21世紀の生き方との出逢い。
興味のない勉強会に、大学教授がお金を出すからと、わたしは三井住友銀行に38,000円振り込む為にスマートフォンを操作していた。
体力が無くてもインターネットで振り込みが出来る時代に生きているのはラッキーだと思う。
自民党政権の大暴走で高速代が一律1000円になった恩恵のど真ん中にいた私はレンタカーに乗って富山を目指した。
時速100kmで走る中、高速道路に慣れていないひとが何故かバックしてきたり、トンネルが怖くて急ブレーキをされたり死ぬんじゃないかと思ったのはいい思い出だ。

その時は8月の終わり。富山の街はまだまだ夏の太陽熱が地面を熱くしていて、
ただでさえ体力の無い私は、適当に時間を流して帰ろうとしていた。
この頃のわたしは、はっきり言って大学の環境教育にうんざりしていた。
教授A「工場で働いているひとは人間じゃない。」
わたし「え?」
教授A「あいつらは何も考えていない。人間のクズだ。」
わたし「え?いや、みんな家族がいて家族の為に働いていて、環境にも配慮してると思いますし、先生もあれだったら車乗ってるじゃないですか。」
教授A「あなたは何の価値も無いんだから、黙りなさい。」
環境保全に精を出しているひとにはヤバいひとがいる。全くもって論理的じゃなくて感情的だ。
上手く取りつくろえばいいものの、それが出来なかった。
研究室を追い出された私に、なけなしの38,000円が返ってくるはずも無く、単位が出るかも分からない不安を抱えながら何故か富山にいる。
事情を説明して返金をお願いしようと思った。
でもなぜか、赤いアロハシャツのおじさんが気になってしまったのだ。
アロハシャツを着たおじさんとの出逢い
思ったよ。完全にやばいひときた。
アロハ男「はじめまして。どこの大学から来たの?」
わたし「あ、あの。大丈夫です!」
とだけ言って立ち去ろうとする。
するとまた声をかけてきた。
アロハ男「この勉強会。スタディーツアーの運営者だから何かあったら気軽に声をかけてね!」
女子大生「教授どこいってたんですか!探してましたよ!」
わたし「教授??教授なんですか?」
アロハ男「20代後半で独立して40歳で大学に入ったら縁あって教授になったんだ。人生失敗したよ。」
アロハおじさんの世界観
アロハおじさんの名前は、カズさんと言った。有名大学の教授をしているらしい。
その真っ赤なアロハシャツを着たおじさんの生き方は、その時の私にはあまりにも大きくて新しかった。
20代後半に会社員を退職してアメリカに一人旅をした後、家族と無職で暮らしていたらヨセミテの山に惹かれて、環境教育の事務所を自営業で作って今にたどり着いたそうだ。
でも、そんな過去に何をやってきたかを聞くよりも
顔の表情が柔らかく、満天の笑顔が最高に輝いていた。
彼の持つ世界観と空気感は、豊かという言葉が似合っていて、とんでもなく自由だった。
アロハ男「大学教授になって不自由になってしもうたわ」
どこからどうみても自由=あなただった。
なんだろう。そういう自由な生き方って選択肢にあるの??
生き方に選択肢がある??
どんな選択肢を選べばそうなれるの?
選択肢と言えば、私はどこかで人生を他人任せにしていたのかもしれない。
だけど、その気持ちを認められずにいた。
アロハ男「じゅんぺいくん。人は何者にだってなれる。おれは進路失敗したけどな。ガハハハ。」
カズさんは何もなかった私に生き方を教えてくれた。
アロハ男「フリーランスっていう働く日と時間を自分で決められる生き方を知っとるか?」
わたし「フリーターのライセンスがある版ですか?」
アロハ男「オモロイなあ。独立したプロフェッショナルとも言う。」
アロハ男「あんまり真面目に受けとんなよ。毎日スーツを着る生活なんて日本の風土には合ってない。アロハシャツと短パンでいい。」
アロハ男「そもそも環境問題って言ってて、スーツ着て寒いエアコン効いた中熱い議論を交わすって変やん。」
言っていることははっきり言って無茶苦茶だった。
ー でもなぜだろう。適当だけど誰よりも言葉に責任感がある。
もし世の中がこの人が言うように自由ならば、なんて真っ当な意見なんだと思った。
わたし「自分で仕事をするには何をしたらいいんですか?」
生き方が大きすぎて訳が分からず
質問も大きすぎた私にアロハ男はこうアドバイスした。
アロハ男「MacbookとWindowsの違いって分かるか?」
わたし「リンゴとカラフルですか?」
アロハ男「違うわ。笑Windowsはすでにある作業をこなす為に設計されたもので、Macは仕事を生み出す為に作られたもので全然違うんや。」
アロハ男「じぶんで仕事を作りたかったら、Macbookを買ってみい。」
わたし「Macbook・・ですか?」
新しい歯車
遠くて長い未来のことを考えることが苦しかった。
頭の中で鳴らなかったメロディーが、突然にグルグル鳴り響く。
本当に素直な気持ち。
この人のように世界が広かったらなんて生きやすいんだろうと思った。
もう歩けないかもしれないと思ってここに来たはずなのに、
帰ろうと車に左足を入れた時。
帰りたくないと心が叫んでいるように胸がぐっと熱くなって
足元がすっと軽くなった。