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16/3/25

闇を切り裂きタブー解禁。15年間書きためた原稿がやっと本になった出版記念に、実家のお寺で緊縛イベントをやってみた。

Image by Olia Gozha

私の実家はお寺です。

ひさしぶりに帰ってきた実家には

ものすごくでかい犬がいた。

名前はポピー。

ゴールデンレトリバー。

家の中で家族と一緒に生活する

この大きな犬は

階段をおりようとすると、

押しのけるようにして先をいき、

散歩にいきたいときは、全身で吠える。

無視すると、自分で扉をこじ開け、

勝手に散歩にいく。

気がすめば帰ってくる

かなり、自由な犬。



脱走すると、かならず二つ山公園というところにいて、

女子高生やおじいさん、誰かとお茶をしている。


とにかく人が好きで犬が苦手だろうが

関係なくおかまいなしに人になつく。


ひさしぶりに帰ってきた福島で

ほとんど友達がいなかった私は

ただポピーの散歩とお寺掃除にあけくれていた。


ポピーを車に乗ってけて川に行って、蕎麦食べて。

じょじょに福島の魅力を再発見しはじめたころ。


部屋で掃除をしていたら、

インスピレーションがおりてきた。


『写真を集めて一冊の写真集をつくる』


私はイメージに打たれたように

部屋の中をうろうろと歩き回って

これをぜったいに作ろうっと決意した。


福島を英訳するとHappy Island。 

それなら「幸せ」という、テーマで写真を集めよう。

生まれ育った福島という場所でつくる写真集。

私は企画書を書くと出あう人にくばってあるいた。


猫の写真、電球の写真、犬の写真、家族の写真、山の写真、

携帯で送ってくる人、CD-ROMでくれる人、

焼いた写真でくれる人、

集まった写真をはさまざまで、

人それぞれの幸せがつまっていた。

これを一つにまとめよう。

そうおもっても言葉がなかなか出てこない。

空いてる部屋に、写真を並べてみたり、

並びをいれかえてみたり。


すっかり煮詰まってしまって時だけがすぎていた

ある日、実家の愛犬ポピーと裏の森を散歩していたとき、

いつもだったらぐいぐい先に進むポピーが

森でお座りしたまま動かなくなった。

「行くよ」と、うながしてもこない。

なんだろう?


