私は、ごくごく一般的な看護師だ。
看護師としてはもう5年目。
看護師という専門職ではあるが、社会的な位置づけとしては
その辺のサラリーマンと変わらないし
5年目になって仕事にも慣れ、後輩がちょっとできたくらいだ。
役職があるわけでもなく、特別大きな仕事もやったことはない。
そんな私が、ある日突然、本を出版することになった。
それは、偶然と出会い、そして別れ、様々な葛藤の中で得た答えだった。
これから書くことは、すべて実話だ。
本を出したいと考えている方に、
平平凡凡な人間がどのようにして作家になったのかという一つの例をお話ししたい。
2014年1月、きっかけは趣味で始めたブログだった。
看護師になって4年目。
とくに優れた能力のない私は、4年目になっても、仕事でミスをしたり、怒られる日々が続いていた。
後輩からも舐められ先輩として扱われないこともしばしば。
後輩の指導をするにあたって、先輩としての自覚を問われる毎日だった。
出来ない自分へのいらだちと先輩らしさを出すことができず、後輩への申し訳なさを感じていた。
2014年、新年を迎えるにあたって、今年こそこんな自分を変えて見せる!という気持ちのもと
勉強したことを備忘録として残しておくことを決めた。
自分を成長させるため、そして後輩の指導をするためにきっと役に立つと考えたからだ。
そこで、文章をメモするだけならと思いブログを書き始めることにした。
しかし、飽きっぽい性格の自分には、
ただブログを書くと決めただけでは続かないことはわかっていた。
だから、自分でブログを書く3つのルールを決めた。
1.とりあえず、3か月毎日なにか書いてみること。
2.1つの記事につき800文字を意識すること
3.ブログを書くまでは友人の誘いを断つこと
ブログを毎日更新するために
ちょっとキツイけど頑張ればなんとかなるというのを基準に決めたルールだった。
結果的に、このルールを設定したことは正解だったと思う。
もしなかったら、今の自分はきっと存在していないだろう。
ブログを書く必要性を感じなくなった
さて、このようにして意気揚々とブログを書き始めたのだが、
いきなり壁にぶち当たった。1週間ほどすると、書くネタがなくなってきたのだ。
あまりにも早すぎるネタ切れだった。
普段、看護師として働く中で、必要な知識や作業を自分なりにまとめて整理していたのだが、
自分が思ったほど日常業務でまとめなければならないほどの事柄はなかった。
開始早々にしてネタ切れに陥った私は、もはやブログを書く必要性を感じていなかった。
自己満足に陥ってしまったのだ。
飽きっぽい私には、至極当然の結果ではあるのだが、ブログの更新もここで終わるのが自然だった。
とはいえ、ここで終わるのはあまりにもあっけなさすぎるので、
一応ネタ探しもしてみようと思い、ネットで看護系のブログを見ていると
とあるブログを見つけた。それは、看護師を志す学生向けのブログだった。
学生の質問や疑問に丁寧に答え、そして分かりやすい解説をしていた。
初歩的な質問や基本的な看護記録の書き方といったもので、
看護師として数年働いた私からすれば、大した内容ではなかったのだが、
学生から非常に人気を集めていた。
非常に基本的な内容だったが、学生にとても喜ばれているのが不思議でならなかった。
私のブログも同じジャンルのブログなのに、人気も高く、羨ましさと嫉妬を感じた。
言い方は悪いが、「これなら私でもできそうだ」と思ったのが、新たなスタートになった。
それから、新たにブログを立ち上げなおした。
今までは、自分の備忘録に過ぎなかったのだが、
次は学生向けに基本的な内容でかつ、根拠がわかるように分かりやすくまとめることをモットーとした。
そして、新たなスタートを切った。
こうして、私は自己満足のブログから他人を喜ばせるブログを目指すようになっていた。
それからというもの、自分のルールに則って、毎日記事を書いた。
学生の自分だったらどんな情報が欲しいだろうか、何を聞きたいだろうか、
どんなことが知れたらうれしいだろうかと自問自答しながら、記事にした。
その結果、いつの間にか検索で上位表示される記事が出てきたり、
コメントがもらえるようになったりしてアクセス数も伸びてきた。
1か月で30万PVのブログにまで成長した。
趣味で始めたブログだったが、
いつのまにか、自分のやっていることに使命感と自己実現を感じるようになってきていた。
毎日、記事を書かないと気がすまなくなり、より良い記事を書くために
画像や動画を取り入れるようにしたりして、1記事書くのに2時間~3時間かかることもあった。
いつしか、私の周りからはリアルの友達はほとんどいなくなってしまった。
その結果、生活リズムも大きく変わり、ブログ中心の生活になった。
仕事から帰宅してから、即座にパソコンの前に座る。
そして、ブログを書いてから夕食を食べたり、お風呂に入ったりするようになった。
ブログを書き終わらないと寝れなかったり、
友人からの食事の誘いも断ったりすることが多くなったりした。
いつしか、私の周りからはリアルの友達はほとんどいなくなってしまった。
いるのは、ブログを応援してくれている顔も名前も知らない人たち。
得るものも多かったが失うものも相当大きかった。。
何かを得るには何かを犠牲にしなければならないと聞くが、
まさにこういうことかと身をもって感じることとなった。
しかし、ネット上であれども、自分が必要とされている実感を持つことができ、
存在意義を得ることができたことは非常に価値のある体験になった。
こうしたブログ中心の生活が続いたある日、一つの転機が訪れた。
2014年9月、私のもとに一通のメールが届いた。
【執筆依頼】
「突然のメール申し訳ありません。
医師のSと申します。
この度、執筆をお願いしたくご連絡いたしました。
現在、ナース向けの出版の予定があり、
貴ブログを拝見し、お願いした次第です。
