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いなくなった人たち 1

Image by Olia Gozha

もう10年くらい前の話、レンタルビデオ屋バイトで新しく入ってきた男の子。年齢は僕の一つ上で

順調に進学していたら大学3年生の年齢だが、高校は中退したらしい。

前のバイト先で知り合った女の子と付き合って同棲するために夜勤バイトを始めた、と笑いながら言っていた。

音楽の趣味が合ったので「黒夢」のライブビデオを貸してあげたりもした。

仕事の休憩中に職場のPCで何かを調べていた。そして「俺、子どもの頃からの持病があるんだけど10万人に1人しかかからない病気なんだよね」

今は女子大生の恋人との同棲を夢見て一人暮らしをしながらバイトをしているけど、

実家は都会の外れで飲食店を経営していて、母親と子どもの頃からずっと2人で生活。

病気の事もあって衝突が多く、ついに家を飛び出した、との事だった。

ある日、レジを見たら客の女の子と馴れ馴れしく話していてビデオの無料券を渡していた。

何を勝手にやってるのかと問いただしたらあれが恋人だという事だった。

そんな彼が無断欠勤をした。恋人から連絡があり出勤途中に倒れてしまい、

通行人の通報で救急車で運ばれたそうだった。

暫くして復帰した彼は「泡を噴いて倒れちゃったみたいです。今後はこんな事が無いように気をつけます!」と笑いながら言っていた。

しかしまた無断欠勤をした。今度は恋人からの連絡もなくそのままフェイドアウトで退職。

僕は「黒夢」のビデオも返してもらえないままだった。

一年くらいたった日、その恋人が客としてフラッと来た。僕は彼女の事を覚えていたが彼女は僕の事など当然覚えていないので

僕が彼は元気かと質問したら大変驚いていた。彼女も彼の近況は知らない、という事だった。そしてポツリと

「彼の名前、久しぶりに聞いたな……」と言って、静かに帰った。

今でもたまに彼は元気かと思うことがある。何の病気だったかも結局は良く知らない。

恋人だった彼女も、もしかしたら今は彼と一緒に生活しているのか、

そんな夢みたいな話もなく、ただの過去になってしまっていて、

時折彼の名前を思い出すくらいのことはしているのか、と気になってしまう。

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Image by Jukka Aalho

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