つられて自分も立ち止まった。

木に囲まれた石階段の途中、

見上げると葉っぱが重なりあって美しい。


そうやって、葉っぱをみていたら

頭の中にことばが浮かんだ

「ai ai I 愛してます…」


私はスローモーションのように風を感じながら、

ああそうか、これがHappy Islandの出だしのことばなんだなーっと理解して

家にもどって、ことばのイメージで写真を並べかえてみると

つぎつぎと、ことばと写真がかみ合って、流れができてきた。

なるほど、こうやってこの本はできるのか。

不思議な高揚感で、ページをつくると

何ヶ月も悩んでいたのがうそのように一晩で、ページの構成ができた。


こうしてHappy Islandが完成した。






「本ができたので記念に出版イベントをしよう」


実家のある森合という地区に住む

仲間たちがそう言ってくれて

一盃森という小さな森のふもとにある

正眼寺というお寺で完成披露かねたイベントをすることになった。


森合という場所でする、イベント。

その名も『モリノネ』

2010年 10月17日。モリノネ開催。

地元の人々が出店し、つどい、

ライブあって、盛りだくさん。

出版のお披露目もかねた

モリノネは大成功でおわった。

それから、イベントが終わって半年もたたない、

2011年 3月11日。

地震がきた。

地元の人々とその状況をわかちあいながら、

その時の恐怖をなんとかのりこえつつ、

私は次に書きためた短編集を出版するため、東京へ引っ越した。




2015年、2月。

10年以上あたためていた短編集「トウモコロシ」が出版された。




しかし、

私は東京に引っ越してから

誰ともつながらず、ひきこもった生活を続けていた。

本が出版されたのを期に、

ひきこもるのをやめなければ、

いまだ誰ともつながっていない自分を

どうにかして変えなければ。

そう考えるようになった。




地震のあとも福島では、

地元の人々によって

毎年続いていたモリノネ。

私は最初の出版記念以来、

4年ぶりにモリノネに参加したいっと

コンタクトをとった。

すると、

「一緒にイベントをやりましょうよ」

っと、モリノネの仲間は

ひきこもっていた私を

こころよく受け入れてくれた。




「せっかくだし、黒澤さんの出版イベントすれば?」

モリノネの仲間のひとりに

言われた一言がヒントになって、

インスピレーションがうまれた。

ヴァイオリンと縄と朗読者がステージにいる図が浮かぶ。

じゃあモリノネとは別として。

夜の部におこなうイベント。

「裏森ってのはどう?」

ヨルモリでもなく、ヨルノネでもなく、裏森。

子供は入れない18歳以上立ち入り禁止のイベント。

タイトルが決まると、ますますイメージが浮かぶ。

朗読と縄とヴァイオリン。

これは、やらねば!!

私は興奮冷めやらぬまま、

縄ができる友人のさくらさんにメールをした。




とりあえず、やってみないとわからない、

ということで新宿の某縄バーで、

さくらさんと合流。

舞台のお話のベースになる、

短編集トウモコロシの中の

「ベルゼブブ」を読み合わせ。

朗読の私と縄のさくさらん、

二人だけでのリハーサルがはじまり、

縄で縛られながら朗読。

朗読していると、それにあわせて

さくらさんがアイディアを出していく。

◯ポインターを使うのはどう?

◯布をはいでいくっていうのは?

と、みるみるうちにアイデアがあふれて、

さくらさんのショウに対するイマジネーションはさすが。

人に見せるものをつくらなくては。

彼女の意識の高さに、

作品を読むだけでは舞台は成り立たないんだ、

ということを初めて知った私は、

ここから台本を作る、ということをはじめた。




ヴァイオリンには脇田さんを、

とおもっていた。

ベリーダンサーとのコラボレーションでのショウで、

自在にダンサーを転がしているような

空間にひろがる不思議な音に、

コラボレーションするなら、この人!

と、これまた勝手に決めていた。

話したこともなければ面識もない。

けど、やるしかなかった私はいきなり

ヴァイオリンの脇田さんに連絡をとった。

すると、思いがけず、

快く快諾してくれた。

脇田さんと最初の2人のミーティング。

はじめまして、の脇田さん。

朗読とヴァイオリンの読み合わせをすると、

最初から、いい感じでかみ合う。

ヴァイオリンが、素晴らしく、朗読にそってくれている。

音に安心して、声をまかせられる感じ。

なにも心配ない。そんな安心感だった。




お寺で縄をやる、という試み。

改めて台本を練り直してみる。

台本のベースは短編集トウモコロシより

『ベルゼブブ』

一番最後に書いた作品で、

11話の中でも

もっとも、濃くてえぐい話。

内容はといえば、

目の見えない娘を父が最終的には殺してしまうような話で、

相当えぐいんだけど、なぜか、どーしてもそれをやりたかった。

どーして縄なのか?

っと、質問されると。

その、執着、がんじがらめさを

縄がそのまま表現してくれるような感じがしたから。

時代のイメージは、大正ロマンの時代設定。

しつこい執着感とお寺で縄をするというタブー。

「タブー」

ということを裏テーマに挑戦しよう。

そうおもっていた。






縄のモデルを決めなくてはいけない。

モデルには、いとこのジュンコちゃんはどうだろう?

ジュンコちゃんは、尼僧修行をしていて

女性でありながらお葬式ができる。

岐阜にある、大きなお寺にとつぎ、

5人の子を持つ母でもある。

私は子どもの頃、彼女とよく遊んだ。

共にファンタジックだったためか馬があって、

架空の世界にのめりこんで遊んだ。

しかし、今は岐阜の大きなお寺に嫁いでいた。

とても、厳格で壮大なお寺だ。

はたしてジュンコちゃんにお願いして、

オッケーっと言ってくれるだろうか?

