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先生から、好きなことを探すようお題を出された私だったが、見つけるまでには少し時間が掛かった。
「旅行」について考えてみた。
私が若い頃から好きだったことの1つで、海外へ一人旅に出たこともあったからだ。
しかしこの頃の私は、自分のために全くお金を使えなくなっていた。日常生活に必要なものや、息子のためにお金を使うことは躊躇わずにできた。
しかしどうしても自分のために必要なものは、買う時に罪悪感を感じ、後回しにしてしまっていた。
「旅行が好きだったんです、でも・・・」
ある時の心療内科のセラピーで、このことについて話をしようと口を開いたときだった。
「父が、専業主婦だった母を・・・」
何故か喉が詰まって、その先の言葉が出ない。
先生がじっと耳を澄まして私の言葉を待つ。
部屋に暫くの沈黙が流れた。
「父が専業主婦だった母を・・・」
「・・・寄生虫と言いました」
震える声でそう言った。
必要最低限のものを買えないほど貧しかった訳でもない。主人はむしろ、いつも私にもっとお金を使うようにと言っていた。
しかし、昔父が母に放ったこのたった一言が、幼かった私の心を傷つけ、さらには時を超えて大人になった私の人生を苦しめていたのだ。
私は専業主婦だ。お金を稼いでいないのだ。お金を稼いでいないのに、配偶者の稼いだお金を使うことは、寄生虫なのだ。
私は寄生虫なんだろうか・・・?
この日のセラピーの成果は大きかった。
両親に植え付けられた価値観によって、知らず知らず私の日常生活に影響を与えていたものが、突然表面化し、そして消えた瞬間だった。
「言葉は内面化する」ということを身をもって体験したのだ。
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