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元ひきこもりの猫人間が芸人目指して慶應大学に入った話 受験本番編(ラスト)

Image by Olia Gozha

3度目の正直は嘘つき



3度目のセンターを迎えた朝、僕は寝不足であった。1度目のセンター試験も遅くまで参考書を広げ、今更な悪あがきをかきつづけ、ボロボロのコンディションだった。2度目もそうだ。ほとんど勉強なんてせずにニートを続けていましたなんて親には言えず、無意味なセンター試験を受けに向かった。そして3度目も同様に、ほとんど頭には入っていない知識を片手に、府中の東京農工大学で受けに行った。案の定とも言えるが、結果はボロボロ。合格可能性のある国立大学はほとんどなく、必然的に私立大学を受けるほかなくなってしまった。しかし、僕は逆に肩の荷が降りたような思いで、私立の科目を絞った勉強に集中できるなんて思ったりもして、そこまで落胆してもいなかった。ただやっぱりもうどこも受からなかったらどうしようか、もう20歳でこんな生活を続けられない、もしどこにも受からなければフリーターか、いやいっそのこともう自分のやりたいことをやれるからいいか、なんていろいろ考えては受験勉強にも集中できず、ふわふわもやもやした気持ちでセンター試験終了後の日々を過ごしていた。



たった二言で社会に自分の存在を認められた気がした


もやもやした思いと、不安と恐怖と焦りが入り混じりながら、がむしゃらに必死に猛然と日々を送った半月。新大久保にほど近い寮の外では憲法記念日が近いこともあり、在日外国人に対するデモが一日中繰り広げられていて、とても勉強するような環境にはなかった。歩いて10数分の新宿中央図書館で意味があるのかないのか、これが効率的なのか非効率なのか全くわからず、ただがむしゃらに机に向かっていた。図書館には多くのホームレスの方々がいらっしゃって、彼らが新聞を広げる隅で僕は赤本を広げていた。今の僕はただ若くて、親に支えてもらっているというだけで、ご飯も食べれるし、雨風をしのげる部屋もあるけれど、本質的にはなんら彼らとは変わらない。一歩間違えば僕はいつでもホームレスだし、そもそもホームレスという生き方も否定されるようなものではないだろう。僕は今でも、そしてずっとホームレスと一緒だ。だから、怖いものなんてない。ただ今はまだチャンスがあるなら、それに向かって猛然と進むだけだ。この日々があるからこそ、僕は社会から常にはみ出して生きている気がするし、僕は誰にも負けない強みができたような気がする。


2月に入ってからは不安になって数多くの願書を出したせいで(おかげで?)、毎日どこかに試験を受けに行くような生活が続いた。ある意味今までスカスカだった日々のスケジュールにイベントが入るという、充実した毎日を送ることができた。しかし、焼けつき刄でどうにかなるほど受験は甘くはない。滑り止めなんて僕にはなかったので、ひっきりなしに滑りまくった。不合格という3文字に慣れすぎて、合格という2文字には形容詞として不が必須でつくのではないかと思ったりもした。そんな中、センター利用入試で出願したとある私立大学からある日合格通知が届いた。夢にまで見た合格通知。目指していた大学ではなかったけれど、僕には死ぬほど嬉しかったし、喉から手が出るほど欲しかった2文字だ。受験生というほど受験勉強に真面目に取り組んではなかったが、その分普通の人の青春の3年間なんてものはなかったし、日々もがき苦しみ、悩んできた。社会から邪険にどころか、存在すら認識されていなかった僕の人生を初めて、誰かに認められた気がして、本当に嬉しかった。合格通知とともに描かれたムーミンに僕は救われたのだ。



揺らさなければ棚からぼた餅は落ちてこない



SFC受験日当日、早朝に目覚めた僕はなかなか布団から起き上がることができず、1時間ほど布団にくるまっていた。この半月受け続けた大学にことごとく落ち、もはや自分が大学受験に成功することなど想像もできなかった。今まで落ちた大学よりもレベルの高い大学になんて受かるわけがない。この1日をまた鬱々した気持ちになるために浪費するなら、いっそのことこのまま布団でくるまっていたほうがいいのではないか、そう思っていた。




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