私の家は私が小学1年生の時、両親が離婚して母子家庭となった。母は看護師をしていた為、いつも帰りが遅いので、学校帰りは祖母の家に行き、夕飯を食べてから自宅に帰った。
当時の私は、学校帰りに祖母の家に行くのが嫌だった。
なぜかと言うと、友達は学校から帰るとみんなで公園や学校、友達の家に遊びに行ったりするのだが、私は祖母に約束するなと言われていた。
(まっすぐ自宅に帰れれば遊びに行けるのに・・・)
「今日は学校で遊ぼう」
そんな約束をしている友達を羨ましく思っていた。
なぜ、祖母が厳しかったかと言うと、祖母は全盲だったのだ。私がどこかに行ってしまったら1人では探せないので、声が聞こえる所にいなければ不安だったのだ。
しかし当時、私は祖母が、目が見えないという事を私は知らなかった。目が見えない事を悟られないように、家具の配置や自分の部屋からリビングへの歩数、階段の段数、階段の位置、すべて頭に入れてぶつからない様に転ばないようにしていたし、学校の宿題を教えてくれたり、毎日家族のご飯を作っていたので、目が見えないとは、思っていなかった。
しかし小学校高学年になると、日々の行動から祖母は目が見えない事に気づいた。でも、私はずっと気づかないふりをしていた。
祖父も母も皆そうしていたからだ。
しかし、忘れもしない私が小学6年生の頃、ちょっとした事で
「ばぁちゃんは目が見えないんだから、黙っててよ!」
と言ってしまったのだ。
「目が見えなくても、全部分かるんだよ」
その時、祖母が見せた悲しそうな顔を見た瞬間、体から血の気が引いた。絶対に言ってはいけない事を言ってしまった。
それから、祖母は何事もなかったように夕飯を用意し、いつも通り夜、母が迎えに来た。
おばあちゃんの世界ってどう見えてるのだろう。
見えないってどういう事なんだろう。
自宅に帰り、目を閉じて歩いてみる。
当たり前だけど、何も見えない。
1歩・・・
2歩・・・
怖い
3歩・・・痛いっ
机にぶつかった。私は目を開けてしまった。
ばぁちゃんは、それが出来ないんだ。
私は学校でも、家でも目を閉じて何度も何度も歩いた。
危険な場所がたくさんあった。