3.ビッグチャンス到来!
ニューエイトの面々との、運命的な出会いを経た大河であったが、相変わらず稼ぎの少ない在宅ワークに勤しんでいるのであった。
大河「あーあ。もっと良い案件入ってこないかなあ……。」
そうぼやいていると、一つの広告が目に入った。
フリーランス必見!案件ご紹介いたします!高単価!蔵人技術があなたと企業の契約をサポート!
大河「ふむ?なんだこれは。蔵人技術か。」
在宅ワークの枠からは外れるが、どうやらフリーライターを企業と業務委託という形で契約を補助するサービスのようだった。申し込んでみると、実績をある程度積んでいる大河に、オファーが来たのだ。
「大河さん!サイバーエージェントさんで働いてみませんか?」
……さ、サイバーエージェントだって!?サイバーエージェントといえば言わずと知れた、日本のIT御三家。アメーバブログを運営していることで超有名な、IT企業である。もし、契約することができたら経歴にハクがつくこと間違いなし、である。
大河「お、お願いします!職務経歴書送ります!スキルシート送ります!」
その日のうちに、職務経歴書兼、スキルシートを仕上げ、担当者へ送付した大河であったが……。待てど暮らせど返事は来ない。
大河「おいおいどうなってんだよ。」カタカタ
相変わらず単価の安いライティング作業である。
・ドラムレッスン開始
蔵人技術からは相変わらず連絡がなく、フリーランスなので、時間にはある程度余裕が出た大河。ライティングにも飽きて来たこともあり、以前から興味のあったドラムレッスンを受けることにした。スタジオは古宿3丁目だ。
永田「やあやあ。君、ドラムは初めてかね?ガハハ!僕のいうことはね、6割嘘だから気をつけるんだね!」
(え〜……めんどくせえ〜……)
どうやら妙な講師に当たってしまったようだ。しかし。永田講師のドラムテクニックは素晴らしいものがあった。どうやら、ここのスタジオで一番の技術をもつ講師のようだ。
タタタンタタタンズドドドドドドッ
永田「さ、やってみて」
無理である。
初めてのドラムレッスンを終え、大河は感動していた。
大河「こんなに楽しいのなら、もっと早くに初めていればよかった!」
大河は新しい楽しみを見つけた喜びと、感動と、情熱に身を震わせていた。初めてのレッスンの余韻に浸っていた大河は、古宿のナイタ前にフラフラとやって来ていた。
大河「ん?ドラム組み立ててる人がいる!」
古宿ナイタ前は、泣いていいともで有名な場所であるが、その広場ではよくストリートミュージシャンがパフォーマンスを行なっていることで有名な場所であった。その広場で、今まさにミュージシャンがドラムを組み立てているのである。
大河(これは話しかけるっきゃないな!運命だわ!)
大河「すみませ〜ん」
「はい!なんでしょうか!」
大河「今から叩くんですか?」
「ええ、今準備しているので、もう少しお待ちくださいね!」
大河「わかりました!」
懸命にドラムセットを組み立てている青年の横から、撮影係と思わしき男性が話しかけてくる。
撮影係「この人ね〜実はね〜。○○レッスンのドラム講師なんだよ〜」
大河「え!?今日僕そこで契約して来たんですけど!」
そのドラマーは奇しくも、大河が契約して来たドラムスタジオの系列店の講師だったのだ。
「えっ!?マジですか!大河さん、今日からドラム始めたの?しかもうちの系列店!?」
事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、偶然が重なり、妙な出会いが起きてしまったのだ。彼が活動しているユニット名は、urbanJAZZmachine(アーバンジャズマシン)。黒人タップダンサーとドラムの異色デュオだ。彼らの素晴らしい演奏に身を委ね、しばしの悦楽の時を味わう大河……。音楽ってこんなかっこいいんだ。素晴らしいんだ。
「これも何かのご縁なんで、フェイスブックで繋がりましょう」
大河はドラム講師のストリートドラマーとフェイスブックで繋がり、その日は新宿を後にした。
後日……
・ガールズバーで飲み耽る
大河は荒れていた。サイバーエージェントとの契約が決まらず、古宿飛沫町(しぶきちょう)のガールズバーに入り浸っていたのだ。
大河「あ〜。俺が送った職務経歴書どうなってんだ〜クソが〜。単価安い仕事しかねえじゃねえか〜。」
ガールズバーは都内各所にあるが、やはり東京都を代表する繁華街。古宿のガールズバーは容姿レベルが高い。大河の頬も緩んでしまうのである。鏡張りのバーカウンターを眺め、女の子の尻を堪能する大河。ただのエロオヤジである。
ピリリっ
ニヤニヤしながら酒を煽る大河のスマホに、一通のメッセージが入って来た。先日のドラマーの友人からだ。
「今日池袋でセッションやるから、おいでよ」
大河(ん?セッションってなんだ?よくわからんけど、ミュージシャンの集まりか。珍しいし、行ってみるか。ガールズバーも飽きて来たしな)
大河「今、古宿で飲んでます。池袋、すぐ向かいますっと。」
こうして、急遽呼び出された大河は池袋のジャズセッションバーへ向かった。
大河「……こんにちは〜。」
薄暗い店内では、おしゃれな音楽が鳴り響いていた。Jazzである。入り口で迎えてくれたのは、イケメン高身長のスコティッシュ。
ユアン「ハジメマシテ。ユアントイイマス。ヨロシクネ〜」
大河「はい!よろしくお願いします!」
スコットランド出身のギタリストだそうだ。店内はガラガラで、数人のミュージシャンが演奏している。ドラム習いたての大河が入れる雰囲気ではない。
さあ、ドラマーでしょ?叩いてごらん
叩ける雰囲気ではなかったが、周りに促されて大河はドラムセットに座った。たどたどしくドラムを叩いた。それは形にすらなっていなかったが、ひたすら楽しかった。どうやらセッションとは、即興でミュージシャンが合わせて演奏する演奏方式のことを言うのであった。極めてレベルの高い技術を持たないと、成り立たない場である。要するに、大河は場違いであった。
「どうも、初めまして〜」
関西訛りのハットを被った若い男性が話しかけて来た。
大河「どうも初めまして」
その男性は、名を林五郎と名乗った。2週間前に兵庫県から上京して来たというのだ。ギターメインで、ボーカルもやるという。
林五郎「少ないけど林で覚えてくださいね〜」
そう、その男は髪の毛が薄かった。
大河「ハハハハハ〜」
愛想笑いも慣れたものである。
この出会いが大河の運命を大きく変えることになるとは、この時は想像だにしなかったのであった。大河革命2016の始まりである。
お酒も入り、ジャズセッションは終わった。たくさんの出会いに感謝して、大河は家路に着く。そして、こう思った。
大河「ミュージシャンで食ってくのもいいなあ」
贅沢である。