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20歳目前の愛猫の死、理想的に見送れた話 ~看取りのプロが自分のペットとどう向き合ったのか~中編

Image by Olia Gozha

2018年8月8日:日記より     

19歳11カ月のミーシャちゃん。1週ごとに、出来ないことが増える。

 

先週からは、大下痢。間に合わなくて、クッションや絨毯に漏らす。

 

1日5回出ることもあり、毎回ミーシャ自身も便まみれ。

 

食欲だけはあるのだけど、とうとう体重も1.7㎏にまで減った。

 

夜中に臭いで起きて始末をしたりと、時間を問わず介護する毎日。

 

それでも可愛くて仕方がない。

 

よくぞここまで生きてくれたと感謝が沸く。

 

検査も点滴もしないで、病院も行かないで、好きなもの食べさせて、自然に命を終える為のお手伝いをと思ってるけど、さすがに下痢は辛いだろうと動物病院の先生に電話して相談してみた。

 

特別に診察なしで処方してくださることになったのだけど、今の現状と私の思いを話していたら泣けてきて、

 

「ああ、私、悲しいんだ。淋しいんだ。ミーシャの死が辛いんだ。」

 

って自覚した。

 

思いを言葉に出来て、それを優しく先生が受け止めてくれてスッキリした。

 

心がほぐれた。

 

自分の気持ちを素直に表現することの大切さ、優しく受け止めてくれる人の大切さに改めて気づけた時間だった。

 

病院に薬を貰いに行って帰宅したら、クッションが下痢の池になりミーシャのお尻もぐちゃぐちゃに汚れ、その状態で歩くので部屋がえらいことになってたけど、それさえもかけがえのない時間と思える。

 

生きていてくれて、ありがとう。

 

支えになってくれた獣医さん     

 下痢が始まって、ミーシャが苦痛になることはやらないと決めていたのに、毎回のシャワーとドライヤーという苦痛を与えることになった(ミーシャはシャワーとドライヤーの音や風が大の苦手)。

 

しかし、病院に行くことは体力がないミーシャにとって苦痛だけでなく、著しく体力を消耗してしまう。

 

症状緩和という目的で薬を貰いたいけれど、病院に連れて行くこともミーシャへの負担だと思い、いつも爪切りでお世話になっている動物病院に電話で相談してみた。

 

:「1日1回~数回の下痢があって、体重も2㎏を切っています。便の度に身体が汚れて大変なので、便を硬くしたいのですが、力もないので便秘になるも怖いんですよね」

 

獣医さん:「そうですね。下痢止めを使うのは出なくなる可能性がありますね。整腸剤くらいなら大丈夫かもしれません。」

 

:「整腸剤は試してみたいと思うのですが、病院に連れて行くにはミーシャの体力や苦痛を考えると避けたいと思うのです」

 

獣医さん:「診察して、血液検査などすれば原因がわかるかもしれません」

 

:「もうすぐ20歳になるんです。ここで病気がわかっても、治療などはしないで自然な形で看取りたいと思っているんです」

 

獣医さん:「そうですね、ここまで生きたら治療を考えなくてもいいかもしれませんね。すごく長生きして頑張っていますね」

 

:「ありがとうございます・・・・涙」

 

獣医さん:「本来は連れてきて貰う必要があるのですが、春に診察してますし、整腸剤だけお出ししましょう。体重を測ってきてください」

 

 私は、昔からミーシャを自然な形で看取りたいという方針を持っていたのだけど、いざとなると「本当にこの決断で良いのだろうか?」と不安になっていたことに気付いた。

 

そして、私の思いを優しく聞き、「その思いで大丈夫ですよ」と賛同して貰ったことで、ものすごく気が楽になった。

 

ミーシャの人生を、私一人が決断することの責任に押しつぶされそうになっていたのだ。

 

介護や看護は自分1人で出来るし、看取る覚悟は出来ているけれど、「わかってくれる人がいること」「それで大丈夫だよという言葉」この大きさと大切さを痛感した。

 

 私はずっと訪問看護で癌患者さんの看取りをしてきたのだけど、24時間そばにいるご家族に寄り添って、「ご家族の気持ちの理解者であること」を言葉にして「その思いで大丈夫ですよ」「あなたのやっていることは大丈夫ですよ」と繰り返し伝えて来た。

 

それがこんなに大きな役割を担ってたなんてと、改めて驚いた。

 

 動物の往診はあるけれど、訪問看護もあったらいいのになー、やっぱり1人で支えるのは難しくって、ミーシャを支える私の支えになる人が必要なんだと痛感した。

食欲旺盛のミーシャ     

 処方してもらった整腸剤を飲ませ始めた。

 

