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さよならニルヴァーナ

Image by Olia Gozha

家族の安らぎが壊れた日



関西が梅雨入りを始めた6月の夜。

父はビールをぐっと飲み干した。

「俺なぁ、女おるねん。」


一体この男は何を言っているのだろう?

弟と私は顔を見合わせ、もう一度父親を見た。


「まだオカンには言うなよ?先にお前らに話しとく。」


もう、嘘つき続けるのしんどいねん。


父はそこまで言うと発泡酒の缶をコップになみなみと注いだ。



「19年前にも、そいつと付き合ってた。本気で好きやねん。

俺もまだどうしたいとか決めてない。やけど、これだけ知っててほしい。」


ごくごくと飲み干す音を聞きながら、弟は口を開いた。



「別にそれはかまわん。やけどさ、反省してないやん。

俺らに話したようにオカンには喋らんでくれ。」


家で誰よりも母を大切にする弟らしい言葉だと、まだ夢見心地のような頭で思った。



父は少しイラついたように、


「全部俺が悪いねん!」

と、声を大きく話す。




その様子に弟もイラつきを見せはじめた。


「やからさぁ!そうやってキレる時点で反省してないやろ!

そういう態度はオカンの前でするなってゆーてんねん!!!」



父親の空気が変わった。


「お前よぉ…誰に口きいてんねんこら!!!!!殺すぞ!!!!!!」



あっ、これはまずい。


父はよく逆ギレをする。大きな声を出して殺すぞと脅し、誰のおかげで生きてるんだと。

弱いくせに俺に口答えするのかと。

私たちを押しつぶす。



私は弟を一回に残し、二階の自分の部屋まで上がった。


下からは父と弟の怒鳴り声が聞こえる。



自室のドアを閉め、床に座った。



「出ってったるわ!!!!!!」


「帰ってくんなやボケが!!!!!」




弟の出て行く音がする。



何かが壊れていくのを耳に聞いて、その日は眠りについた。





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