するカタルーニャ。光と闇とが交差する街。

陽気な人々の笑顔と笑い声、観光客の活気、そしてまばゆい太陽はこの町に光をもたらしている。

しかし、光はあまねくすべての人々に平等に与えられるわけではなかった。


観光客で賑わい、道の両脇に様々な店が軒をならべるランブラス通り。

北には噴水のある広場があり、そこから下って南に行くと、高さ10数メートルにも及ぶコロンブスの像がある。

さらに南に行けば砂浜があり、それ以上先は地中海にぶつかる。


ランブラス通りを一歩外れて横の道に入ると、小さな路地に入る。

入り組んだ路地は、初めてここを訪れるものには、さながら迷路のような印象を与える。

そんな迷路のような入り組んだ路地でも、昼は観光客の姿が訪れ、飲食店やホテルに消えていく。

時刻は夕刻、太陽は傾きかけ、観光客の姿もまばらになってきた。


小さな路地に、駆けるように過ぎていく足音がある。

足音の主は迷うことなくいくつもの角を曲がり、とある場所で立ち止まる。

「はあ、はあ、はあ………ふう…」

肩で大きく息をし、体を上下させる少年。髪は黒く、短く切り揃えられてある。

肌は浅黒く、挑戦的にも見える目が印象的だった。


「ここまで来りゃあ大丈夫だろ」

最後に大きく深呼吸をすると、壁にだらしなく寄りかかる。

「さて…と」

如才なく左右に目を走らせ、辺りに人の気配がないのを確認する。

「今日の収穫はと」

そう言うと、鼻歌混じりに腰のポーチから財布を取り出す。

「……しめて150ってとこか。」

ふふん、と鼻息を鳴らす。

「あの観光客の夫婦にゃ悪いけどこっちも生活がかかってんでね。

まあ、幸せのお裾分けみたいなもんだからあの二人も笑って許してくれんだろ」

そう言うと、少年は財布をポーチに戻した。


タッタッタッ。

「なんだ?」

足早に誰かの足音がこちらに近づいてくる。

「わっ!」

気づいたときには、大きな人影がすぐ近くまで接近していた。

ドン!

