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2階の窓から転落したけど、奇跡的に、顎と歯を骨折しただけで済んでいる話。

Image by Olia Gozha

1. 当日のこと

 2015年3月11日 11時頃。晴天。気持ちいいくらい空が高かったのを、よく覚えている。

 この日はうっかり寝過ごしてしまい、産業医から出されている宿題(休職→復職に向けて、9時~17時まで図書館で作業する)をぶっちぎっていた。

 起き抜けにちょっとしょんぼりしたけれど、落ち込んでいるわけにも行かない。まずは布団を干そう。それからお昼を食べて、午後からは図書館で作業リハビリだ。そう決めて動き始めた。

 私が住んでいる古いアパートにはベランダがなく、窓の外に物干し竿を2本かけられるスペースが作られている。高めのところに設置されているので、何かを干すには窓枠の上に立ち、全身をさらけ出して作業する必要があった。

 敷き布団は窓枠の外に干し、掛け布団を物干し竿にかけるために窓枠の上に立つ。いったん掛けたものの、ちょっと引っかかっているところがあったので直そうとした時。

 右斜め方向にぐらりとバランスを失った。

 あ、まずい!と思った次の瞬間にはもう、衝突。

 ばたん!という衝撃と共に、地面に横たわっていた。


 最初に思ったのは『ああ、やっちゃった……』だった。

 むくりと起き上がり、少しだけぼんやりする意識の中で口の中を確かめる。うん。歯が折れている。とりあえず掌に吐き出し、出血していることを確認しながら立ち上がって、為す術なく部屋の窓を見上げた。ちょっと笑えることに、原因になった掛け布団は物干し竿にかかったままだ。

 救急車、呼ばなきゃ。でも、起き抜けで携帯持ってない。鍵も閉まってる。どうしよう。とりあえず……部屋の前まで行こう。

 口の下、顎の真ん中あたりが鈍く痛い。頭は痛くない。口の中も少し痛い。腫れているのか、口を開け閉めできない。そこからも血が出てるから垂れないよう口元に掌を置いて、のっそりのっそり歩き出した。

 ゆっくりと階段を上り、一番奥の自宅の扉の前まで歩いて行く。崩れ落ちるように扉の前に座り込んで、しばらくぼんやりとしていた。

 頭の中は『やっちゃった……』『どうしよう……』でいっぱい。救急車を呼びたくても携帯は部屋の中、部屋には鍵がかかってる、どうしよう、どうしたらいい……?ぐるぐる、ぐるぐる、考えながら5分くらい座り込んでいたと思う。

 側の道を歩くカップルの声が聞こえた時、『そこの二人に助けを求めたらびっくりされちゃうよね』などと思いながらようやく立ち上がる。ゾンビみたいな足取りで廊下を戻り、ゆっくりと階段を降りて目の前の私道に出た時、白いトラックが止まっているのが目に入った。

 中に人がいるかも。その人に助けを求めよう。ゆっくりゆっくり近づき、助手席側の窓をノックして、くつろいでいるおじさん(推定60代)に声をかけた。

「すみません、そこのアパートの2階から落っこちたんで、救急車を呼んでもらえますか」

 多少くぐもっていたけれど、言葉はちゃんと出た。車から出てきたおじさんにもう少し状況を説明し、救急車を呼んでもらう。見ず知らずの人(しかも建築現場にきてただけの人)に迷惑をかけて申し訳ないと思いながらも、とりあえず何とかなりそうだと少し安心した。


 救急車を待つ間、トラックの近くに座ってぼんやりしていた。助けを求めることができたせいか、少し気持ちが落ちついてきたように思う。頭の中は基本『どうしよう……』と『やっちゃった……』が渦巻いていたけれど、仕方ないという諦めの気持ちも出てきていた。

 建物の死角になって見えない自宅の窓の方を眺め、『ラ◯ュタだったら飛行石があったのに』とか、『「親方ー、空から女の子がー!」じゃなくて、「親方ー、窓からおばちゃんがー!」だよね(苦笑)』とか、どうでもいいことを考えられるようになったのも、この時だった。

 不思議なことに、落ちた直後からずっと気絶することなく意識ははっきりしていた。記憶が途切れた瞬間もない。多少頭がぼんやりしているかな、程度。痛むのは主に顎や口のあたり。時々右胸の脇に近いところがひりっと痛むけれど、すごく痛いわけじゃない。頭も腕も脚も胴体もどこも痛くなかった。

 119番への連絡が終わっておじさんが戻ってきた。私はお礼を伝える。救急車がくるまで、おじさんは近くで見守っていてくれた。なにが起きたのか説明したり、タオルを貸したいんだけど綺麗なのがなくてごめんとかそんなことを話しているうちに、10分~15分くらいで救急車が到着した。

 負傷者が女性一人と伝わっていたせいか、救急車1台だけできていたと思う(人出が必要になる可能性があるので、通常は救急車と消防車がセットでくる)

 

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Image by Jukka Aalho

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