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14/11/30

【夜と朝がつながっていた話】

Image by Olia Gozha

 先日娘と話していて,甦った大切な思い出。

 もう20年ほども前のことでしょうか。娘は当時,幼稚園に通っていました。何に対しても興味を抱く年頃,私は毎日,娘の質問攻めに合っていました。

「お父さん,お月様はどうして落ちてこないの?」

「お父さん,走ると汗がでるのはどうして?」

「お父さん,……」

 子どもの好奇心を大事にしたい私は,毎日返事をしていました。そんなある日,娘が思いつめたような顔で私に訊ねました。


「お父さん,わたしどうしても分からないことがあるの」

「なぁに?」

「あのね,夜と朝はつながってるのかなぁ」

 私は驚きました。自分が見ていることと見ていないことを連携させて考える幼稚園児に。

自分で考えてから質問する周到さに。

 そして,“科学する”心に。


 季節は夏。夜明けを見るためには相当早起きをしなければなりません。しかも晴れている日でなければ,収穫は少ないでしょう。私は夜が明ける頃の満天のグラデーションを娘に見せたかったのです。

 私達家族3人はある日の早朝,車に乗り込みました。自分が住んでいる場所には建物が多く建っていて,地平線を見ることができなかったからです。

 自分が想像したよりも,夜が明けるスピードが早い!ああもうだめかと思った瞬間,私の頭のなかには,『走れメロス』の一節が浮かんだのです。日が沈んだと思い諦めかけたメロスだったが,神殿からはまだ太陽が見えていたという,あの一節を。〜そうだ,山に登ろう。山に登ったほうが夜は明けているだろうが,きっと,まだ暗いところも見えるはずだ!


 私の予想は当たりました。山の頂上付近まで車で一気に駆け上がり,降車した私達の眼前には,360°大パノラマ,地平線のすべてが見えました。

「あっ,お父さん! すごい!」

 娘が叫びます。見ると,視界の右半分は未だ夜,左半分は朝を迎えているではないですか!それは見事なグラデーションでした。娘が興奮気味に叫びます。

「やっぱり,夜と朝はつながってたんだ〜!」

 あれはもう,記憶の彼方に追いやられていた風景。いつの日にかまた,もう一度体験してみたいと思いました。

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Image by Jukka Aalho

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