私は断られるのを承知で、電話した。

お願いしたいことがある、と伝える。


ジュンコちゃん「え!? ぜひやりたいです」


「いやいや、ちゃんと考えて。縄だよ、縄」


と、返したものの。

ぜひ! やりたい、という言葉は、

とてもありがたく、

私はモデルが見つかった安堵感と、

彼女が出演してくれるからには、

とても意味のあるイベントになるであろうことを、予感した。




私はさっそくモデルが見つかったことを2人に報告し、

準備をすすめた。

縛では、縛る側と、受け手との呼吸が命なので、

ほぼはじめましての人、

しかも一度も縄を経験したことがない人を縛る、

というのは、さくらさんにとっても相当なプレッシャー。

しかしその緊張感がこの舞台には必要だった。




台本を作っていくうちに、双子という役を設定した。

それは、ゲイのカップルでもある友人の2人にお願いした。

2人はとてもよく似ていた。

ゲイという存在は社会的にまだまだ少数派で。

タブーという意味では、

とてもタブーな存在になりえる

のではないかなっと。

それから、ポテトをただ食べるだけの男、

ポテチ男という登場人物も。

福島にいる愛されキャラの知人フクタヨさんにお願いした。

そしてどんどん、流れ、構成ができていき、

あとは、本番やるだけ、となった。




本番2日前。

明日は、リハーサル。

と、なって、縄のモデルを担当してくれる、

岐阜のジュンコちゃんから電話がかかってきた。

ジュンコちゃん「あの……。実は」

その暗い声のトーンに、私は展開をさっした。

ジュンコちゃん「子どもの具合が悪くなって、いけなくなりました……」


一瞬どうしようか、いろんなことが頭の中をめぐった。

が。

子どもが5人もいて、

大きなお寺の寺庭婦人でもある。

それは致し方が無いこと。

しかしジュンコちゃんが出れないとなれば、

他にモデルをさがすしかない。

縄文化の浸透していないこの福島で

いきなり舞台にたって、

縄でしばられてくれる女の子なんているんだろうか?

が、とっさにジュンコちゃんの妹、

みっちゃんの顔が浮かんだ。

「みっちゃんはどうだろう? 電話してみよう」

ジュンコちゃんからもお願いしてもらえる?

私は、明日の舞台を失敗させてはいけない、

穴をあける訳にはいかない

と、必死でみっちゃんにお願いした。

みっちゃんもまたお寺の娘で、今も実家のお寺に住んでいる。



「実は、急にジュンコちゃんがこれなくなって。みっちゃん代わりにお願いできないかな?」


私は、できるだけ丁寧に、かつ、必死にみっちゃんを説得した。


みっちゃん「わかった。明日、リハーサルに行きます」


「リハーサルに来るってことは、本番も出るってことになるとほんとに大丈夫?」


そういって、みっちゃんに腹をくくってもらい、

私は、ひとまず胸をなでおろした。

急遽、主人公が別の女の子に代わったことを

みんなに報告。

最後の最後まで、緊張感が漂うまま、

明日のリハーサルとなった。




前日昼、ヴァイオリン者、縄者、双子役と

出演してくれるみんなが集まって、夕方のリハーサル。

「リハーサルは本番と同じでやらなきゃ意味がないよ」

普段、超一流アーティストとお仕事をしている

友人ミッチー(双子役)の助言により

着物を着てのリハーサル。

唯一自分で持っている薄い黄色の着物。

いざ着てみると、どーもシンプル。

舞台のイメージは

『大正ロマンなどこかレトロな感じ』

だったのに、自分の世界観にそぐわない。

すると、母。

「あ、おばあちゃんの着物がある。もう、10年以上着ていないけど……」


と、出してきてくれた着物がまさに、これ! 

レトロ感満載で、イメージにぴったりなものだった。

リハーサルも無事終わり、本番当日。




私は、その夜、いっすいもできなかった。

興奮したのか、緊張してなのか。

頭のなかが、ぐるぐるとまわったまま。

アドレナリン状態で、まったく寝れない。

その状態のまま次の日を迎え

イベント当日。

私と、絵の野村さんは昼間のイベント

「モリノネ」から参加。

お客さんが目の前に来てくれても、

夜のイベント「裏森」のことで頭がいっぱい。

せっかく短編集「トウモコロシ」を販売していても、

気がそぞろでおつりも数えられないような状態。

お客さんは来てくれるんだろうか?

