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「合唱廃人じゃあないですか」私にとって、これは最大級の賛美にして賛辞、そして憧れ、畏怖である。

Image by Olia Gozha

合唱キチ馬鹿一代

世間で「合唱バカ」だの、それも「合唱気違い」そう、気違い。それが私だ。馬鹿と呼ばれ、そうして、終いに精神科に通う(こういうのを、世間一般では「甘えの気違い」で「厄介で迷惑なメンヘラ」「頑張りが足りない」人間のことを言う)始末であった。

だので、合唱キチだの、廃人だのは、余程、私に評されたくはなかったであろう。



件の燦然と輝く、合唱廃人の話をしよう。そうだ、質素な打ち上げの際に、私は興奮の余り言ったのだ。「彼こそは今後の合唱界を牽引して行くに足る人です!」にやり、と、しかし(お前はまだまだ世の中を学べ)というような笑みを浮かべた。妥協を許さないし、常に上を目指すからこその称号だ。あやまたず私は二の句を継いだ。

「何せ、彼は世界一の合唱バカですから!」

その後ボッコボコのけちょんけちょんにされたのは言うまでも無い。

けれど私は、そこまで合唱に入れこみ、色々と異常なほど執着している人間に、これまで出会ったことがなかったのだ。伝説を挙げていくとしよう。

・ある日私は、Blogにそこそこコアな合唱曲について書き込んだ。大概、自己満足か備忘録の類いだ。しかし、その男は投稿数秒後に「長文の論評」及び「曲に関する裏話」を書き込んだのだ。僅か数秒で。いや、幾ら合唱好きだといえども、ここまでするだろうか…後にも先にも、これほどの人物を、私は見たことがない。

・「週に何日合唱してるんですか?」「9日」

・「合唱に俺が浮気しているのではない。お前が合唱に浮気されているのだ」

・ゲリラ合唱をして、逮捕されるまでが本番。逮捕される係は俺だが、何、合唱の為なら何でもない。

・理想の女は「飲む・食う・歌う」歌う。

の男はバカの話である。それが「燦然と輝く格好のいい先輩」に相当する。何故か。合唱キチガイ、と尊敬と畏怖と最高の賛辞で持って讃えられるにふさわしい、格好のいい「合唱バカ」だったからだ。


私の尊敬する先輩、先生とは、決ってそれである。慕っていた大学教授までもが「実は…」と告白してきた時は、卒倒しそうに…、ならない。嬉しい運命の悪戯だと、前のめりで嬉しく話を聞いた。みんな自称他称して言う。「私たちはおかしい」と。

時に彼ら彼女らは、合唱の為に薬を飲んだ。キョウセイハテキガンなる不味い漢方薬の話では無い(声枯れにはこれが一番に効くので常備しておくのだ)。精神安定剤である。「わたくしが駄目なせいでうまくいかないんだわ…」と、でも奮い立たせて壇上で指揮する為にそれを飲んだ。因みに彼女は大学入試と全国大会の日程がバッティングした為、正直に「わたくしその日は合唱の大会ですので行かれませんの」と言ったところ「君はふざけてるのか」と返されたらしい。先生が大真面目なのは言うまでも無いことだ。

間違いなく合唱気違いである。そして大人数の中、悩んでいる部員を見つけると優しく呼ぶ魔女のような能力も持つ(服も魔女のようで、口紅もくっきりと赤い)合唱界は狭いので、この前も地区の合唱大会でお会いした。相変わらず至らぬ点をいくつもいくつも述べていたが、さすがに団員に合わせた選曲、そして間の取り方や記号の処理の巧みさ、何より膨らませ方について彼女の表現はやはり他の追随を許さず唸らされた。

また凄いのが、


第一に。とは。ある意味イエス・キリストとも言える。

狂ったように合唱に全てを捧げることで、人口の決して多くはない——サウスパーク風にいえば、コーラスというものは「ゲイくさい(作中で用いられるスラング、要するに「ださい」の意)」らしい。ジーザス!そっちでもか!——合唱界の、合唱人たちの、希望になる。救済し導く存在になり得る。と、私は考える。

実際、キリスト教があってこそ、合唱文化が産まれたとも言える。ある合唱きち…いや、合唱狂いも教会になぞらえて、設立した団の名前やら語っていたりした。

私はその立ち上げ人、というより、入団の手引きをして下さった御仁があまりに活き活きと合唱の話をする。SNSで合唱の話をしたらば、すぐさま触れた曲全体へのレスポンス(合唱アニメや中学合唱にありがちではない、これまで誰も食いつかなかった、ただの「こんな合唱が好きでさあ、相変わらずだよー」的ある日こう訊ねた。

こそまさに、合唱界のキリスト、救世主であった。すくなくとも、私にとっては。


さっそく差別用語満載になってしまい申し訳ない。けれども、私は言わせてもらえれば正真正銘の気違い(鬱病、正確に言えば気分障害。睡眠障害と脅迫神経障害、摂食障害を持っている。程度は2級に相当する。ほぼ寝たきりであるし、お風呂にも入れない。病院に通うのも困難だ。こういった状況になると、2級取得を勧められる。3級はいないと思う。1級は…考えたくない。

億劫すぎるのとは違う、焦りが酷い、よくわからない。結局は怠けているのだから気違いなのだ。ここまで書くのに、休み休み、少なくとも半年はかかっているのではないか。

そして同性愛に関しても、よき友人が多くいる。トラブルにあった人も、真剣に悩む人も、幸せそうな人もそれぞれだ。私がすべてわかるとは言わないが、バイセクシャルの人を知らずに愛して当事者になったこともある。それでも好きだし、関係ないんじゃないだろうか。

個人的には、下手に腫れ物扱いされたり、説教喰らわされるよりは、「話が通じる限り」笑っていきたい所存だ。家にも障害者は多いのだが、その手の本が多くあって、それでも理解できてないとか、本ばっかり見てこっち見てくれないとか、なかなかに辛いものがあるぜ?頭いい人たちで、思いやりが裏目に出ちゃう人々なのは知っているけれども。


まあ何にせよ、人は何かをネタにされる魔の手からは絶対に逃れられない。だれでもかれでも、障害がなくたってバカにされる点のひとつやふたつ、あるでっしゃろ。それも言葉狩りする?大目に見ておくんなされ。


中学時代にして。私は早速彼女に出会いました。私の中学ときたら、何しろ吹奏楽の名門校でしたので、合唱部に入る奴ときたら、それはそれは馬鹿にされましたし(なんで栄光を掴まずにわざわざ合唱部になんか行くんだ、といった具合で。実際、合唱部へ見学に行くには、吹奏楽部の、渡り廊下で繰り広げられる派手な勧誘を突破して、埃っぽい音楽室に行くより他なかったのです)、第一『合唱』なんてものは、みんなの嫌われ者です。出来れば、教育くさい歌詞の「男子ーちゃんとやりなさいよー」なんつーのは、みんなやりたかあないに決まってます。

(だから今はNHKも根負けして、中学の部ではあれこれしてるんでしょうね…それで歌うかは、私時分の頃から効果がなかったので合唱部員がやるかといったらようわからんのですが)

合唱祭がなくてもこれなんですね。卒業式で辛うじて「大地讃頌」があったのですが、あれもいまいち意味がわからんのです。強いていえば反感を得ないように、という配慮でしょうか…プロ級の腕をもつピアニストの同級生がおり、不良どもを『ひとたびピアノを弾けば音楽で黙らせてしまう』程の腕前だったので、あれは流石としかいいようがありませんでした。

不良をも黙らせる音楽、というのは、確かに存在したのです。


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