執筆についてご検討していただけないでしょうか?」
執筆?なんのことかと最初はいたずらかと思っていた。
しかし、何度かメールをやり取りしているうちに、
シリーズもので専門書を出すから、専門書を書いて欲しいという内容であることがわかった。
まさか自分が本を出すなんて考えてもみなかったことだ。
看護師としてまだ4年目であり、怒られてばかりの毎日の自分に専門書なんて書けるわけがない。
そもそも、本なんて書いたこともないし、
そういうのは大学の教授とか学校の先生とかすごい人が書くものだ。
こんな一般人に依頼するなんておかしな話だと考えていた。
とりあえず、検討してみると伝えたが、何をどうすればいいのかわからない。
しかも、自分も専門家じゃないし、考えれば考えるほど訳が分からなくなった。
結果、「どう考えても本なんて書けない!」
そう結論付けて、本を出版するという話は無くなった。
・・・はずだった。
2度目
2015年1月、私のもとにまた1通のメールが届いた。
大手出版社からだった。ナース向けの出版を検討しているから執筆をして欲しいという内容であった。
先日、執筆依頼をくれた人が、私が断ったにもかかわらず、出版社に推薦してくれたようである。
2度目の執筆依頼だった。しかも、今度は大手出版社からである。
これには大変驚いた。それとともに、どうしようかという葛藤が湧いてきた。
こんな依頼はこれを逃したら二度とないかもしれない、
しかし、自分に本なんて書けるのだろうか、
でも、このチャンスを逃したくない・・・
途方もない時間、独りで悶々としながらずっと考えていた。
そして、、
「やってみよう!」
そう決めたのは、過去の自分と決別するという決意の表れだった。
自分のためじゃなく、人のために生きたいという思いがより強くなった。
自分がブログを書こうと思ったのも最初は自分のためであったが、
今はブログを読んで喜んでくれる人のために書いている。
だから、本を読んで喜んでくれる人がいるなら、私はその人のために書きたいと思った。
そして、出版社の人と正式に契約を結んだ。
出版予定は2015年、9月頃。残り8か月だった。
今年の秋には、私の本が書店に並ぶ!
そんな、訳の分からない現実があと数か月後にはやってくる。
私の書いた本が本屋に並び、誰かに買われるってどういう世界か想像ができなかった。
ともあれ、やると決めたからにはやるしかなかった。
それからというもの、執筆活動に打ち込む毎日だった。
まず、関連書籍を買い漁り、どんなことが書かれているのかを徹底的に調べた。
自分が書きたいことを列挙し、ここはこうした方が分かりやすいというのを
自分なりに考えて、イラストを交えて説明するように意識して執筆した。
しかし、執筆活動は思っていた以上に大変だった。
出版社から、150ページ前後の指定で依頼されたが、何を書けばそんなにいくのか非常に困難を極めた。
2ページ書くのに2時間以上かかったりもした。
苦痛が募り、何度も頭痛と吐き気を催した。そして、何度諦めようかと思ったことか。
こつこつ頑張れば、大きな成果につながるなんて言うけど、言葉が軽すぎる。
同じように、ちりも積もれば山となるというが、私にとってはそんなんじゃない。
1ページ1ページがまるで星を造るぐらい苦労して、
本になるまでには銀河を生み出すような作業のように感じた。
そんな苦労を知ってか知らずか、担当者からは
都度、進捗状況の確認と原稿の提出を求められた。
やらねば、と自分を奮い立たせて執筆活動に取り組むものの、何度も放棄しようとした。
投げたさじを拾っては再び投げるということの繰り返しだった。
本業をしながらの執筆活動だったので、
ときには本業、委員会活動、資格試験などと並行しながら行わなければならず
まさに自分との闘いだった。本当につらい日々で、とうに限界を何度も超えていた。
そんな苦労の末、ついにその時が来た。
2015年9月、脱稿。
書き上げた!最後の校正を終えたとき、本当に達成感を得た。
地獄のような日々から解放され、「自由」を感じた瞬間だった。
そして、一方で「もう二度と本なんて書くもんか!」そう思った瞬間でもあった。
2015年10月、書店に行く。
私の本が世に出る日が来た。多くの人に読んで欲しい、
そして、「こんな本が欲しかった!」と喜んで欲しい。
私の一生が終わっても、本というのは世に残り続ける。
そして、看護師として、半永久的に社会に貢献できるというのは非常に光栄なことだ!
と意気揚々としながら、発売当日に本屋に行く。
が、ない!
どこを探しても私の本は並んでいなかった。店員に聞くと、「取り寄せになります」と言われた。
とてもがっかりした。私の住む町の本屋には置いていなかった。
全国どこの本屋でもあると勝手に思っていたが、現実はこんなものだ。
しかし、全国のどこかに私の本はある。そして、誰かの役に立っている。
そう考えると、苦労が報われ、心が救われるような気がした。
ブログを通じた出会い、そして様々な経験を乗り越えて成長した自分、皆に感謝の気持ちを伝えたい。
メモ程度で書き始めたブログがいつの間にか多くの人に見てもらっていることに驚いた。
そして、ブログを立ち上げた当初、こうして本を出すことになるなんて思ってもみなかった。
平平凡凡なナースの私だが、ちょっとは非凡なナースになれたのかな。
今回のストーリーが良かったと思っていただけたら、是非私の本を書店で探してください。
購入しなくても結構なので、「あっ!これか」と思っていただければ幸いです。

書名:「看護の現場ですぐに役立つ 看護記録の書き方」
出版社:秀和システム
平平凡凡なナースが、ブログがきっかけで本を出版するに至ったというお話。
私の執筆活動はSTORYSに投稿したこの記事をもって完結する。
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