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14/11/8

たまご(1996年作)

Image by Olia Gozha

僕がそのたまごを拾ったのは、桜の咲き始めた早春の日曜日でした。

たまごは、隣の狭い空き地で貧乏草に埋もれていました。

たまたま野良猫のミケを追いかけて空き地へ行った僕は、ミケの姿が見えないので生い茂った貧乏草をかき分けて探していたのです。

たまごはとってもきれいでした。つやつやとした表面は春の日差しを受けるとぴかぴかと光るのです。

僕はとにかく一目でそのたまごのことを気に入ってしまいました。

僕はたまごを見つけたことにすごくうきうきして、最近かまってくれなくなったミケのことなど、その時にはもう忘れていました。

たまごを家に持って帰った僕は、その時になってはじめてそれが何のたまごであるのかという疑問をもちました。

大きさは、スーパーで売っているニワトリのたまごL玉よりも一回りほど大きくて、表面はつるんとしています。

このあたりにいる動物は、猫か犬かネズミくらいなものでしょう。

僕はそれらの動物が卵から生まれるものでないことを既に知っていましたから、そのたまごから何がかえるのか全くわからなくなってしまいました。

けれども僕は、そのきれいなたまごをすごく気に入っていたので、僕の気に入るようなすばらしい生き物がかえるものだと勝手に思いこんで大切に暖めることにしました。

一週間が経ちました。一番のお気に入りのタオルにくるまったたまごは、大きくなってきました。たまごが大きくなるだなんて話は聞いたことがありませんでしたが、きっと中の生き物の成長に合わせてたまごも大きくなるのだろうと思いました。そして僕は中から何が生まれてくるのかすごく楽しみにするようになったのです。

たまごはそのあともどんどん大きくなっていきました。たまごの表面は相変わらずきらきらときれいでした。僕はたまごを見るたびに期待を膨らませ、そしてたまごはその期待に応えるかのように、輝きを増してゆくように見えました。

僕がたまごのことを思い出したのはついこの間のことです。拾ったときから十五年以上が経っていました。押入を整理しようとしてみつけたのです。

驚いたことに、たまごは腐っていませんでした。それどころかますます大きく、きれいになっていました。僕はたまごを玄関に飾ることにしてそっと抱え持ちました。たまごは何故か温かくて、今にも何かが生まれてきそうな気がしました。たまごの中でカツン、と乾いた音がしました。

僕はそれから毎日それを見るのを楽しみにしていました。ところが、どうしたことかたまごは僕が見るたびに光を失ってゆくのです。表面はだんだんとざらつき始めました。

僕はたまごの中に何があるのか、とても知りたくなりました。どうしても知りたくなったのです。何度もやめようと思ったのですが、それでも僕は知りたかった。

たまごを床に下ろしました。たまごは冷たくなっていました。そしてカラカラと音がするのです。ますます僕は中を見てみたくなりました。

僕はとうとう、殻を割りました。すると殻の下にまた殻があるのです。一回り小さくなったたまごを、僕はもう一度割ることにしました。殻の下にはまた殻がありました。そうやって殻の下には幾重にも殻があったのです。

そして今、僕は最後の殻を割ったところです。五ミリメートルにも満たない小さな僕が、おびえた目で僕を見つめています……

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