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14/2/7

朝、目が覚めると密室でした。 ファイナル

Image by Olia Gozha

前回のあらすじ。

ある朝、目が覚めると脱出不可能の部屋に幽閉された私。

食料問題から転職まで悩んだあげくの果てに

襲いかかるのは帝国主義のてっぺんに君臨する

ジェイソンの存在だった。

彼は独裁政治の政治を行い庶民を苦しめる。

そんな中、自由を求めて民衆が立ち上がった。

絶対絶命の私が空を眺めて気づいたこととは....。

私の部屋の扉は一つしか無い。

そこを通らない限りは玄関へ、トイレへ

行くことは出来ない。

しかし、方法は別にあったのだ。

自由を求めて眺めたこの窓こそ

もう一つの脱出場所なのだ

空しいという漢字を作った人は

窓から出ることを知らなかったのかもしれない。

自由の象徴である空こそ私の自由への鍵なのだ。

また窓を開ける。

風がドアノブの無い部屋に入ってくる

まるでここが本当の出入り口なのだと私に語りかけているように

私の耳元で小さくぴゅううと唸る。

起きたときよりもだいぶ明るくなっている。

この日の出の時間帯の空が特に私は好きで

奇麗な空をみるといい一日になる予感がする

だが、下を眺めるとその予感も不安に変わる。

残念なことに私の部屋は三階なので

5メートルほどの高所なのだ。

残念ながらこの高さから飛び降りて受け身をとる

練習を私はしていない。

それに着地の瞬間にジェイソンがついに姿を見せるかもしれない

そうなってしまえば私はもう帝国主義の犬である

どうしようか...

と考え考え

はっと思い出す。

入居日にデカくて邪魔で私をイライラさせた

避難はしごが部屋にあるのだ

ドアノブ開かないのは立派な避難だろう。

ドアノブ地震雷火事親父

クローゼットをあけ、O型の血液型通りの

素直に散らかった荷物を蹴散らし

デカい避難はしごを取り出した

あんなに邪魔でイライラした避難はしごが

キラキラと黄金色に光って見えるのはなぜだろう。

宝箱にみえてしょうがない

早速蓋を開ける

中にはアルミ製の避難はしごと

簡易の説明書があった。

この避難はしご、エスカーラという名前だった

私の心境としてはエスカーラさん、いやエスカーラ様である。

この帝国主義の世界から私を連れ出してくれるのは

エスカーラ様なのだから。

時間がない。いつの時代も

革命が起きるときに鍵を握るのは時間だ

遅ければ私は犬になり、間に合えば自由が手に入るのだ。

エスカーラを窓の手摺にかけ、ロックピンをはずすと

エスカーラはけたたましい金属音を立てながら地上へおりていった

近所迷惑にもほどがある

朝6時過ぎにこの金属音である

ドアノブが外れて避難はしごをおろし

脱出を試みるマンションの住民などこの世にいるのだろうか

私だ!!!!

手摺から身を乗り出し、外へ

冷たい風が容赦なく私の手の感覚を奪いさっていく

自由をつかむというのはこんなにも大変なことなのか

と、また少し大人になれたきがした

それにしても起きてすぐに外を観たときは

背中に翼が生えて飛び出したいなんて

言っていたけれどあながち本当になってしまったのだから

人生とは本当にどうなるのか分からないものである。

すべてがおわったら

レッドブル片手にケバブ食べてやる

ぎしりぎしりとアルミ製のエスカーラは私が降りていく度に

軋んだ音を出す。大丈夫なのかこいつ

身体の揺れにあわせてエスカーラも揺れる。

窓の並びも同じなので階下の住居の窓に

エスカーラが遠慮なくぶつかる

避難はしごじゃあない。非難はしごである。

ああこんな姿観られたら恥ずかしくて生きていけない

そうなったときはエスカーラと一緒に

遠い遠い外国の僻地に姿をくらまそう

そうだアフリカにいこう

きっとドアが無いからドアノブもない

そのときだった

決して起きてはいけない事態が発生した

マンションの隣の住居に住んでいるおばさんが

朝のゴミ出しのために表に出てきたのである!!

歩くたびに両手に掴んでいるビニル袋が

ガサリ

ガサリ

と何とも不吉な音をたてている

脱獄中に看守が通り過ぎ行く感覚だろう。

マイケーーーール!!と無性に叫びたくなった

頼む!!気づかないでくれえええええ

心臓の音まで消したつもりだったが

エスカーラがしくじったのである。

私が動きを止めても波打つので

惰力でカチャンカチャンと鳴ったのだ

エスカーラ!!くそやろうううううう

おばさんがぴたりと歩みを止め、

気づいた!!!

人間は感情でどうしてあれだけ顔を変えることが

出来るのだろうか

これでもかと言うくらい目を見開き

口をあんぐりとあけて無言でこちらを見ている

鳩が豆鉄砲をくらったような顔という表現があるが

そんな生易しいものではない。RPG7だ

おばさんの両の手に掴まれたビニル袋が重力のままに

ドサリ、ガサリと地面に落ちる

漏らしたかもしれない

いや、大丈夫だ。ジェイソンはまだ出ていない

齢21歳、松本正治。大人になるって

こんなに大変なことなんだと学んだ。

思い知った。

上京するのは大変だと周りに言われ

それでも何か、そう、希望を求めてきたけれど

こんなに大変だとは思わなかった。

どうするこの局面!!

生き残れ!!

冷静になろう。この場合、先に冷静になった方の勝ちだ

先手をとれ!正治!

頭の中で軍師諸葛亮孔明が囁いた気がした。

まずはいかにも普通の人を演じるべきだ

自由を求める帝国主義の民衆ではなく

泥棒に入ろうとしている人でもない。

笹塚のごく普通の市民だ。

全神経をフル活動させて

声帯を震わせ、第一声を放った

おはようございまぁす~

駄目だ。びくともしない。おばさんは不動のまま

RPG7を私に向けている。

何故だ!?平凡かつ善良な都民なら

朝の挨拶をするはずなのだが

何故だ!?

そうか、表情か?顔が笑っていないからか?

違う!決定的に違う!

不信感だ!月曜の朝方にマンションの三階から

梯子でぶら下がっている人は

どうやら普通ではないのかもしれない

泥棒の類いと思われたら一番マズい

ここでおまわりさんのお世話になんかなりたくない

熊本の母にそんな知らせが届けば

母は悲しみに暮れるだろう親不孝だ

そこをまずは叩くしか無い

次の一手を発した。

泥棒じゃないですよお~

これで安心だろう。

本物の泥棒もきっと泥棒じゃないと主張するだろうが

私は本当に泥棒じゃない。ハートだ。小細工はいらない

本当の大局は戦とおなじである

武力ではない。心理戦だ。

おばさんに動きが見られた。

はぁ..。

と一言声を漏らした後、

RPG7の銃口を避けたのである。

普通のおばさんに戻った

ゴミ袋を握り直し、捨てにはいかずに

また家に帰っていった

ふううう。

安堵する。

また誰かが来ても堪らないので

さっさとエスカーラを降りきった。

自由である。自由を勝ち取ったのだ、この手で。

振り返ると共に戦ったエスカーラが風で少しだけ

カランカランと音を立てた。

少し寂しそうに見えた。

終わり。

最後に。

おばさんの顔の写メ撮りたかったあああ!

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