ミーシャの身体が汚れない硬さのお通じで尚且つ、出しやすい硬さに調整する為に、ミーシャの食べた物、量、排泄物の形、量、時間、回数、整腸剤の内服量を記載し始めた。

 

整腸剤は下痢止めではないので、効果が出るのに時間差があるから調整は難しかった。

 

 私が悪戦苦闘している中、当のミーシャは食欲旺盛だった。

 

元々食いしん坊ではない猫で、ご飯を沢山置いていてもちょっとずつしか食べないし、餌が欲しいと騒ぐこともなかったのだけど。

 

この時期のミーシャが20年弱の人生(猫生)の中で、最も食い意地が張っていた。

 

目をギラギラさせて、「食べたい!!」とアピールしていて、ミーシャの「生きたい!!」という強い生命力を感じて感動した。

 

 聴覚や嗅覚、視覚や触覚の感覚が落ち、動くのもままならないミーシャが今一番興味のある「食欲」を満たしてあげたいと思い、お刺身やアイスクリームなど、とにかく食べたいものを食べさせることにした。

 

2018年8月15日:日記より     

 下痢は、整腸剤によって落ち着いたけど、軟便レベルの硬さでも、ミーシャは力が無いから踏ん張ることが出来なくて倒れこむ。

 

下痢だと体力消耗激しく、家中の掃除になるし。

 

硬くなると、いきめなくて出せないし、良い加減が難しい。

 

今日は、出産のように横たわって排便。

 

そして昨日あたりから、餌場で過ごすようになり。

 

今日に至っては、寝ながらご飯を食べる。

 

もうすぐ寝たきりになるのかな・・・・。

 

半生のドライフードでも噛むのが大変になってきたので。

 

生の鱈を茹でたスープで半生ドライフードをふやかして食べさせる。

 

毎日が工夫。毎日出来ないことが増えるミーシャに、手伝えることを考える。

 

食欲があるのは、ありがたい。

 

大好きだよ。ずっと一緒にいてくれてありがとう。

 

世界で一番一緒にいる時間が長い。

 

だけど、毎日好きが更新されていく

 

昨日より、今日のミーシャが好き

 

こんな感覚初めて。

 

ミーシャには、感謝しかない。

2018年8月17日:日記より     

ここの所、急速に出来ないことが増えてきた。

 

爪とぎ、身体を舐めること、ドライフードを食べる(硬くて無理)こと、トイレでの排泄が出来なくなった。

 

立っている時はユラユラと揺れる。

 

歩く時はヨレヨレで、良く転ぶ。

 

横になるのにも、時間がかかる。

 

食べるときも、寝た状態で。

 

大は、いきめず出産のような体制で。そして下痢が頻回で、家中汚れ、ミーシャもまみれる。

 

目ヤニつけっぱなし。

 

食べると口のまわりが汚れ、排泄後はお尻も足も汚れ、要介護状態。

 

その割には食欲だけはあるので嬉しいが、好きなものだと、早く食べたすぎて私の手を噛む。若いころより激しい・笑。

 

そんな状態なので、毎日生きていること、呼吸していることがありがたくて、1日に何度も呼吸していることを確認しては喜んでいる。

 

今も、ゆっくり呼吸している。身体の動きを見て安心する夜。

 

好きなだけ生きてね。

 

2018年8月18日:日記より     

毎日ベランダに干されるミーシャ専用クッション。

このクッションがお気に入りで、汚れても汚れてもこのクッションしか使わない。

 

他のクッションを準備しても使わない。

 

そんなにお気に入りなのに、なぜかこのクッションの上で大をする。(なぜだ!!!)

 

普通の大なら良いのだけど、下痢だから大変。

 

なぜだ?いくら考えてもわからないけど、汚れる度に洗って干す。

 

最近、クッションの定位置はベランダか?というくらい(笑)

 

色んなことが出来なくなって、力も、聴覚も、視力も、触覚も、嗅覚も弱くなっている。

 

すると、色んな新しいミーシャに出会える。面白い行動ばかり。

 

子供のおねしょの処理をするお母さんの気分。

 

夏で毎日天気が良くて良かった。


2019年8月19日:日記より     

下痢の調整は難しい‼

 

整腸剤を指示通り1日2回内服させると、普通の硬さになるけれど。

 

ミーシャには硬すぎて、産みの苦しみを味わう。

 

いつものスタイルでは力尽き、横になってお産スタイルで出す。

 

整腸剤を止めると、再び下痢をする。

 

2日に1回内服でも効かず、今は1日1回を試し中。

 

毎日排便日記をつけて分析。下痢で体力消耗、栄養が奪われる。

 

身体が汚れて、シャワーすることでストレスと体力消耗するけれど、するっと力まずに楽に出せる。

 

