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13/12/20

転職大魔王伝「オレ、出版業界へ。」2

Image by Olia Gozha

オレ、戸惑う。

うる憶えなのですが、収益モデルは以下のような感じでした。

●名鑑の「枠」を一般の画家さんへ販売する。

1/9ページ:定価 50,000円(写真1枚掲載可)

1/4ページ:定価 100,000円

1/2ページ:定価 200,000円

1ページ:定価 300,000円

※基本的にキャンペーン価格で割り引く

これを、○科展などに出展されている画家さんへテレアポで営業していきます。

既存顧客にも継続の営業をかけていくのですが、そのマニュアルがオレには到底受け入れがたいものでした。

----------

・出展目録で大体の絵の感じを把握し「別のスタッフが実際に作品を見て推薦している」という前提で褒める。

 (見たというとツッコまれてボロが出るから)

・褒めるポイントは、色、構図、世界感。

 「両脇に展示してある作品と比較して○○○でした」

 「作品を見たスタッフが是非掲載したいと言っている」

 「実はそのスタッフとは弊社の役員である」(名前は伏せる。架空の人物。)

・もっと向上心を持つべきだ。あなたの作品はもっと評価されるはずだ。

 売れるはずだ。

 だから、プロモーションにも力を入れていく必要がある。

・こちらからお願いしたので、特別に「キャンペーン価格」でやらせてください。

----------

上司「最初は渋るけど、なんだかんだで掲載されたらされたで喜ぶんだよ。自慢にもなるしね。」

オレ「ちなみに発行部数とかはどうなんですか?」

上司「ほとんど流通してないよ。ウチはそこで利益を見てるわけじゃないからね。」

オレ「はぁ……」


「なんだかんだで掲載されたら喜ぶんだよ」

この一言を信じて、オレはやってみることにしました。


オレ、やっぱり納得できず。


テレアポの反応は惨憺たるものでした。

当然繋がらないところがほとんどですが、


オレ「もしもし、○○出版と申しますが、」

画家さん「ガシャン!ツーツー…」


Oh……

名乗っただけで叩き切られるって……


オレ「もしもし、○○出版と申しますが、」

画家さん「他のスタッフさんが推薦してるってやつでしょ?そんなに評価してくれてるのになんでお金を取られるの?見え透いたウソをつくもんじゃありませんよ。ガシャン!ツーツー…」


手口バレてんじゃん...

折れそう…心が折れそう…

罪悪感しか感じないんですけど...


当然、全く結果が出ませんでした。

上司「タイチくんさ、もっとイメージさせないと。もっと夢を見させてあげないと。言葉を使った表現をしてるでしょ?音楽でさ。もっと活かしなよ。」



「言葉を使った表現をしてるでしょ?音楽でさ。」


この一言は、今でも忘れらんない。

オレは人を騙すために言葉を綴っているんじゃない。

オレ、キレる。

それでも、オレは一つの契約を取り付けました。

千葉の奥のほうにご住まいの女流画家さんでした。

その方の作品は、赤と白を基調とした比較的明るめの具象画で、ピエロとかお面とかお花がモチーフになったメルヘンな感じでした。

こういった営業電話をあまり受けた経験がなかったらしく、作品を褒められたことに非常に気を良くされ、一番下の1/9ページで掲載をしてみたいというところまで話しが進みました。

連絡を取り合う中で身の上話しをされるようになり、ご主人が亡くなられて一人暮らしをされていること、年金生活になったのを期に昔から憧れていた油絵をはじめたこと、何度かチャレンジしてやっと出展できたことを聞かされました。

正直、あまり良い作品ではありませんでした。やはり基礎(デッサン力)が弱い作品というのは見応えが無く、褒めるよりも基礎を学び直すアドバイスをしたいほどでした。


でも、オレは褒めなければいけませんでした。

すごくいい方だったのに、オレは嘘を付かなければいけなかった。


「なんだかんだで掲載されたら喜ぶんだよ」


この一言を信じ、業務を進めました。


契約の前日、上司に呼ばれました。


オレ「はい。何でしょうか。」

上司「タイチくんが担当してる○○さんさ、1/2ページに引き上げてくれない?」

オレ「え?」

上司「ちょっと今回売り上げがイマイチだからさ。うまいことプランアップに持っていって下さい。」


自分の血管がキレる音が鮮明に聞こえました。

あんなに純粋に絵画を楽しんでいるおばあさん。

顔も見た事ないオレに身の上話をしてくれた、間違い無く一人で淋しい日々を送っているおばあさん。

嘘なのに褒められたことを喜んで、少ない年金から45,000円を捻出しようとしているおばあさん。


そのおばあさんに、もっと嘘をついて200,000円を引き出せという目の前の上司。

ハッキリは憶えてないんですが、

・自分はこの仕事を詐欺だとしか思っていないこと。

・こんな雑誌に載ってもメリットなどほとんど無いこと。

・同じミュージシャンとして、人の作品に嘘の評価をつけてお金を取れる神経が理解できないこと。

・自分にはもうこの仕事はできないこと。

こんな感じのことを吐き出し、荷物を持って事務所を出ました。


オレ、泣く。

その足でオレは、千葉の奥のほうに住む画家さんのご自宅に向かいました。

電車の中で、その方へのお詫びの手紙をしたためました。

「実際はこういうことなので掲載はキャンセルしてほしい。

 本当に申し訳ございませんでした。」

罪悪感で涙が出ました。


画家さんの家はすぐわかりました。

離れにある小さな一軒家でした。その玄関先に画家さんはいらっしゃいました。


オレ「○○先生、初めまして。○○出版のタイチです。」

画家さん「まぁビックリしたわ!どうなさったの!でもお会いしたかったから嬉しいわ!どうぞお入りになってください!」


画家さんは家に招き入れてくれました。

そしてすぐに、アトリエに連れていってくれました。

そこには、掲載予定だったあの赤い絵がありました。


やはり…下手でした。

画家さんは嬉しそうに色んな話しをしてくれました。

オレはなかなか切り出せませんでした。

そして、掲載されるのを楽しみにしてること、当初予定の金額を早目に振り込んでしまったことを話された時に、やっと話しを切り出しました。

オレ「先生すみません。実は私、個人的な事情で会社を辞めることになりまして。今日はそのご挨拶に伺いました。」

画家さん「あらそうだったの!とても残念だわ!」

オレ「掲載されたら私も必ず確認しますんで。でもですね先生、先生の作品のセンスを活かすには、もっと基礎を勉強されたほうがいいと思います。先生の弱点はそこだと思います。プロモーションにお金を掛けられるのは今回までにされて、基礎を教えてくれる教室に通われたほうが絶対に良くなると思います。」


画家さんは納得し、今回以降の掲載やプランアップは控えて実力をつけると約束してくださいました。

駅まで見送っていただき、画家さんと別れてから手紙を破いて捨てました。

なんかわかんないけど、泣けてきちゃったのを憶えてます。

結局、オレはその本を見ることはできませんでした。

散々探したんだけど、無かったんです。

どこの本屋にも。



まとめ


●業務内容

出稿枠の販売(テレアポ)

●就労期間

約1ヶ月

●給与

月収 ?+歩合

研修期間(3ヶ月)約130,000円


※尚、バッくれたんで支給無し。

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