舞台はどんな風に仕上がるんだろうか?

そんなことで頭がいっぱいだった。




あんまりに、気持ちが張りつめる私を見かねてか、

双子役で参加してくれている、野村さんが

「散歩にいかない?」

と、誘ってくれた。

ここのお寺のすぐ裏は、森になっている。

森のてっぺんには、神社がある。

私とのむらさんはモリの頂上にのぼった。

人がいない森の神社。

大きく深呼吸。

私は、張りつめていた緊張感から

ずっと、呼吸を忘れていたような状態が続いていた。


野村さん「すごいことをやろうとしているんだと思うよ。先祖代々の何かを癒す儀式みたいになるんじゃないかな?」


そう、言ってもらったとたんに、

私の目からは堰を切ったように涙が出た。

地震以来、手伝うこともせず、

参加していなかったイベント

「モリノネ」

Happy Island という自分の本がきっかけになったにもかかわらず

関わることをやめてしまっていた。

大好きなふるさと福島の何かが壊れたように感じて。

でもそれは、たんに自分自身が壊れていたのかもしれない。

そして今、本を出版したことで、

もう一度、出発点にもどってイベントさせてもらう。

非常識なことをやろうとしているにもかかわらず、

みんな暖かく迎えてくれている。

このことが、自分にとってどれほど大切で、

意味のあることか。

私はひたすらその長年の思いを吐き出した。

野村さんは横でただ黙って聞いてくれていた。








出版社から担当の金川さんが来てくれて、

受付をしてくれる。

この人が来てくれたからには、

私はとても安心してイベントをすることができる。

いよいよ準備開始。

レトロ感を出すために、

着物のインパクトが薄いということで、

裏森当日、その場で生地を買いにいってくれたミッチー。

しかも、なんと、着物のエリに生地を縫い付けてくれて、

すごい、さすがの手際。

ぐっと、レトロな時代感がでてきた。

さらにミッチーにメイクをしてもらって、

着物をきつけてもらって朗読者がしあがっていく。

まわりのみんなも、それぞれ衣装にきがえて、

スタンバイオーケー。

いざ、本番がはじまる。




本番。

舞台の切り替えに

電気をつけたり消したりする

照明係を両親に頼んでいた。

朗読の内容は、

父親が娘を殺してしまう話。

それを娘である私が朗読して

父である住職が照明をしているというのは

これまた、なんとも言えないシチュエーションだ。

父も、何かをいろいろと感じている様子。

ほんとうに、お寺にとっても

私たち、僧侶という系譜にとっても

家族的な、浄化のような気がした。





本番。

集まってくれたお客さんは40人くらい。

ものすごい、緊張感。

挨拶をはじめても、

いったい、何がはじまるんだ?

という空気感は、より大きなウェーブとなった。

その波にのって、

朗読がすべりだし、

ヴァイオリンが入り、

舞台が動き出した。

裏森。

今まで重ねてきたリハーサル通り、

朗読、ヴァイオリン、縄、双子、ポテト男、照明、

すべての演出が一つになって、

陰の極み、

のようなすごい世界観が表現できた。

双子が持つ薄いベールを、縄者が切り裂くシーンがある。

それは、とても象徴的で、

なにかの幕開けのような。


大きく、蓋をしていたところが開いて

どばどばと、膿みが出て、血が通い

海が広がったような、

新しい世界がはじまったような

そんなシーンだった。





急遽、モデルになってくれた、みっちゃん。

なぜか、私は今回の縄のモデルが

お寺のひとじゃなきゃいけないような気がしていた。

そうじゃなきゃ、もたないような

そんな気がして。


「僧侶という男の世界で、

ずっと声にならなかった声、

とくに女性の声を代弁したようだった」

と、のむらさんに言ってもらった通り。

お寺という場所で

普段は表に出ない、女性たちが

主人公になり、その声を表現した。




5年ぶりに参加した、モリノネ。

そして、はじめておこなった裏森。

それは、私たちの連綿と続く

女性性の新しい可能性が開いたような

そんなイベントになった。


短編集トウモコロシより

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