16/5/31
【第5話】父子家庭パパが所持金2万円からたった一人で子供2人を育てた10年間だったけど、これで良かったのか今でも分からずに文字にした全記録を、世に問いたい。

ひとしきり大声を出して泣いて泣いて、泣きながら家に帰ってとうとう決心した。
「やってやる、お前ら見てろよ、ふざけやがって、今に見てろ」
そうやって自分を奮い立たせることが、正しい判断だったのかは分からない。
さしあたってどうすれば良いのかは全く分からなかったけど、とにかくやるしかないってことだけははっきりした。僕がどうなろうと、僕の人生がどうなろうとそんなことはもうどうでもいい。とにかくこいつらを一人で何とか生きていけるようになるまで、育ててやると。
たった一人で育ててやる。
何が行政だ、ふざけやがって。
こうなったら自分の人生と引き換えだ、僕の人生などどうなってもいい。子供たちが生きていけるなら、こんな人生などくれてやる。
そうやって自分を奮い立たせなければ、本当は立っていることもできないほどに不安だった。
「大丈夫、やれる、俺ならできる、俺ならできる」
何度も何度も自分に言い聞かせた。
ほんの少しでも気を抜くと、不安と迷いで体ごと持って行かれそうになる。常に自分に言い聞かせ続けることでしか、その不安を取り除くことは出来ない。
父子家庭になってしばらくの間は、たった1日を無事生き抜くということだけしか考えられなかった。
先のことなど考えたら、つぶれてしまう。
そうやってようやく、1日1日を積み重ねて生きていた。
テレビドラマではうまいこと仕事が見つかったり、住むところなんかもあてがってもらえたり、職場の人たちがすごく理解があって融通を聞かせてくれたり、はたまた、幼い子供たちがどういうわけかめちゃくちゃ聞き分けがよかったり、近所の人が親や兄弟のごとく親身になって世話してくれたり。
どうにかこうにか父親一人で子供を引き取っても、世間の温かい支援のおかげで生活し、愛とか友情とか信頼とか感謝とかみたいなものとセットになっちゃったりして、感動のハッピーエンドを迎えたりするのだけれど。
それはドラマや映画でのお話だ。
現実は、そんなおままごとのような物語ではない。
もしかしたらそんな現実もあるのかもしれないけど、少なくとも僕にそんなラッキーの連続は、訪れなかった。
下の子は幼稚園、上の子だってまだ小学校2年生。
ただ生活するだけで目も回るほどの忙しさ、さらには日々の生活費の心配をせねばならない。毎日不安で眠れなかった。
明日食う金が、ない。
行政からの支援も無いと分かり、こうなったらやってやると腹をくくって自分を奮い立たせたその舌の根も乾かぬうちに、やっぱり心が折れてしまっていた。
「助けてください」
その一言が言えたなら、どんなに楽だったろう。
それを言ってしまったら最後、何もかもが雪崩のように崩れ落ち、自分という存在そのものが、なくなってしまうような恐怖。
一体、どこに「助けてくれ」と言えば、僕達は救われたのだろうか。