だけど私は、ミーシャとクッションと部屋の掃除が大変。

 

便が硬くなると、産みの苦しみを味わい、体力消耗。

 

出なくなって摘便や浣腸になってもミーシャが辛い。

 

だけど、栄養が奪われることはないし、ミーシャの身体も部屋も汚れない。

 

どんな硬さにすることがミーシャの心身にとって良いのか、試行錯誤中。

 

そうこうしているうちに、10日でまた体重が100g減って1. 6㎏(元気な頃の3分の1近い)になってしまった。

 

早く良い加減を見つけたい。

 

ミーシャ専任看護師、頑張ってます。

 

ほんと、人間の看護と同じ。毎日食事、飲水、排泄などチェックしながらのお世話。

 

身体拭いたり、お尻洗ったり、顔や口まわり拭いたり、食事作ったり、ブラッシングしたり、マッサージしたり、ほんと人間と同じだわ。

 

そして今日も可愛い。


2019年8月20日:日記より     

今日は、良く眠るミーシャちゃん。

 

最近、良く眠る日とあまり寝ない日がある。

 

今日は、良く眠る日のようだ。

 

リラックスしてるわ~、と写真を撮ろうとしたら起きてカメラ目線❤

 

カメラ好きなのよね❤


 2019年8月28日:日記より     

最期の最期まで、ミーシャを愛し続ける❤

 

沢山出来ないことが増えてきて介護が必要だけど、生きようというエネルギーに満ち溢れてるミーシャちゃん。

 

20年近く共に過ごしてきた中で初めて見せる姿。

 

生きる為に「食べたい‼」というギラギラ感は凄い‼

 

だから、私もそれに応えたい。

 

ミーシャの「生きたい」が続く限り、最期まで愛し続けると決めたから。

 

生きて欲しいとか、こうなって欲しいとかではなく。

 

ミーシャのしたいを支える。

 

ミーシャが「生ききった‼」というなら、それをも愛する。

 

生命エネルギーを得るには、生命エネルギー高いものを食べるに限る。

 

タラを煮て、そのエキスをスープで。

 

ミーシャのお気に入り❤


 

2018年9月:寝たきりになる     

 寝たきりになる前夜。

 

私はミーシャを撫でながら

 

「あー、ずっとミーシャに寄りかかっていたのは私だったなー。でも、もう私1人で立てるようになったな」

とふと気づいて、感謝を伝えた。

 

:「ミーシャ、今まで本当にありがとうねー。ずっと20年近く一緒にいてくれて本当にありがとうねー。ミーシャのおかげで沢山救われたよ。一緒に生きてきて本当に楽しかったし、良かったよ。もう感謝しかないよ。ありがとうねー。」

 

ミーシャ:「ゴロゴロ・・・・」

 

:「色々心配かけたね。もう私は大丈夫だよー。1人で生きていけるよー。ありがとう」

 

 本当に心の底からの感謝を口に出していた。

 

口に出した後、「あ!!やばいかも!!ミーシャが安心して旅立ってしまうかもしれない!!」と思ったけど、もう言ってしまったので遅かった。

 

それに、本当は身体がしんどくて早く旅立ちたいと思ってるのに私のせいで出来ないのならば、悲しいけれどお別れをしようと腹を括った。

 

 そして翌日の朝方、クッションから下りてパタパタとフローリングを歩く音が聞こえたけれど、音が止まった。

 

寝ぼけていた私は、そのまま寝てしまった。

 

 そして朝起きたら、昨日床で止まったのと同じ場所にミーシャがいた。

 

???何が起きた?

 

 ご飯を食べた様子はないし、トイレもしていない。

 

あり得ないことだった。

 

おそるおそるミーシャを抱きかかえると、足に全く力が入らず歩けなくなっていた。

 

朝までの数時間、ミーシャは突然動けなくなって怖い思いをしたに違いない。

 

そのまま私の胸の上に乗せて抱きしめた。

 

抱っこが何よりも嫌いなミーシャが、大人しく抱きしめられている。

 

何なら、顔を自ら私の胸にうずめてきた。(可愛すぎて、嬉しすぎて悶絶する私♡)

 

それほど怖かったということだろう。

 

30分ほど抱きしめていたら、ミーシャは落ち着いたのか、飽きて来たのか嫌がり出した。

 

 寝たきりになったミーシャ。

 

ここから完全介護が始まった。

 

私の感謝を全力で伝える時間が始まったのだった。

 

昨日の言葉が現実味を帯びてしまった・・・けれど、とにかく今は生きているのだから、その時間を大事にしようと思った。

 

 後編へ続く

 

 後編はこちら↓

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