このモノガタリは
実在する2人の少女の「近い記憶」と
わたし、中村麻美の「遠い記憶」のお話
現実と空想の交わる場所でのお話
あの世とこの世の交わる場所でのお話
あなたの中の幼い少女が
きっときっと
にこっと微笑んで、
軽やかに輝き歩み始めるように
※実話を元に書いていますが、
フィクションも含まれます
*******************
あれは冬のはじまりで 中でもひどく寒い夜だった
吐く息が真っ白だったのを覚えているから
下校時間、
駆け足で家に帰らなきゃ
そう思いながらも足取りは重い
急いで家に帰るのには理由があったの
アリーが待ってる
けど、そのアリーの死期が近づいているのを
知っているわたしは
帰ることの不安も同時に持ってた
ママは仕事で外国へ行っていて
10日間、
わたしとアリーはお留守番
夜には、ママのお姉ちゃんが毎日来てくれた
ママに、外国に誘われたけど
アリーを置いてはいけなかった
家に帰ると
寝息を立ててアリーは寝てた
起きないように
そっと毛布をかける
アリーは 息をしてる
わたしは少し安心して、TVをつけた
ソレはお気に入りの番組で
どれくらいの時間が経っただろう
気づいたら、夢中になってた
この時、
かすかにアリーの寝ている部屋から
バタバタと小さな音がしていたけど
TVの音のせいにして
わたしは、、
わたしは、、
お気に入りのTVの音量をあげた
するとママから電話の着信音
ハッとして出た
ママ「まゆちゃん、今日は学校どうだった?」
まゆ「楽しかったよ」
ママ「アリーはどう?」
まゆ「・・・寝てる」
ママ「そっか」
まゆ「うん。今、TV見てるから」
ママ「うん。・・・まゆちゃん、もしかしたらさ、アリーは天国に帰るかもしれない」
まゆ「なんで・・・」
わたしはママのその言葉に
心臓がバクバクした
ママ「もしもの時は、ママに電話してもらえるかな。こんな時にママ、外国にいてごめんね。」
まゆ「いんだよ。わたしは自分で行かないって決めたんだから」
ママ「うん。じゃあ、いつでも電話してね」
電話を切ったあと
アリーのいる部屋から聞こえていた
先ほどのバタつく音は静まっていた
と同時にわたしの心臓はもっと
バクバクと音を立てた
ママのお姉ちゃんが
帰ってくるのはわたしが寝る頃
***************
娘と愛犬のアリーを日本に置いて
母のわたしは外国に来ている
ここは、
真冬が訪れようとしている日本とは違い
真夏のような日差しがふりそそいでいる
毎日朝から晩まで予定がぎっしりの中
気がかりでならなかったのは
アリーの死期が近いと自覚している
娘のことだった
アリーと娘は
彼女が生まれた時から
まるで兄妹のようにして
初めから仲がよかった
悲しい時も嬉しい時も
ケンカの時も仲良しの時も
いつでもどんな時でも
アリーと娘は寄り添いあい一緒だった
アリーのソレを互いに自覚する以前から
此処へ来ることは決まっていたとはいえ
わたしも娘も出発の2日前まで迷いに迷った
そして、
わたしは外国へ行くことを決め
娘は、残ることを決めた
打ち合わせの合間に時間ができたので
ホテルに戻り、
溜まった洗濯物を持ってコインランドリーに
やって来た
洗濯物が目の前で回るのをボーッと眺めながら
束の間の安息を感じ 顔をあげると
ふと、暖かい風がわたしの心を通り過ぎたのを感じた
「アリー・・・・・」
その温度は、常夏の風ではなかった
直感的にアリーのモノだとわかり
気づいたら、目からは涙が溢れていた
わたしはすぐさま日本にいる娘に電話をした
きっと今頃はお気に入りの番組を
見ている頃
娘はいつもと変わらぬ様子を装っているのがわかった
アリーは寝ていると言うけれど
わたしは虫の知らせには
とても敏感だった
けれど、娘に「今」アリーを見に行ってみて
という一言が言えなかった
娘もわたしも気づいていたのだ
けれど、どちらもそれ以上のことに
触れることができなかった
胸騒ぎがしたので、
わたしは姉に電話をした
早退をして娘の元へ駆けつけてくれると
姉は約束してくれた
言葉にならなくて余計に涙が溢れた
その直後だった
娘から電話が鳴ったのは・・・・
「アリーが死んでた」
娘は淡々とそう言った
悲しみをグッと堪えている訳ではないのがわかった
死んだのではなくて
死んでいた、というソノ言葉に
わたしはすぐさま
娘を心でぎゅっと抱きしめた
****************
わたしは気づいていたのに
気づいていないフリをしていたから、、
だからアリーは・・・
ママが電話越しにわたしに
何かを言っていたけど、
よく聞こえなかった
聞こえてくるのは
わたしの中の別の声だった
「わたしのせいだ・・・」
真冬のはじまり
ひどく寒かった その日
わたしはアリーを抱っこして
これ以上、冷えないように
温めようとしていた
わたしのモノなのか
アリーのモノなのか
わからないくらい
わたしとアリーは「ひとつ」になってた
パタンっ。
家のドアが開く音
ママのお姉ちゃんだ
お姉ちゃんは、何も言わずに
そっと歩み寄り
わたしがアリーを抱きしめるソレと同じ温度で
わたしを 抱きしめてくれた
*****************
鈴の音が鳴りやむ頃に〜No.2〜
へ続く