何者かに背後から衝突され、くるりと跳ね飛ばされる少年。

ドシンと無様に尻餅をつく。

「……クソ!痛ってえじゃねえか」

一瞬何が起きたがわからなかったが、少年は持ち前の切り替えの速さですぐに状況を把握した。

どうやら自分は誰かに一方的にぶつかられたようだ。

自分は非の打ち所のない被害者であり、悪辣な加害者には一言何かを言うべきだった。


大きな人影は立ち止まっていた。

自分を見下ろしている人影に向き合う。

「(逆光で顔はよく見えねえけど、年は30代か、男、中肉中背、スーツ。...ん?こいつ...)」

「おいてめえ!痛ってえじゃねえか!」

「…すまないな少年。こちらも急いでいてね」

そういうと男は手を差し出してきた。

「ふん!」

男をにらみつけたまま、すっと立ち上がる。

「...」

「...」

一瞬、静寂があたりを支配しかけたが、男が切り出す。

「これは君のかな」

そう言うと男は、少年のポーチを差し出してきた。

「あっ!」

ポーチをひったくるようにして奪い返す。

男に鋭い眼光を向ける。

男は少年の鋭い眼光を意に介さず、口を開き、何か言いかけた。

突如、背後から怒声が飛んでくる。

「いたぞ!こっちだ!」

少年と男が同時に声の主を振り返る。


数十メートル後方から、男がこちらめがけて走ってくるのが見える。

「...おっさんの友達か?」

「さてどうだろうか」

「なんか物騒なもん持ってるぞ」

「ふむ」

「おれは面倒事はごめんだぜ」

「...」

男は少年に背を向け走り出す。

数歩走ったところでぴたりと足を止め、こちらを振り返る。

「すまないな」

そう言うと男は足早に走り出し、やがて少年の視界から姿を消した。

「......」



足音が止まった。

「おいガキ、さっきの男はどっちに行った?」

「......」

声の主に振り返り、素早く目の前の男を観察する。

「(黒服、グラサン、坊主、ガタイがいいな、拳銃...)」

「おいガキ!男はどこに行ったって聞いてんだよ!」

「...知らねーよ」

「なんだと!てめえさっきあの男と一緒だったろうが」

男の顔が、怒りで徐々に紅潮していく。

「ただで教えてもらおうってのはちょっと虫のいい話だよな」

「てめえ!」

そう言うと、男は少年の胸ぐらを左手一本で掴み、数十センチほど宙に持ち上げた。

「くっ...!離せ!離せこのハゲ!」

手足をばたばたさせる少年。

「暴れんじゃねえ!死にてえのか!」

そういうと、男は少年の額に銃口を押し付け、にやりと笑う。

「遊びの時間は終わりだ。早く言え。まだ死にたくねえだろ?」

「...」

「おい!本当に死にてえのか!」

男の顔に焦りの色が浮かぶ。


「...おいガキ相手に何してる」

「あっ、ボス!」

少年を掴んでいた手が緩む。

「いたっ...!」

ドシン、と尻餅をつく。

気がつくと赤毛の男が側に立っていた。

「(赤毛、フリンジ、グラサン、スーツ、20代か?)」

男の冷たく鋭い雰囲気に押され、ぶるる、と背中を震わせる。


「あの...すいませんボス、このガキが奴がどちらに行ったか教えないもんで...」

「...」

「...奴はどっちだ」

少年の目を見つめ、低く、無機質な声で尋ねる赤毛の男。

「...」

男が去った方を見やる少年。

「...行くぞ」

男は他の部下を引き連れて去っていった。

途中、坊主が振り返る。

「おいガキ、これからは相手を見て物を言うんだな」

勝ち誇った顔をし坊主は去った。



「...ふん」

立ち上がり、体についた埃をパンパンと振り払う。

「...」

自分の町で、他人が好き勝手するのはどうにも気に入らない。

一日に2度、無様な尻餅をつかされるのも気に入らない。

しかし、かといって、面倒事にまきこまれるのはまっぴらごめんだ。

きびすを返し帰り始める。

「んっ?あっ!!」

シャツの一番上のボタンが外れていた。

「ハゲに掴まれた時か...」

ぎりりと、悔しがる少年。

「はっ!これがバレたらターニャに殺される」

ぶるぶると、震えだす少年。

「でもなんとか謝り倒せば、命だけは...そうだよな、さすがに命だけは」

額の汗を拭う。

「なんとかなる、なんとかなる、落ち着け」

自分に言い聞かせ深呼吸をする。



ふう、と一息つき落ち着きを取り戻す。

それにしても、どう見たってカタギの人間じゃなかったなあいつら。

オッサンに、ハゲ、赤毛、先ほどのやり取りを思い出す。

だが、問題はハゲだ。

あの野郎、ボタンをどっかやりやがって。事の重大さをよく理解してないな、あいつは。

ふつふつと怒りが湧いてきた。

「...しかし相手を見て物を言え、か。...確かにその通りだぜハゲのおっさん」

そう言うと、ガサゴソとポケットから新たな戦利品を取り出す。

「相手を見て物を言わないと、銃口とキスさせられたり、財布が無くなったりする。......全く世知辛い世の中だぜ」

へへへ、と笑い、手早く財布の中身を改める。

「...50もないな」

少し肩を落とす少年。

怖い上司に、安月給。ブラックだな。...黒服なだけに。ふふふと忍び笑いを洩らす。

「...帰るか」



時刻は夜に差し掛かろうとしていた。

立ち止まり、空を見上げる。沈みゆく夕日を見上げ、知らず、眉間にしわが集まる。

「......」

「......」

「(......ターニャのやつ怒るかな......晩飯抜きってことはないよな。)」

額の汗を拭う。

無造作にポケットに手をつっこみ、歩を進める。

「......」

路地を歩いていている少年の後ろ姿は徐々に小さくなり、

やがて夕闇の中に消えていった。






終わり





あとがき

自分の駄文をここまで読んで頂きありがとうございます。

ここだけ読んでる人もありがとうございます。

むしゃくしゃしたので書きました。後悔はしてません。

汗水たらし、血反吐をはきつつ、まあ楽しんで書きました。

何かしらの反応をいただければ幸いです。


Yasuo

 

28,June,2014







































































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