マイ・フェイバリット・シングスと謂う歌がある。この間私はそれを歌った。
歌うのが私は心底好きだ、其れはもう体の芯から好きだ、と云う重大事を、私はすっかり忘れてしまっていた。
どうしてそんな風になってしまったのだろう。
それほどまでに、私は長いこと、くたくたに成ってしまっていたのだ。そのことに漸く気付いて、で、「歌えばそんな時どうにかなってき」た事を思い出したのが事の次第である。其れは一寸その時の気分に遇っても居たし、状況にも。今にして思えば奇妙な巡り合わせだ。
マイ・フェイバリット・シングス。それは名の通り景気のいい歌で、好きなものを端から端から挙げていく。そんな歌。
好きだ。それはまるで阿呆だが、そうして自身を鼓舞していく。
私は一体、歌が好きだ。これは疑い様が無い。こうやって歌に、いつだってすくわれる。こんな風に弱るまで、弱ってまで生きて居られたのも、正味、歌のお陰だ。
但し。但し、歌のことは混じりっけなしに好きだが、いや、本当か?
私は言いたい。
(1)何の影響も為しに「只々好きだったもの」
と、
(2)「影響されて好いたもの」。
そしてそれと似ているようで違う、(3)「強制・環境に於いて好いたもの」。
そういった様々のマイ・フェイバリット・シングス。these of a few of my favorite things.
具体例を挙げてみよう。
(1)は合唱であり、本だ。言われる前から、生まれつき好きだった。(合唱を初めて聴いたときは、声によるハーモニーへの感動のあまり鳥肌が立った!)
(2)はウオッカやアマレットなどのお酒、バー通い、長風呂、そしてMr.Children。小説や好きな男の影響である。一般的に言えば、友人や雑誌に影響されたファッションなんかもここに分類されるかもしれない。好んでつかう言葉なんかも。
(3)はモノトーン、とりわけ白と黒、紺色の服。白はシミ、黒は「けばけば」汚れが目立つから、と「好きに服を選べるようになるまでは」制限されていたからだ。また、料理。母方の家系は料理が抜群にうまかったので、お手伝いや盗み見る機会を狙った。「これは必須スキルだ」と自ら思ったのだ。夫婦は愛し合うということ。愛は大切だ、ということ。両親はおしどり夫婦である。バランスもうまい。これも一般的に云えば、禁止故の甘美だとか、あとは「半ば強制的に居ることになっていた環境」に似ていて気に入る/気に入らない。ということ。
我々は、五感を駆使して「好き」を探る。
殆ど好きは感覚だ。
触り心地。えもいわれぬ香り、匂い。音色。色味、風合い。果ては量感。光り。勿論、味も。愉しい食事も、いい味しめても。
『歌なんていう好き』は、埋もれっちまっていたのだ。だからこその苦しみもあった。現に好きであったり、依存心や恐怖によってやその為の好きも遇ったが為、なんだかこうして腹の底から出てきた好きを、今一度丹念に追いたくなったのだ。
後々になってから、無条件に興味を示し好きになったもの。「ピンク」「光る石」「宝石」「とりわけ『ダイヤモンド』」そうして「合唱」。
「歌」が好きだと書いたが、格別な生まれつきの好き、を、手っ取り早く説明するには、やはり「合唱」が大好きだ、ということについて語るべきだ。あれは、本当にどうしてだか説明もつかない。けれど、ここで挙げたものは、ずっと揺るぎなく好きなものだけれど、けれどもだ。聞いた瞬間、ああ、これだ、これがずっと聞きたかった、なんて、たかだか校内合唱コンクールすらもない中学校の弱小合唱部の歌で、鳥肌が立つほどに思い知らされたのだ。
あれが、本能、というものでなかったとしたら、他に一体なんだと言うのだろう。
私は今でもそうなのだが「ここでできること、この場でできることをできていない自分が、なんて情けないんだろう」と、幾度も思ってきた。例え其れが、両親の管理下に追われ、勤めの褒美として与えられたゲーム『ポケモン』にしろ―――私は決て「この街で全部できること(それはレベル上げや珍しいポケモンを一定数捕まえること、目標額までの資金集め、ができるまで次には進まないよ」と公言していた。まだ出来るもうちょっと出来るいや更に出来る、というところで(無論、私と云う個人の能力限界はあるにせよ)『壊れるまでは踏ん張りたかったのだ』。
私は他の、所謂エリートの姉妹——有名私大に受かり、名門芸大に受かり、将来も嘱託されている妹たちと違う。足下にも及ばない。はっきりいって愚鈍だ。けれどそれなりにやりたい人生があった。
私は彼女らが「学歴は上になったけどさ『頭のいい筈の姉ちゃんが語るなよ』なーw」《頭のイカれた気違いの癖に》「あたしは姉ちゃんの味方だよ」《迷惑かけやがって、痴漢されたのが悪いんでしょw最近の詐欺じゃ無いの?大体男と2、3年も付き合うやつなんておかしいでしょ!》《けなげなあたし》《あたしは駄目男と付き合わない!3ヶ月以内でしか付き合ったことないね!ズルズルいくのってほんとバカw》《
(1)壊れなければ嘘だと思っていた。そうでない頑張りは嘘だと思っていた。
(1)の頑張りは尊く、私はそれをしているとき幸せだった。